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紙の本
おちゃらけ文章の地平線の彼方に、著者でしかつづれないNYの魅力的な相貌が見えてくる好著
2010/10/09 22:07
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:yukkiebeer - この投稿者のレビュー一覧を見る
NY在住20年の著者リンコさんがニューヨーク情報満載で綴るコミックエッセイ。NYのサイキック(霊能者)、グルメ、スイーツ、ショッピング、そしてSATC(『セックス・アンド・ザ・シティ』)ツアー情報など、2009年現在のインフォメーションを、面白おかしく紹介してくれます。
リンコさんがこの本の中でKrispy Kremeドーナツのことを美味だとあまりにも褒めちぎるので、私も読了後に即行で食べに行ってしまいました。オリジナル・グレーズドとアップルパイを1個ずつ。いやぁリンコさんおっしゃる通り確かにおいしかった。
あっ私が行ったのはもちろんマンハッタンでもブルックリンでもなくて渋谷のお店ですが。
著者の綴る日本語は、一見するとおちゃらけ・能天気気味です。たとえば今回はこんな具合。
「テュルンテュルンの食感がウルトラリンコ好みだった。」
「それならフリフリ黒ピンクトリミングブリブリちょっとエッチっぽいセットもゲットだ!」
謹厳実直に綴るのなんてこっぱずかしいやとばかりに、ブログを気楽に綴るような調子のアップテンポで軽快な日本語が続きます。
しかし見えてくるんです。実は著者がかなりの読書家で豊富な語彙を持っていながらそれをあえて封印しているのが。それでもところどころに顔を出すんです、そんな能ある著者の隠した爪が。
「この世とあの世のあわい」
「至便」
「購(あがな)う」
「胴間声(どうまごえ)」
「たばかる」…。
実は人並み以上に具象絵画デッサンに長けていたピカソが、思い切りよくデフォルメした絵を描くかのような文章に、私は羨望の眼差しを向けてしまうのです。
実は異能の著者だからこそ、ニューヨークの実に魅力的な貌(かお)を次々と読者に差し出して見せることができるのです。
そして著者があとがきで一転まじめで感傷的に綴る文章がとても味わい深いのです。
「私も、成長しているような悪化しているような、見方によってどんな風にでも見えるこのニューヨークで、最高の自分ってどんなんかなと基本的な疑問を抱きながら、そこそこ適当にそこそこ真面目にやっていくのかな。」
「移り気で気まぐれで薄情で狭量で、温かくて頑固で感傷的な、年を取った恋人みたいなものかね、私のニューヨークは。」
そう綴る著者がニューヨークに向ける眼差しはまさに“思い人”に対するそれと同じ。
著者は次の作品でニューヨークのどんな新しい貌を見せてくれるのでしょうか。
私は次回作もきっと手にすることでしょう。
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