紙の本
「まだまだ知らないおもしろい本はきっとある。そのことだけは信じ続けたい。」と魚雷さん
2010/08/22 13:10
8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:佐々木 なおこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
三年前に読んだ『古本暮らし』の感動がよみがえってくる。
「手にとった瞬間、わけもわからずほしくなる。
心の針がふりきれる。
値段がいくらだろうが、財布の中にはいっている金額で買えるなら買う。
足りないときには取り置きしてもらう。
そんな本にめぐりあうのは、一年に一度あるかどうかだ。」
この一文に心がすい寄せられた。
古本熱をじわじわ温めつつも、実際にはそんな本に巡り会ったこともないのに、だ。
今回は、著者のサイン(おさかなマーク)入りを買うことができた。思いがけなく、嬉しかった。
あとがきによれば、一度は白紙になっていた二冊目の単行本の話を『本の雑誌』の近況欄に書いたところ、発行人の浜本茂さんから「うちから出しませんか」と打診されて、出版の運びとなったらしい。
「捨てる神あれば、なんとやら、ありがたすぎる話である。」と魚雷さん。まったくもって、その通りのありがたすぎる話だと、二冊目の単行本を読める喜びに浸りながら、私も強く思った。
前作同様、古本にまつわる魚雷さんの日々が綴られている。職業を聞かれたら「フリーライター」と答えるそうだが、どこか仕事に徹しきれてないと言う魚雷さん。暮らし続けている高円寺界隈の風景は多少変われども、彼の日々はさして変わることがないように思える。
日常生活を営みながら、そう掃除、洗濯、買い物をしながら、古本屋をまわり、喫茶店で本を読み、そして酒を飲む…。もちろん仕事の日以外の話だか、特に予定のない日の過ごし方としては、すこぶるいい感じ、である。(^-^)
魚雷さんおすすめの本がずらりと紹介されていて、
それがまた読みたくなるようなのが続出して、またまた本が付箋だらけになってしまった。
「世界は広い。でも心の琴線に国境はない。そのことを教えてくれたマイク・ロイコの『男のコラム』が現在品切れになっているのは残念というほかない。」
どんな手をつくしても探して読みたいと思う。
「今、わたしは山田風太郎を自分の中にとりこみたいとおもっている。(中略)そのときどきの局面において山田風太郎(のようなおじいさん)なら、どうおもうか、なにをいうかということが、なんとなく、わかるような状態になるのが今の読書の目的というか目標である。」
なんと素晴らしい読書の目標だろうか…と思う。
「文学を『頭から眞にうける年齢』ではなくなってはじめて、読んで身にしみる本というものがきっとあるはずだ。中村光夫がそうだった。正直にこんなにおもしろい批評家だとはおもわなかった。まだまだ知らないおもしろい本はきっとある。そのことだけは信じ続けたい。」
中村光夫さんって…、むふふふふ、気になりますねぇ。
そうして、古本の魅力って、かつて生きていた人からの熱い想いのこもったメッセージが詰まっているということなのだなぁと思うこと、しきりでした。どの本も読まれたがっている。自分にとって面白い本を探すのが、また古本の醍醐味でもあるわけで…。
いろんな本を読めば読むほど、また新しい本との出合いが生まれてくる。私は最近ようやく、本とは持っているものをすべて読むのは不可能であるとうことを身にしみて感じているのでした。だからこそ、自分が読んで感動した本は、一人でも多くの人に手渡したい、読んでもらいたいと思います。しみじみ。
紙の本
「デート」というドラマ
2019/05/24 15:49
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:おどおどさん - この投稿者のレビュー一覧を見る
に出てくる自称「高等遊民」の男性を思い出した。作者は、そこまで堕落していないだろうけどイラストの感じや、生き方が、どことなくあのドラマの高等遊民とかぶって、私の中では、魚雷さんを勝手に長谷川博己みたいな風貌のように思い浮かべて読んでしまうw
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読んだ期間*2010年7月28日〜7月31日
“世の中には、サラリーマンには向いていない種類の人間もいる。”
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分筆で自活を目指しながらも、なかなか食えず、心の琴線に響く作家たちの随筆(思想)を求めて古本街を彷徨う感じが昭和的。2010年に発行されたとは思えないような懐かしさが全編に漂っている。学生運動時代よりちょっとあとの生まれの著者かと思いきや、なんと同い年!!それはなかなかに自活は大変であったことでしょう。
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決して楽な暮らしではなさそうだが、ここで描かれる暮らしぶりには憧れを感じる。中央線沿いに住んで古本屋巡りがしたくなる。紹介されてる本何冊か買った。
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本の雑誌で書いている作家さんで、しかも本の雑誌社から出版、(*^_^*) というだけで読みたくなってしまったんだよね・・・。ずっとフリーライターで、それで自活できているわけではない、という魚雷さん。私よりはかなりお若い方なのに、昭和の時代を彷彿とさせるような本の趣味や人生観で、よくも悪くも、あぁ、この人はきっとこのまま生きていかれるんだろうなぁ、と。芯には強いものを持たれているみたいなのに、筆致は穏やか、かつ優しい。私も学生時代、古本屋さんにはよく通ったものだけど、(新潟にも目立たないながら昔ながらの古本屋さんって結構あってね)、ここのところはとんと御無沙汰だなぁ、なんて。でも・・・魚雷さん、コンテンポラリーの本には興味ないのかなぁ。昭和の作家たちの作品はいいよ、私も好きなものがたくさんあるけど、そこにもしかして逃げちゃってない??とまで言ったら言い過ぎかなぁ。
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皆さんの評価は厳しいですが、著者のような生き方はできぬものの、自分は気に入りました。未知の作家を沢山知ることができました。山田風太郎はまず読みたいですね。
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一番共感できたのは、活字についての文章ではなく、レンタルレコードを一泊二日で借りてはカセットに録音していたエピソードでした。私は著者より上の世代ですが、似たようなことを必死に?していた日々が確かにありました。
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『本と怠け者』と前後して届いたこっちの本も、たらたらと読んでいた。『古本暮らし』という本を出したあと、二冊目の単行本をつくろうとしていたのが、いろいろあって白紙になり、それが本の雑誌社から「うちで出しませんか」と打診され、しかも立ち消えになった本の担当だった人が本の雑誌社にはいって、この本の編集担当になった、という本(読んだことがあるような…と探したら、出た頃に『古本暮らし』を読んでいた)。
1 高円寺暮らし
2 わたしの本棚
3 夜型生活入門
という3つのパートに、なにやら時代をさかのぼったような写真があちこちに入って(これは荻原さんの本棚なんかなアと思われる写真もちらほらとある)、デザイナーさんが「雑誌みたいな本にしたい」と言ったとおり、ちょっと厚い、字の多い雑誌みたいにも見える本になっている。
高円寺で暮らしつづけていることや、勤め人にならなかった暮らしのことのほか、いろんな人の本(古本が多い)を読んだ話があれこれと書いてあって、荻原さんが読んでどう思ったかというのもたらたらと書いてある。出てくる本がややシブいこともあって、読んでいて、坪内祐三の『ストリートワイズ』とか『三茶日記』を思い出すところがあった。
「2 わたしの本棚」のなかで、関川夏央の『「名探偵」に名前はいらない』に、「学習塾を経営し、原発に労働者を送りこむヤクザの話」が入っているというのを読んで、最近『ヤクザと原発』という本が出てたっけなーと思った。荻原さんは「ここ数年、階層社会、格差社会という言葉がしきりにいわれているが、関川作品では70年代末からすでにそのことをとらえていた」(p.83)と書きとめている。
杉山平一の『低く翔べ』を、仕事のあいまにつまみ読みしながら、荻原さんはこんなことを書く。
▼正しい意見をいうことはたやすいが、その意見を通すことはむずかしい。
自分の考えですら、腹が減っていたり、食うに困る状況になったら、おもわぬ方向に変ってしまうかもしれない。まあ、そんなことをいちいち気にしていたら、何もいえなくなってしまう。
大げさなことはいわず、低い声でしゃべる。そうするとなかなか耳を傾けてもらえない。
それでも杉山平一は静かな、低い声で自らの意見を語りつづけようとする。(p.213)
そして、「健康」というタイトルの文章を引いてある。《有無をいわせぬ、平和とか聖戦とか、きれいごとが出てくるときは、嘘つけ、と私は呟く》などと。
巻末の表題作「活字と自活」は、荻原さん41歳の時、たぶん去年書かれたものだ。もとは「この十年」と題して書いたものだという。この十年の、荻原さんの愚痴のようなものが書いてある。この「活字と自活」の前のところまでにも、30をすぎ、40が近くなり、40になって、昔は読んでもぴんとこなかったことが分かるなあと思うようになったとか、10代や20代の頃にはこんなことを考えていたが今は…といった話があちらこちらに書いてあって、私も、あーそれわかるなーと思うことがいろいろとあった。
▼「三十歳まで続けることができればどうにかなる」という言葉の意味はわかるようになった。���のくらいの齢まで続けていると、ほかの選択肢がどんどんなくなってくる。
どんな仕事にも、向き不向きがある。
やりたいことを考えるのもいいが、やりたくないことを考えるのもいいのではないかと思う。
冷静に自分の欠陥、欠点を見つめれば、できないことの範囲が定まってくる。
おそらく好きな仕事に就くことよりも、自分のやっている仕事を好きになることのほうが簡単である。
そのことを昔の自分に教えてやりたい。(pp.246-247)
ふと、「路頭に迷う覚悟があれば」と、20年ほど前に先輩から言われた言葉を思い出す。その頃の自分に「覚悟」があったとは思わないが、先輩にそう言われた道を選んで、そこからまた転々としてきたなーと思う。
(12/23了)
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高円寺在住のライターである著者が中央線での暮らし方や身の回りの出来事について綴った一冊。本についての記述多し。著者のオススメ本には気になったものが多かったので今度読んでみようと思う。「中央線沿線は貧乏人には寛容だが文化格差(差別)みたいなものは他の町よりも厳しい」という一文は、思わず笑いながら首肯してしまった。
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高円寺系で古本屋マニアで売れないライター
携帯電話もクレジットカードも持たず、国民年金も払っていないが
結婚はしている
なんか不思議な人
1969年生まれの人だが、本の好みも渋い
マンガで言えばあすなひろしや永嶋慎二
作家で言えば尾崎一雄とか辻潤とか
マイク・ロイコは図書館にあったから、
そのうち読んでみよう
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新宿から西に延びるJR中央線。井伏鱒二等の文士が住み、
言葉で表すのは少々難しい独特の文化を持った地域だ。
専門学校や社会人になってから出会った友人・知人の
なかでも、デザイナー、イラストレーター、演劇関係、
音楽関係の仕事に就いている人の多くがこの中央線
沿線の住人だった。
サブカルチャー指向が強いと言ったらいいのかな?
でも、とんがっている訳でもなく、なんだかゆる~く
生きている知り合いがほとんど。
本書の著者も中央線文化のなかで生活をしており、そんな
中央線沿線で過ごす日々や、音楽、本についてのエッセイが
詰まっている。
掃除して、洗濯して、散歩がてらに古本屋を覗いて、喫茶店で
本を読みながら一休みして、夜になったら酒場へ出かけ…。
同じ著者の『本と怠け者』もよかったけれど、本書も力を抜いた
生活がうかがい知れる。
「やりたくないことはやらない」
作家・山田風太郎の座右の銘だそうだ。著書もそんな風に生きて
いるように思う。
でも、年金は払った方がいいと思うけど。
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荻原さんの本、何冊目だろうか。「渾身の一作を作りたいと思った」とのこと。バラエティに富んだ内容で、私にはこれが一番面白かった。
富んだと言いつつ、本について、自堕落について、自身の過去について…と、過去作でも取り上げられているような気もする。それでも、面白い。文章の構成も章ごとに違い、飽きないような配慮もされているんだろう。