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デフレの正体 経済は「人口の波」で動く みんなのレビュー

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みんなのレビュー498件

みんなの評価4.2

評価内訳

498 件中 1 件~ 15 件を表示

紙の本

20-40年前に胚胎された問題の顕在化ということ

2010/08/31 19:16

13人中、12人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:くにたち蟄居日記 - この投稿者のレビュー一覧を見る

 会社での友人に借りて読んだ。感想は三点だ。

 一点目。本書の主張は「生産年齢人口=現役世代の数の減少こそが、日本経済の問題である」という点に尽きる。消費する人が物理的に減少したことで内需縮小になったという話だ。
 この指摘は従来漫然と「経済成長」「GDP拡大」「内需拡大」と考えていた僕にとって明快な話だった。現役世代の減少とは20-40年前に胚胎された問題の顕在化であり、タイムマシンが無い僕らには処方箋が極めて限られているという点は良く分かった。

 二点目。では「内需」や「消費」とは何なのだろうか。
 「モッタイナイ」という考え方が、日本には伝統的にある。近年も見直されている。「浪費を慎む」という美徳と、内需拡大とはどのように折り合いがつけられるのか。著者は食糧問題に関して「現在の膨大な食品廃棄も見直されていくでしょう」(186頁)と言うが、その廃棄こそが食品業界にとっては「内需」だ。
人間の「浪費」に関しては、文化人類学の「贈与」という観点で見るなら、極めて人間らしい行為ということになるのかもしれないが、いずれにせよ、本書での著者は、この点に関しては明快な意見は無く、僕自身は尚更答えが出せない。

 三点目。著者は愛国者であることを強く感じた。
 企業が多国籍化していくなか、日本がこの状況であるなら、本社を移転してしまう可能性は常にあるのではないか。そう思いながら、読み続けた
 著者は地域振興を専門にしている。日本の市町村の99.9%を概ね私費で廻ったという。そんな著者の日本に対する偏愛が見て取れる。それは本書の後書きで著者が言う「美しい田園が織りなす日本」に集約されている。
著者は251頁で、日本人は日本を出ていけないと言いきっている。その思いが「日本の内需をなんとかしなくてはならない」という熱さとなっている一方、実際の企業等が、同じ熱を共有するかどうかは、僕には定かではない。

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紙の本

もうひとつのメッセージ

2010/09/19 23:40

9人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:雑読家 - この投稿者のレビュー一覧を見る

本書の主な内容は、そのタイトルである「デフレの正体」にたいする回答という意味では、いわゆる少子高齢化ではなく生産年齢人口と非生産年齢人口のバランス、しかも時間がたつにつれて起こる動的なバランス変化(平たく言えば波)がおこす問題をデータにもとづき仮設を立てたりして検証していることと言えるだろう。これを単なる人口増加や減少、あるいは筆者自身も軽蔑する「少子高齢化」が今の日本の諸問題の原因だと読んでしまえば勘違いもはなはだしいだろう。
しかし、私は本書にはもうひとつ、デフレの正体と同じかより重要な筆者のメッセージがあると思う。それは、冒頭の方に出てくるこの表現から始まる。「個別の数字や減少をきちっとチェックして、複雑に矛盾する事実をありのままに飲み込んで例外も含めて世の中の全体像を把握する。その中から帰納することで、あるいは矛盾を止揚することで、より蓋然性の高いセオリーを再構築する。」データに基づいた丁寧な解説、の合間に、そのメッセージがアドバイスのように顔を出すという具合だ。SY=数字を読まない、KY=空気しか読まない、GM=現場を見ないという調子で小気味よくも身につまされる忠告のようなものだ。東京大学を卒業し、米国でMBAを取得した筆者は、同じようなエリートをはじめとしてマスコミや多くの人が陥りがちな、「平均値や一般論だけをふりかざして、それに矛盾する現実からより現実的な規則性を帰納できないことに(異常値として排除することに)警告してくれている。地にしっかりと足がついた客観的考察論のイロハを丁寧に教えてくれるこの本は、人口問題の本に分類するだけではものたりない。科学者や技術者、それを目指す人にもおすすめである。
そして、白黒的にどうしても本書を批判したい人へも、「こいつは片隅の事実を誇張して自説を強引に正当化している、と決めつける前に、同じ数字を確認して、世間の空気から離れて(KYやめて)ぜひじっくり考えて」と優しく語りかけている。ここまで愛にみちたご指導を受けた以上、読者の背負った宿題も重い、といったらおおげさか。
内容はもちろん、何と表現すればよいのだろう、この複雑な世の中の問題を考察するための方法のアドバイスに、さわやかな読後感を感じた。星が5つでも足りないくらいだ。

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紙の本

全数調査データによる圧倒的な事実! いろいろ使えます!

2011/12/30 12:04

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:T.コージ - この投稿者のレビュー一覧を見る

 2011年の元旦、日本のこれからを考える経済番組で希望や可能性を語れる論者として紹介されたのが著者のマスメディア初登場。バブル崩壊後は大部分の論者が政治や社会を批判するばかり、そうでなければ意義不明の御用学者…という情況の中での新鮮な登場でした。日本全国ほとんどの自治体を歩いて回った著者の説得力ある主張にメディアが注目したのでしょう。現場からの見解であり、参照するデータも全数調査でもれがない全国規模のデータばかり。何らかの理論や先入観による言説ではなく全国の現場を直接見て、全国規模で長期スパンのデータとつき合せて考えられたのが本書の内容です。
 本書のベースになっているデータの特徴は以下。
 ・ソースはネットで公開されているものだけ
 ・全国調査のものだけ
 ・数値は絶対値のものだけ
 ・スパンは長期のものだけ

 『デフレの正体』で扱われている数値は全数調査のものばかりで調査対象の漏れがありません。全国を範囲とし対象となるもの全てが把握されている数字です。マーケテイングという名目で限られた範囲しか調査していないものとも根本的に違います。しかも変化率や対前年度比などの相対的な数値ではなく、個別の絶対数を長期にわたって把握したもの。それは事実を見るという一点にフォーカスしたスタンスのものです。統計値といいながら率(確率・変化率)しか見ない近視眼的な評価は除外されています。統計の本来の意味は揺るぎない絶対値を把握することであってスパンを限ったナントカ率で思考停止に陥ることではないからです。著者は20年間も景気が浮上しないという事実から、基本的に既存の経済のあり方が通用しなくなってきていることを念頭に現行?の経済学にも否定的です。まず現実を把握する…そこからノンジャンルで思索している著者は長期スパンで全国規模のある変化があることを発見…それが「人口の波」です。

●96、97年をピークにすべてが下降へ
 経済産業省の商業統計をはじめ、書籍・雑誌の売上、貨物総輸送量、旅客輸送量、ビールの販売量、1日あたりのタンパク質の摂取量や水道使用量…など多くの統計から導き出された共通の傾向があります。96、97年をピークに減少しはじめたという事実です。これこそが「人口の波」に影響されて変動する経済をはじめとした変化の現れでした。コンドラチェフの波以上にリアルなのは確か。

 小泉竹中路線の構造改革で格差が拡大した!という批判がよくあります。経済的に期待されたトリクルダウン効果がなかったのが原因ですが。そのいちばん大きな要因が「人口の波」だったのを著者はデータから読み取りました。私見では97年橋本内閣による消費税増税が、ようやくバブル崩壊から回復しそうだった景気の芽をつぶしてしまった事実はとても大きいと思いますが、もっと根源的な原因が「人口の波」だったのです。

 著者がマクロ理論に対して挑発的なスタンスなのは確かですが、ツラレた人間が多いものも確か。本書に対する「経済学的には、誤りだらけの本です」という経済学信奉者からの批判は、逆に経済学(その信奉者にとっての)が誤りだらけだということを証明してしまっているかもしれません(バブル崩壊以降の失われた20年間のあいだ無力だった言説(経済学?をはじめ)は無能無効であることは否定しにくいもの。すべてが日銀や政府だけの責任であるわけもなく、そういう状況下でまず的確な現状認識を示した本書は貴重です)。少なくともそれは私が知ってる経済学(剰余価値や限界効用といった価値を追究する学問)とは違います。本書のようにフィールドワークによって現実を直視した見解と、帳簿と簿価は普遍かつ不変だと思い込んで三面等価理論やマクロ経済学を教条としてしまっている立場と、どちらを一般の読者は評価するでしょう。50万部を超えて売れ続ける本書が照らし出すのは不況の現況や原因だけではなく、ネットで顕在化するイタイ言説や歪んだ認識の多さでもあるのかもしれません。

●理論ではなく現実をみる人たち(当たり前だけど)
 本書の特徴は繰り返しますがデータが全数調査、全国規模、長期間の変化というもの。全国規模で大きく長い変化を反映したものだといえるでしょう。
 本書が提起した「人口の波」の問題と関連する経済学上の考察が「世代会計」。この「世代会計」に基づいた本が『この国の経済常識はウソばかり』(トラスト立木)です。 重要なのは基本となる公的なデータ。そのデータを作る官僚の立場にいた著者の『ワケありな日本経済ー消費税が活力を奪う本当の理由』(武田知弘)は大企業の莫大な社内留保金についても言及している唯一の経済書かもしれません。日本のバブルとアメリカの関係など興味深い見解もあります。
 以上の3冊はバブル崩壊以降の日本の社会・経済をめぐる状態について現実を直視した必読の本。ナゼだか3名とも経済学者ではありませんが…。
 経済の大きな動因ともなる政治的なファクターも含めてグローバルなレベルから日本と世界を俯瞰しているのが『超マクロ展望 世界経済の真実』(水野和夫、萱野稔人)。イラク戦争がドルをめぐる戦いだったこと、日経平均株価がアメリカに左右される理由などラジカルな見解が続き、また3.11へ臨んだ日本人の姿勢に世界に冠たるものになる可能性だどが類推できる内容になっています。

 『デフレの正体』をはじめ以上は理論ではなく現実を直視するためには必読の4冊です。豊富なデータを読むだけでもためになります。また数値だらけのような読みにくさもありません。

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紙の本

普段、なんとなく「不景気」という言葉を使っています。

2011/04/17 17:44

4人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:龍. - この投稿者のレビュー一覧を見る

普段、なんとなく「不景気」という言葉を使っています。

景気さえよくなれば、経済が立ち直るとも思っています。しかし、本当にそうなのでしょうか?というのが本書が書かれた目的です。

景気の動向を表現する指標として、「GDP」「完全失業率」など様々なものがありますが、そもそもそれらの指標だけをみても今の日本経済の実態を理解することはできません。

国際競争力不足?

そんなことはありません。世界同時不況後でも日本の貿易黒字は確保されています。

でも肌で感じる不景気はどのうような理由からなのでしょうか?

様々な学者やコンサルタントが分析をしていますが、本書では「人口の波」で説明しています。

少子高齢化は周知の通りですが、生産年齢人口にスポットを当てているのです。このいわゆる働き盛りの層の絶対数の減少が消費にマイナスを影響を与え、景気を上向かせることができないとしているのです。

日本のお金持ちは、圧倒的に65歳以上の高齢層。この層の人々はお金を持っていても積極的な消費をしません。将来の生活の不安に備え、お金をためておくからです。しかし、そのほとんどが使うことなく亡くなってしまいます。そうなると相続でそのお金は子供に受け継がれますが、相続を受けた時点でその子供も65歳近くなっているという現実があります。つまり高齢者層の中だけでお金が受け渡され、そのおかねは一向に消費に回ることがないのです。

本書では、これら状況の打破のため国に頼るのではなく、個別企業の努力が必要だと説いています。実際、これら人口の波動く経済状況を先読みするとビジネスチャンスはたくさんあると思います。

また、若年層に所得を多く分配する仕組みも必要でしょう。

そして、国はそれら個別企業が動きやすいような税制や規制緩和などで支援していくという姿勢が望ましいです。

さすがはベストセラー。

一読の価値はあります。

龍.

http://ameblo.jp/12484/


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紙の本

高齢者がはたらかないのが原因なら,もっとべつのデフレ対策もあるのでは ?

2010/09/14 22:16

7人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:Kana - この投稿者のレビュー一覧を見る

著者は,おちいりやすい,さまざまな思い込みを切って捨て,デフレの正体は生産年齢人口つまり現役世代の減少だといっている. ほかに原因がないのかということをべつにすれば,はたらかない高齢者がふえれば内需が不振になるというのは,すなおに納得できる. それに対する対策として,著者があげているのは,高齢富裕層から若者への所得移転,女性の就労と経営参加,外国人観光客・短期定住客の受入である. それらが対策となりうるのも理解できるが,それだけなのだろうか. 健康な高齢者がふえているなかで,高齢者にもはたらいてもらって,もっと消費をふやしてもらうという対策もありそうにおもうのだが,それについてはふれられていない.

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紙の本

独自性と説得力

2011/02/26 10:06

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:Genpyon - この投稿者のレビュー一覧を見る

本著は、デフレの正体という大きな問題に対して人口の波が原因という切り口から説明を試み、現状のデフレ対策を批判し、著者の対策を提案する。

デフレの正体という問題自体が大きなものであるため、一冊の著書として語るのであれば、ある切り口に偏って説明を行わざるを得ず、この著書も、やはり、切り口は一面的なものとなってしまっている。しかしながら、この著者の切り口には独自性があり、また、その切り口に基づいて説得力のある論旨が展開されている。

率よりも絶対数が世の中の実感と一致するという面を前面に押し出した著者の論の進め方は、なるほどと思わされる点が多いし、著者のいうデフレの原因は人口の波が原因という説も、マンモス団地の高齢化という現実の大規模版と考えられそうで、なるほどそれも原因の一つだろうと納得できる。

本著は、さらに、現状のデフレ対策の批判や著者の提案する対策といった内容に進んでいくが、それに従って、それまでの説得的な論の進め方は影をひそめていく。逆に、公演ならではのおしゃべり的な内容がそのまま著書となってしまった印象が大きくなっていき、すっきりと読み終わることができないのが残念だ。

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人口動態からものごとを考えるという姿勢

2019/07/11 10:29

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:ぱぴぷ - この投稿者のレビュー一覧を見る

『世界まちかど地政学』の著者だったのか!ということで、今更ながらこの『デフレの正体』を読んだ。

人口動態からものごとを考えるという視点とその重要性を訴えてくれるという意味で、今読んでも有意義だと思う。人口が減っているのに、高齢者人口がどんどん増え、生産者人口は減っている日本。外国人労働者が入ってきても、引退した団塊世代の穴埋めは2割ぐらいしかできないという。しかし、本書に触れられていないが、AI化などで代替できる仕事もでてくるであろうし、人口が減ってきているなら、そもそも必要な仕事のポスト自体が減ってくるのではないだろうか?そして、雇用が増えるとしたら、それは、介護ロボットが開発されているとはいえ、機械化が難しそうで、且つますます増える高齢者を相手にすることが多い医療(看護)・介護分野なのではないかと思った。働く側も、サービスを受ける側も医療(看護)・介護分野ばかりという未来もどうかと思うので、我々高齢者予備軍は、健康寿命の延長に努めるのが肝要かと思った。

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紙の本

本書の原題は「シルバー津波」であったそうな

2016/01/25 23:08

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:ホンの無視 - この投稿者のレビュー一覧を見る

本書を読み終わった後、
著者が読者に一番伝えたいのは「デフレの正体」ではなく、
副題の「経済は「人口の波」で動く」の方ではなかろうか、と強く感じた。

と言うのも、本書よりも前に著者が記した地域経済に関する著作は「人口」に焦点を当てたもので、
本書においても、日本経済の問題点として挙げているのは、
「人口の波」として指摘している高齢化人口の増加による「人口オーナス」である。

とあるテレビ番組にて、本書に関する著者へのインタビューを見たことがあるが、
そこで著者による本書の題名に関するコメントを聞くことができた。
いわく、本書の題名は、もともとシンガポール元首相のリー・クワンユーが警鐘を鳴らしたといわれる、
高齢化による人口オーナスの波、いわゆる「シルバー・ツナミ」にしようと思っていたとのこと。
しかし、出版社の方からもっと売れそうな題名に変える様に言われ、
この本の題名に落ち着いたという経緯があったそうだ。
また、その際に一部内容を書き足したと言っていたが、
それこそまさに、この本を批判する人たちがこぞって持ち出す「著者のミクロ経済学への不理解が分かる内容」に関する部分の事を言っている様な気がしてならない。
個人的にも「経済分析に関わる部分は適当に済ましているのではないか」と思っていたので、
そう考えると腑に落ちる。

「デフレの正体」という題名にしたがゆえに、一躍脚光を浴び、
出版社の目論見は達せられたのかもしれないが、
本来の著者の主張から論点がずれてしまったような気がする。

内容そのものは悪くない。
「デフレの正体」という題名だが、
「デフレへの処方箋」という見方をせずに読んだ方がきっと楽しめる。

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紙の本

金融屋の限界を露呈。バブル崩壊以後の「失われた20年」。このすべてを人口動態(少子化と高齢化)で説明しようとしているが、ちょっと無理というか大いなる違和感がある。

2010/09/13 11:15

26人中、11人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:塩津計 - この投稿者のレビュー一覧を見る

このところ人口動態論が盛んである。この裏には中国の高度成長があって、なんか「人口が増えることは良いことだ」「人口が増える限り経済は成長する」「人口大国=経済大国」を当然の前提とするような軽佻浮薄な議論が目立つ。時流に乗っている馬鹿が世の中いかに多いかを示している訳だが、その多くが金融関係者であることに私は眉をひそめている。

そもそもマルサスが人口論を著した当時から人口爆発は喜ぶべき事柄ではなく、憂うべき事柄であり、人口問題はすべての人類にとって解決しなければならない、克服しなければならないマイナス現象だったのだ。明治維新の当時だいたい3000万人だった日本が昭和に入り7000万人にまで増えたのは本書に書いてある通りだが、じゃあ、当時の日本の政府関係が日本の人口増加を経済成長・内需拡大をもたらす慶事と大喜びしていたか?正反対である。日本が台湾、朝鮮、満州、中国と植民地獲得に乗り出した最大の理由は人口問題だった。「毎年60万人増える日本の人口をどうやって養うというのか。満州に移民をどんどん出せ」が植民地獲得競争に飛び込んだ日本の指導層の合言葉だった。ブラジルやペルー、ハワイ、カリフォルニアに移民を送り出したのも人口問題を解決するためだし、戦後、日本政府が率先して行った「家族計画」の普及も「これ以上人口が増えると日本人は飢える」という切実な思いがあったからこそだ。中国が一人っ子政策を強力に推し進めたのもマルサスの人口論を他人事でないと感じたからであろう。

それがどうだろう。本書では人口増加こそが日本の高度成長の最大の理由であり、それが止まったことが日本経済のデフレ化、内需低迷の最大要因だと論じている。違うんじゃないか。

本書では90年代に日本の競争力を阻んでいる三つの過剰、債務過剰、人件費過剰、資産過剰が「GDP」の計算上はプラス要因であり、それらを削減することが、あたかも間違いであるかのようなイメージ操作が行われている。東京の23区内で事務所を借りてビジネスをしたことのある人ならすぐわかるが、日本の都心では地価と家賃が高すぎて、働いても働いても地主の奴隷宜しく付加価値の大半が家賃として地主に吸い上げられ、返す刀で電気代その他の光熱費で2重3重に地主に搾取される構造が出来上がっている。これこそが問題であるはずなのに、「高すぎる不動産こそ日本経済が抱える最大の問題」という指摘は本書のどこにも出てこない。

高すぎる家賃がなぜ問題なのかは、個人の生活を考えればすぐ了解できるだろう。この20年、地主階級の政党である自由民主党は国も地方自治体もあらゆる政策を動員して「日本の地価を如何に買い支えるか」ばかりをやってきた。土建屋の寄り合いと化した地方自治体では各都道府県の土地公社がフル活用され、借金して土地を買いあさり、ニッチもサッチも行かなくなっている。年金基金を悪用してのグリーンピア以下も僻地の土地を公金を使って法外な価格で買い上げること自体が目的で、後の運用には興味が無かったから気がつくと誰も使いたくない行きたくない僻地に膨大な数の旅館が出来て、最後は清算された。この20年、政府と銀行は「日本の若者に如何に大量のローンを組ませ30代前半でマンションを取得させるか」ばかりを行ってきた。曰く「今ならこれだけ税金がお得」「金利は今が最低水準」。この結果、本来もっと子育てにカネをかけ、もっと家族で旅行を楽しむべき若年カップルの家計は住宅ローンの返済でパンパンであり、中には40の声を聞く前にローン返済に行き詰まるカップルも出てきた。本書に書いてある数少ない真実は「人口動態は住宅価格に決定的影響を及ぼす」という点で、日本の地価、とりわけ東京都心の地価が、なぜ異常な高騰を見せたかと言うと日本史上最大の人口集中が東京に発生したからであり、「同じことは2度と起きない」というところだろう。団塊の世代の住宅取得は完全に終了しており、これから彼らは持ち家の売却に動き始める。人間の寿命の波は65歳にひとつのピークを迎えるので、団塊の世代が65歳に差しかかる頃、最初の「死」の大波が彼らを襲うことになる。すると大量の住宅が売りに出され東京を中心とする首都の地価は劇的に下がるだろう。この一大スペクタクルを我々はこれから見物できるのだ。

それに日本の流通業の生産性が低い理由について、ほとんど何も分析がなされていないのも気になる。なぜアメリカのウォルマートの利益率が高く、なぜ日本の食品スーパー、デパートの利益率(生産性)が低いのか。それは出店コスト(つまり地価、家賃)が高すぎることと、もうひとつ、日本の流通業が出店しすぎていることが大きいのである。本書にも出てくるが、日本では駅前に商店街がないこと、にぎわいがないことが、あたかも悪いことのように報道されることが多いが、そもそもどうして駅前に商店街がある必要があろう。外国に住んだことのある人なら理解できると思うが英国にしてもアメリカにしてもフランスにしてもドイツにしても鉄道の駅を中心に商店街があって賑わっているケースなんてほとんどない。荒野の真ん中にポツンと駅がある。そっちの方が普通だ。商店街は商店街として別の場所にあって、しかも郊外に大型アウトレットが出来れば、人口重心もそちらにシフトする。日本では「駅前シャッター通りの活性化」ばかりが報道されるが、そんな商店街、とっととブルドーザーで踏みつぶして更地にして、駐車場にでもすれば、日本の駅前も「欧米並み」になろうというものだ。鉄道中心の街並み形成とは鉄道しかなかった過去の時代の、時代遅れのコンセプトであり、道路整備が進み自動車保有が進んだ現在、「街並み」に関する考え方も時代に合わせて修正する必要があるのに、既得権益者(駅前商店街組合)の走狗に堕した自民党には、この改革が出来なかった。日本はこれから人口が大幅に減少し始める。それでも内需を拡大することは可能だと私は思っている。そもそも日本の高度成長は人口の75%が農村に住んでいた昭和30年代に、彼らを農村から引きはがし、都市に移動させたことから起こった。人口の膨張でなく、人口の移動が経済を成長させたのだ。だったら同じことをやれば内需は拡大する。具体的には地方交付税の給付を大幅に減らし、住めないイナカを大量に作って都市に移動させればよいのだ。これを飾って言うとコンパクトシティになる。「都市に人口集中させれば都市の地価が上がるじゃないか」と言う人がいるかもしれないが心配は御無用である。東京には未利用の空間が膨大にある。未利用の建ぺい率にも固定資産税を容赦なく課税するようにすれば、都心は一斉に高層化する。床面積が一挙に増えればマンション価格は暴落するのである。山手線の内側に150平米のマンションが3千万円台で買えるようになれば、3人兄弟、4人兄弟は当たり前になるかもしれない(笑。


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2011/11/21 22:44

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2010/09/29 20:26

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