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紙の本
『いつ死んでも悔いはない』人の道を探求する剣聖石川義信を慕い人が集まる。悪漢たちをなぎ倒す幾多の闘いが痛快なアクションエンターテインメント。多彩で個性的な登場人物たちが昭和水滸伝の世界を創る。
2010/06/17 20:02
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:toku - この投稿者のレビュー一覧を見る
■あらすじ■
剣の達人石川義信は、ごろつきに襲われた友人・備前屋を助けるために、彼らを叩きのめした。
ところがその中に岡山県会議長の息子がいた。県会議長は、法を盾に義信の検挙を訴える。
義信は、彼を敬愛し身を案ずる警察署長や備前屋たちの勧めで、娘・雪乃とともに備前屋の義弟が営む名古屋の旅館に身を隠すものの、そこでの生活も長くは続かず、旅館の隠居・喜蔵の長女の亭主が構える神戸の山岡組に匿われることとなった。
あるとき、悶々とした日々を過ごしていた義信の元に、友人を襲ったごろつきの用心棒で剣術家の前原一刀が現れる。
義信に闘わずして負けた一刀は、颯爽とした好漢となっており、義信に倉敷での道場主の話を持ち込んだのだった。
かくして、義信が一刀とともに石川道場を構えると、彼を慕い頼って人々が集まりはじめた。
■書評■
北上次郎選『昭和エンターテインメント叢書』第四弾。
剣の道を通して己の心身を高めていた剣の達人石川義信が、悪漢たちとの幾多の闘いや多くの出会いによって、人のために生きる『人の道』の境地に達する姿を描いた作品。
この作品には、読者を惹き付ける多くの魅力がある。
○石川道場に降りかかる、息を呑む事件の数々。
○悪漢達をなぎ倒す義信や門人達の圧倒的な強さに痛快さを覚える格闘シーン。
○善悪問わず、多彩で個性的な登場人物たち。
○義信、日下組の大親分・欣五郎、欣五郎の懐刀・銀蔵、雲龍の政次郎ら、腹の据わった器の大きい人物。
本書のテーマは、これら物語を面白くする多くの要素によって照らされる、主人公・石川義信と日下組大親分・欣五郎の達する境地だろう。
「殺されても、いいではないか」と言った石川義信、「人の上に立つ者は、自分のことはあとまわしだ」と言い残した欣五郎。
人のために生き『いつ死んでも悔いはない』という、決然とした二人の姿が、強く印象に残る作品である。
物語は、新たな人物の登場によって次々と起こる事件や闘いによって進展していくが、大きく分けて四つの出来事が描かれている。
○義信が正義を貫いたために遭う不遇を乗り越え、人の縁によって道場主として出発する『石川道場編』
○日下組大親分の欣五郎を仇に狙うおさよの策略が巻き起こす、事件と争いを描いた『女策士編』
○かつて義信に痛い目に合わされた鉤手との闘いを描いた『鉤手一党編』
○港湾埋め立て事業を通して人の役に立つ目標に尽力する義信と、事業横取りを狙い工事妨害を行う土建屋相川組との闘いを描いた『港湾埋め立て工事編』
実際の見出しである各章『無名流石川道場之章』、『雲龍の政次郎之章』、『風虎の止三郎之章』(上巻)、『石川二十七人衆之章』、『甲斐槍術之章』、『剣聖への道』(下巻)は、ほぼ人物の登場に即して区切られたもの、この章をさらに細かく分けた各節は、物語の進展に見合ったもの。
この各節の見出しは絶妙なのだが、それが災いして、内容がなんとなく推量できてしまうことは、残念だった。
ところで物語の進展に寄与している登場人物たちは、善悪問わず多彩で個性的な者がばかりである。
それも因縁を持った人間関係が多く、ただでさえ個性的な人物が、濃厚な人間味を帯びて、生き生きと描かれている。
そのため物語の世界を創り出しているのは、主人公・石川義信より登場シーンの多い、悪漢も含めた名脇役たちだと感じられた。
また登場人物は、善悪にはっきり別れて勧善懲悪の傾向にあり、痛快な格闘シーンが目を引きがちであるが、罪を憎んで人を憎まずという義信の行動は、人のために生きるというテーマを浮かび上がらせている。
義信が、囚人達にも港湾埋め立て工事を手伝わせることを思いついたのも、世のために働く喜びを彼らに味わって欲しかったからだった。
その到達点とも言えるラストシーンは、己のみを鍛える剣の道から、人のために生きる人の道が成った証を描き、とても心地よい気持ちにさせる。
本の厚さ、内容の濃さともにボリューム満点の本書は、清々しい読後感をもたらすが、結末を想像させる最終節の見出しに要注意である。
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北上次郎選『昭和エンターテインメント叢書』
第一弾:ごろつき船
第二弾:大番
第三弾:半九郎闇日記
第四弾:昭和水滸伝
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