紙の本
汚辱にまみれた日常生活に一条の清風を吹き込んでくれる
2011/02/09 19:17
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:あまでうす - この投稿者のレビュー一覧を見る
はじめはちっとも面白くないガキ小説かと文句を言いながら読んでいましたら、終わりごろ、全体の4分の3くらいから俄然面白くなってきて、最後は「さすがノーベル賞作家だけのことはあるなあ」と脱帽の一冊でありました。
著者はその都会的・文学的にねじ曲がった根性を叩き直すために、ペルーの少年士官学校に放り込まれたようですが、その寄宿舎生活での体験が色濃く反映された半自伝的な小説です。
そこでは飲酒、盗難、脱走、裏切り、不純異性交遊など、若き軍人候補生同級生たちが陥る乱脈で放恣な生態が赤裸々に描かれるとともに、上司である教官たちの腐敗堕落した無様な態度も暴きだされ、いずこの国にも共通する軍隊の非人間性と気狂い部落振りが鮮やかに活写されています。
しかし地獄にも仏がいまして、泥池にも蓮の花が咲くように、娑婆から隔離されたこの煉獄にも、清く正しく美しい魂の持主がいたのです。弱い仲間をいじめ、「悪中の悪」であったはずの少年、そして愚直なまでに己の信念を貫き通す指導教官が本書の最後に交わす短い会話が、私たちの汚辱にまみれた日常生活に一条の清風を吹き込んでくれるに違いありません。
紙の本
暴力が支配する社会を「肯定的」に描いた世紀の愚作
2011/02/20 14:17
6人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:K・I - この投稿者のレビュー一覧を見る
大江健三郎がリョサの作品をすすめていたので、読んだが、途中で読むのをやめた。
士官学校が舞台で、そこでは暴力が支配している。
同性を強姦する、小便を顔に浴びせる、給食にうんこを入れる。窃盗、罵声。
そして、その上にたつ上官たちもそれを暴力で押さえ込もうとする。
いや、彼らは別に押さえ込もうとも思っていない。暴力があって当然だという認識なのだ。
ここに軍隊の本質が現れていると思う。軍隊の本質は暴力だ。
リョサはそれをなんら批判することなく書く。むしろ肯定的とさえ捉えられるように。
ある意味でリョサは肯定はしていないのかもしれない。だが、判断を保留しているという点で少なくともそれを黙認している。
とにかく読んでいて胸糞悪くなる小説だった。そして、この士官学校の本質は現代の日本の学校の本質と同じなのだ。なぜ、いじめで子ども達が自殺するのだ?
良識ある大人たちは楽しめる小説なのかもしれないが、ナイーブな学校時代を送った僕にとっては受け入れられない小説だった。
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士官学校で繰り広げられるイジメの描写ばかりで最初はうんざりしてなかなか読み進められなかったが、物語半ばから面白くなり、それから一気に読み終えた。読後感はすっきり。ガルシア=マルケスよりもフォークナーっぽい。
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環境の理想と現実の苦しみがわかるひとならこの作品に描かれた居心地の悪い士官学校がそのまま日本のどこかの同じく居心地の悪い環境(学校や職場等)に当て嵌めることも容易ではないだろうか。そしてそれが結局は政治や国家の腐敗に糸を辿れば繋がっていることになるのもこの作品の最大のテーマであり、重みにもなっている。
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自分は安部公房からマルケスを知って、ラテンアメリカ文学の中でも特に注目されているバルガスリョサの初期の作品を読みたいと思い、読んでみました。この作品は安部公房やマルケスの閉鎖的な雰囲気は感じられなかったのですが、非常に面白く読めました。
ひねくれているようですが、解説で、「希望のある終わり方」と評されていたのは違うんじゃないかと思います。
ジャガーは「弱い者への優しさを知り、前向きに生きてゆく」のではなく、
これまで出てきた「救いのない大人」たちのようになると思います。
特に着目したのはジャガーとガンボア中尉の対話後ジャガーが破られた
電報を目にした場面です。
これから生まれ来る生命の可能性と、祝福、強く生きる姿勢にも捉えられるかもしれませんが、むしろ自分は中尉はジャガーの嫌悪の対象になったかもしれないと思います。
意志を貫き通して、名誉ある敗北を遂げた中尉が、結局それらの意味はなんだったかと考え(卑怯な伍長を、賢いと評し、憶えた軍律も無意味だったと回想しています)ささやかな幸せに「妥協」した、救いのない敗北者の様にも受け取れると思うのです。電報を見たときのジャガーの心境は描かれておらず、実際のところは分かりませんが。
又、ジャガーは後半、それらの出来事があった後で、奴隷の事を、
「いけすかない野郎だった」と言います。
当時の自分の感想ではなく、現在もそう思っているような気がしてなりません。もし、現在もその様に弱者を見ているとしたら、彼は他人を傷つけ続ける昔のままです。
そうやってみると、最後のシーンも意味が変わってきます。
ジャガーが昔の泥棒仲間と話したのは、ただの、お世話になった兄の友人に対する誠意、優しさではなく、ジャガーがまた泥棒をすることを暗示しているように思います。
自分には、やがてそれがテレサにばれて、
(もう泥棒はしないとジャガーはテレサに誓いました)
もはや愛する二人でなく、
これまでにでてきた、
愚痴っぽい、厭味ったらしい母親、
浮気性で、酒飲みで、傲慢な父親
になった、二人の姿が目に浮かぶようです。
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解説から先に読まないこと。よく分かる解説だが、せっかくの作家の工夫がだいなしになってしまう。リョサの多くの作品がそうであるように、この小説でも複数の話者が脈絡もなく代わる代わる登場しては、てんでに自分の生い立ちや家族関係、友人関係などを語り始める。誰が何の話をしているのか初めのうちはそれさえよく分からない。主人公たちは仲間うちではあだ名で呼ばれ、家庭では本名で呼ばれている。呼称のずれが誰が誰の話をしているのかをいつも以上に分かりづらくさせているのだ。再読を誘う巧妙な仕掛けといえるだろう。もちろん読み進めるにつれ、それはしだいに判明してくるのだが、最後まで明らかにされないこともある。解説はその仕掛けをばらしてしまっている。
様々な階層、地域、人種から集まってきた少年たちが寄宿生活を送る士官学校を舞台にした群像劇である。ペルーの中等学校は五年制で、リマにあるレオンシオン・プラド士官学校はその後半の三年を担当する。新入生は三年生と呼ばれる。士官学校ではあるが、軍人になろうとして入学してきた者ばかりではない。手のつけられない不良や男らしさを欠いた者、家名を汚した者など、軍隊式の厳しい訓練によって鍛えなおしたいという親の考えで放り込まれたものも少なくない。
富裕層の多いミラ・フローレス育ちのアルベルトは、神学校に在籍していたが学業に身が入らず成績が落ちたため父親によってここに放り込まれた口だ。あだ名は「詩人」。特に腕力はないがラブレターの代筆や猥褻本を書くことで、仲間からのいじめをまぬかれている。同じ組には上級生も勝てない「ジャガー」と呼ばれるボスが君臨する。組の誰もからいじめを受けるのが「奴隷」と呼ばれる少年。暴力が嫌いで手向かうことをしないのでいじめのターゲットになっている。
事の発端はジャガーが計画した試験問題の盗難が発覚したことである。犯人が名のり出ないため、当日歩哨の任にあった1組全員の外出が禁止される。密告があり仲間の一人が放校処分を受けることに。そんな時、演習中に発砲事故が起き死者が出る。
事故か故意による殺人か。生徒の信頼を集める一人の中尉が真相を暴こうとするが、上層部はスキャンダルを恐れ真相を闇に葬ろうとする。規律を守ろうとすればするほど、軍の中で孤立していく中尉。腐りきった大人たちに対し、犯人とそれを知る少年たちの懊悩は深い。左遷される中尉を救おうと、一人の少年が名のり出るが…。
すさまじいいじめの実態がこれでもかと執拗に描写されるので、読んでいて息苦しさを覚えるほどだ。上級生が下級生をいじめ、下級生は同じ組の中の弱い者をいじめる。いじめる側、いじめられる側、そして傍観者と、三者三様の心理が克明に綴られる。しかも、その間に挿入されるのは、年頃の少年らしい異性に対するナイーブ過ぎるほどの憧れやそれとは裏腹な性への関心。さらには両親との葛藤。
士官学校入学から卒業後までを描くが、その間にそれぞれの幼少年時の回想が絡む。もつれた糸を解きほぐすかのような最終場面での種明かしが実に鮮やか。それまでの救いのない世界に一陣の風が吹き込むようだ。リョサ流の青春小説であり、人格形成小説でもあ��。
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様々な立場の生徒の目線を織り交ぜながら、
ペルーの士官学校を描いた作品です。
抑圧された環境下での、
まるで糞みたいな、目も当てられない出来事を描いているため、
いやあな気持ちがこみ上げてくることは確かなのですが、
(日本のいじめがとりわけひどいなんてのは、
嘘だったのかと思うくらいのえげつなさです)
いやしかし、それも含めて、いま読んでよかったと個人的には思っています。
実際、テーマ、表現、ストーリー、構成は、
それぞれ、どれをとっても一級品と言えるでしょう。
とりわけ構成が上手いですね。
そういうタイプの作家と思っていなかっただけに、
ガツンとやられました。
事件のゆくえがどうなるのか、
読者をはらはらさせんがら読ませる技術も流石ですし、
ミステリ好きにもお勧めできる小説であります。
あ、そうそう、解説のところでは、
かなり物語の革新的なところまで踏み込んでいるので、
読み終えるまでは絶対に覗いちゃいけません。
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舞台は著者が在籍していた士官学校。件の学校で本作1500冊が燃やされたという凄まじい内容。マチスモという「男らしさ」賛美の美徳がある種の呪い・病理として学校や社会を貫く。主要登場人物の背景の描き方が斬新で思わず声を上げて驚いてしまった。
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レオンシオ・プラド士官学校は3年間の寄宿学校。厳しい訓練と指導が行われ、親の手に負えない悪たれやひ弱さが鍛えられることを期待される子供が集まってくる。新入生は人間以下の犬っころ。学年同士の闘争も激しい。生徒たちにとっては教官の目をかいくぐってのいじめや売買や盗みや飲酒喫煙が日常。ここで生き残るには知恵と力が必要だ。
文才と機転の利く“詩人”アルベルトはイカれた振りをして攻撃を煙に巻き、エロ小説とラブレターを売って金を稼ぐ。“ジャガー”は力で生徒たちに君臨し、組織を作り他学年と対立し、試験問題の売買を取り仕切る。ジャガーに逆らわなかった気弱なリガルド・アラナは“奴隷”と呼ばれ、いじめや盗みの対象となる。教官のガンボア中尉は生徒には厳しいがあくまでも軍律を守り中立に物事を判断するとして生徒たちから一目置かれる。
学校内で起きた試験問題盗難と密告事件、そして訓練の最中の生徒の死亡、それに対する殺人の告発。しかし学校関係の軍人は、殺人の告発を高圧な恐喝と左遷により握り潰す。
大人の監視下に置かれながら、大人社会の縮図を描き出す少年たちの世界を描いた作品。
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バルガス=リョサ初期の頃の長編作品。
物語は、三人称で語られる学校生活、一人称で荒々しく語られる生徒の内面から見た学校生活、そして三人の生徒たちの入学前のエピソードが入り混じりあう。現在と過去の会話を交錯させることにより状況を浮かび上がらせる手法、同一人物か別人かが最後にならないと分からない構成、多くの目線から語られる文体の違いによる作品の厚さなど、バルガス=リョサらしい手法が使わる。
権力やワルが正義をねじ伏せる構造だけれど、終盤はねじ伏せられた側も自分を貫いたり、新たな価値観を見つけたり、収まるところに収まったりと、割りとすっきりと読み終えました。
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いじめの場面はめちゃくちゃ腹立ったけど、やっぱりリョサはおもしろい。
時系列がばらばらで、誰の話かわからなかったりもするので、ひとつひとつのエピソードを心に留めるように意識して読んだ。
読み終わってすぐに再読したくなる小説。
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1963年発表、ペルーの作家バルガス=リョサ著。寄宿舎が設けられた士官学校では、生徒間で起こるいじめや暴力、酒や博奕、試験問題の盗難などがはびこっている。腐敗した環境は一定の秩序を保って安定していたが、生徒の一人が訓練中に銃で撃たれ負傷したことをきっかけに疑惑が飛び交い、破綻が訪れる。ストーリーは各断片ごとに、様々な登場人物、三者視点や自己視点、過去と未来が入り乱れる。
リョサの代表作として「緑の家」がよく挙げられるようだが、個人的にはこちらの方が好みだった。
とにかくまず少年達の生活の腐敗具合に驚く。これだけでもストーリーとしては十分面白いが、そこに時系列を崩すことで町にいた時の初々しい恋愛模様が入り込み、対比が生まれてハッとする。更に後半近くなって、それまでただの鬼教官のように見えていた中尉側の視点が入り込むと、事態の深刻さが露呈し、八方塞がりな雰囲気が満ちてくる。「緑の家」ではもう少し全体として平坦に感じられたのだが(あるいは小さい波がいくつかある感じか)、この小説は読めば読むほど興奮の水嵩が増していき、中盤以降はいつどこから崩れてもおかしくないような緊張状態が続く。スピード感で読者を引き込む小説とはまた違う、リョサらしい独特な手法だ。
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レオンシオ・プラド士官学校の雑多な雰囲気と乱れた風紀が、独特の重さ・暗さを持って伝わってきた。娑婆の明るさとの対比がまた見事…
いじめとその結末については、本当に痛々しい。一方で、当事者たちの精神的成熟の過程には、ある種の清々しさも感じる。
複雑な構成を整理しながら読まないと混乱するため、パートごとに誰がどういう行動を取っているか書き出しながら読み進めました。
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とても面白かったが、少し間延び感があったのと、道尾秀介みたいな叙述トリックが個人的には好きで無かった。面白いのに何故か、後何ページで終わるんだろうと思いながら読んでいる自分がいた。
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独白と物語が交錯して、主観と客観が入り混じる構成。読みにくいといえば読みにくいが、慣れてくれば深く浸れる感じ。個人的には、こういう複雑な構成はあまり得意ではないので、読むのに結構難儀しましたが、多角的な視野や思考が得意な方なら向いているのかもしれません。
また、ストーリーの冗長な感じが難しかったです。
それらを勘案して、星3つ。