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スペイン内戦と言えば、ピカソのゲルニカや国際旅団などを連想される方もおられるのではないでしょうか。
本書は題名の通り、このスペイン内戦をテーマにした本であり、訳者の後書きによれば(同テーマの書籍では)欧米で最も読まれているものとの事。
ソ連崩壊による機密解除に伴って新たに世に出てきた情報を組み入れた本書は、確かに「最も読まれている」と言う言葉にふさわしい本でした。
本の内容は、1936年から1939年の3年間に渡ったスペイン内戦の詳説とそれに至ったそれ以前のスペイン史、及び内戦終結後のスペイン国内情勢等の概説です。
それによれば、スペイン内戦の経緯は以下のようなもの。
スペインの王族、聖職者、軍は激しく腐敗して必要な社会改革を怠り、その結果、同国は衰退(20世紀初頭の平均寿命はおよそ35歳、識字率は36%)。
社会改革を求める強い圧力の結果行われた選挙では、無政府主義者や社会主義者、共産主義者などの左翼グループが軍部、王族支持派、キリスト教信者などの右翼グループに対して僅差で勝利。
これを受けて誕生した左翼政権は、僅差での勝利という事実を無視して、ドラスティックな国内改革を実行した所、それが右翼の強い反発を産み、ほとんど全ての軍部が参加したクーデターにつながる。
左翼政権はクーデーター初期段階でこれを鎮圧することも出来たが、法的な手続き問題にこだわる余り失敗。
その後、スペインはナチスドイツ及びイタリアの積極的な支援を受けた右翼・国民戦線と、実質ソ連からしか援助を受けられなかった左翼・共和国政府による3年間に渡る内戦に突入。
(権力闘争の結果)最高指導者となったフランコのもと統一した行動が出来た国民戦線。
その一方で共和国政府では、
・ソ連からの援助を背景に強い影響力を持った共産党がライバルである無政府主義者や社会主義者相手に「内戦のなかの内戦」を行った。
・共産党の強い影響下で繰り返し行われた、プロパガンダ目的の大規模なかつ無意味な軍事行動とその失敗を認めない姿勢が引き起こした自軍への大打撃。
・共産主義を警戒するイギリス、アメリカ等のエスタブリッシュメントたちのフランコへの支持。
と内憂外患状態。
最終的に共和国は、共産党と組んだ首相ネグリンがフランコが右翼で実現した(反対意見を一切認めない)政治体制の左翼版の構想を練るまでに落ちぶれてしまう。
そして幾度も繰り返された戦場での激しい抵抗にも関わらず、国民戦線が勝利。
勝者による敗者の(著者の表現を借りれば)「浄化」へ。
上下巻それぞれの巻末に戦場図や用語集、参考文献リストなどが記載されており、本文中で詳説されている戦場での各軍の動きなどと合わせて読むと理解が深まるかと思います。
尚、著者によればスペイン内戦から学ぶべき大切な教訓は
「大衆的な自己欺瞞こそが、現実をみずから直視できない指導者たちの処方する鎮静剤に他ならないということだ。そしてスペイン内戦が証明したように、戦争の最初の犠牲者は真理で��なく、その源泉である個人の良心と個人の公明正大さである」。
との事。
今に日本にも大いに当てはまる点があるのではないでしょうか。