投稿元:
レビューを見る
会社がある日、戦場になる。戦い方を知っていますか? 激務の果てに職場で倒れ、生死の境をさまよった末、会社の都合で理不尽なリストラ。法律知識ゼロから立ち上がったエム。その時会社はどう対処したのか。ひとごとではすまない、リアルで怖くて、そして抱腹絶倒のジェットコースター・ノンフィクション。社員にも会社にも今すぐ役立つ弁護士監修法律解説付き。
(「BOOK」データベースより)
いや・・・。ここまでひどい企業ってあるのか?!
シングルマザーで、だけど仕事に対する情熱は人一倍持っていて、当然キャリアもあるし仕事も出来る著者エムさん。彼女が転職先を選ぶ際に一番重視したところは「やりがいのある仕事ができるかどうか」。とにかく彼女は自分の仕事が好きなのだ。
そして選んだ企業。面接の際に現場責任者が言ったのだ。「本当にやる気がある人に来てもらいたいんです」「仕事の価値って、時間やお金ではかれませんよね!やはり、やりがいでしょう!」。他にもより収入の多い会社が合ったにもかかわらず、この会社を選んだのはこの言葉が決め手だった。
さて、入社してみると・・・。彼女は仕事が早い。だから残業もせずにすむ。だったら帰るよね。そこへ直属の上司からの呼び出し。「部下が残っている間は一緒に残っていなさい。早く帰れるなんて、間違っても周囲に思わせないでください」
これは序の口。帯に書かれている文言を引用してみよう。すべて会社側が彼女に突きつけた言葉。
「タイムカードはありません」「明日からあなたの定時は夜の11時です」「あなたの部下を恋人と別れさせてください(恋人と会うために定時に帰られちゃ困るから)」「欠勤届と一緒に、退職願を出してください(つまりは病気でも休むな、這ってでも出てこい、ということ)」
とどめは、「あなたが勝手に倒れたんです。会社のせいにされても迷惑です」
なんて会社だ・・・。
けれど、エムさんはこの会社に尽くした。仕事が好きだったし、真面目なんだね。どんなに理不尽な要求にも一生懸命応えて結果を出そうとしてきたし、出してきた。感覚が麻痺していたという面もあるかと思う。毎日毎日怒鳴られ続ければ、自分が悪いのか・・・と思ってしまうのかもしれない。そうして夜中までサービス残業、早朝出勤、休日無しの日々を続けた結果、会社で倒れてしまう。救急車出動! 病名は「くも膜下出血」。生存率は50%だったらしい。大手術を乗り越え、意識が正常に戻ったのは、会社で倒れてから40時間後だった。
文字通り死にかけたにもかかわらず、エムさんは会社の人々に対して謝罪している。「ご迷惑をおかけします。復帰したら一生懸命頑張ります」と。
なんで?と不思議に思う。そこまで理不尽な会社で働き続けたいのは何故?
しかし、懸命にリハビリして復職した彼女に、会社は「あなたが勝手に倒れたんだ」という言葉を投げつけた。
ここで初めてエムさんはキレるわけだ。ここからが戦闘開始!
この会社は今、どうなっているんだろうか?
労働者を使い捨てにするような会社が長続きするとも思えないが。
エムさんは思う。「私はなんのために倒れ��まで働き続けたんだろう」
私は現在うつ病で休職中。ま、エムさんにはほど遠いが、それなりに労働環境は悪かった。業務に詳しくない上司の下で大きなプロジェクトをまかされ、しかも通常業務もこなさなければならない。プロジェクト開始の年に私以外の2人が異動となり、代わりに配属されたのは業務に詳しくない上司と、新規採用の真っ白な新人さん。そして、いろんなところから次から次へと舞い込む依頼。断り切れない私も悪い。いつしか夜も昼も平日も休日も仕事のことが頭から離れなくなった。夜も眠れない。通勤途中に赤信号を渡ろうとする。そんな状態。周りの人間全てが大きな河を挟んで向こう側にいるように思えた。私の後ろにも前にも隣にも誰もいない、と。
しばらく休職して復職すると、なんだかその頃私がやっていた業務はなんだったんだろうと虚しくなった。なんのためにあんなに一生懸命頑張ったんだろうと。だって、私が懸命に守っていた秩序が休んでいる間に簡単に壊れていたのだ。しかも、壊れても誰も何も言わない。気にしない。本当に、なんだったんだろう・・・。
まぁ、今では「使い物にならないヤツ」としてしか見られていないだろう。あの時、あんなに便利に都合良く使ってくれたのに。
そんな個人的な恨み辛みはおいといて(苦笑)。
本書には弁護士さんがところどころで解説を入れてくれている。これは、労働者側にも会社側にも役に立つ情報だ。知っておいて損はない。
一人の仕事熱心な女性が、愛した会社から裏切られ、戦いを挑む物語。もちろんノンフィクション(だからこそ怖い)。
エムさんは強い。精神的にも、肉体的にも。軽く読める文体で書かれているが、内容は凄惨だ。頭と心に響いてくる。彼女の強さの1000分の1でもいいから身につけたい。