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前半は看護学雑誌の連載もので自由なエッセイ、後半は論考集という二部構成。前半のエッセイが特によい。混沌とした患者の世界の描写と、ほんのり温かい薄明かりのような言葉の数々。混沌の世界に付き合いつつ、ちらちらと覗かせる著者の現実主義的な面も魅力的。そうして創り出された言葉が、患者にどんな変化をもたらしたのかについて、「わからない」と言い切ってしまう著者の態度が、むしろ潔くておもしろい。
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基本、筆者の経験に基づく考えが書かれている
・言葉
・統合失調症患者…「言葉」「思考回路」
・強迫神経症…「治療に用いた発想」
・うつ…「思考回路”取り返しがつかない”」
・心気症…「医療者側の態度”素っ気ない態度キープ。真剣に傾聴することで余計患者が不安にのめり込んでいくことも”」
・神経症・BPD・etc→相対的到達至難極というイメージからの自縄自縛
・顔むくんでない?とか太ったね。とか臭いね。とか…人殺しの言葉
・パーソナリティ障害症例
母親を殴った事への気まずさや自己嫌悪を雲散霧消させたいばかりに饒舌になったり強がったりおどけたり
※「ぜんぶ地表の下に隠したまま/木々は/花をさかせる/私たちの視野のなかで/おどけるために」
・「BPD患者への見捨てられ不安に対する言葉」「うつ患者への言葉」
・(幸福をもたらす言葉)
・不幸をもたらす言葉
”何もかも”
→カタルシスは生じず、感情の混乱が訪れる。本人も分かっているが発してしまう。依存症の様。
”やっぱり”
→先入観や思い込みが実際に証明された時。当人は悲劇のヒーロー的快感をどこかで味わっている。こちらとしては淡々としているのがベスト。こちらがうろたえることも向こうの想定範囲ゆえにそれは事態の悪化もたらす。
・クオリア…自分の経験から他人の経験を察することはできない
※しかし万能の言葉(大多数に当てはまる言葉)が有効であることも
・現場における考え
①その場しのぎ
現問題以外に深く介入することは良くない
②焦る必要はない、時間が解決してくれる
パーソナリティ障害患者、精神科医は治せない。歪曲した考えが、世間と和解したり、エネルギーが衰えるのを待つ。持久戦。
③神経症etc患者の「こだわり」を知る
こだわり=借金(悩み)の一本化。防衛機制である(悩みが単純化されたり、同情されることによる疾病利得)。それはプラスの面もマイナスの面もある「生きていく知恵(戦略)」である。こだわる人にはこだわらせておけば良い。そこの判断は本人にさせれば良い。
・パーソナリティ障害治療の要点
①理解する努力をする
②公正かつ信用に足る助言者として機能
③揺るがない(羅針盤のごとく)→安定感・安心感を与える
・BPDのキーワード…「特別」「例外」(自己愛etc)
※ゆえにストーカーにはBPDが多い
・反社会性パーソナリティ障害は司法が関与すべきケースが多い。出来ることと出来ないことを理解する(治療法はない)。
・うつ病患者の要点
①内的時間とてもスロー
②使命感・気遣い・自責感が過剰
③臨機応変が無理
④時としてこだわりを示す
・クレーマーは甘えから…対応の決め台詞は「悔しいです」
こちらがそちらの甘え(期待)に応えられない事が悔しいということ
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春日先生の著書はいずれも大変おもしろい。本書では、以前よりも温かいエピソードが多かったような気がする。「やさしい心」「不意の言葉」の章が印象に残った。
どちらかと言えば露悪的な語り口が絶妙なのだが、それだけにふとこうした慈しみがにじむような筆致は味わい深い。
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この人はいつも読ませる文章を書く。前半は統合失調症者の言動を詩になぞらえて表現、後半はパーソナリティ障害者の表現し辛い心理をうまく表現している。このように表現できればと思うが、真似が出来ないところが辛いところである。一般の人や初学者にも読みやすい本だろう。
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春日武彦は神経症や人格障害の感情や気分を言語的に表現するのが本当に上手い.
おそらく自分にもその心性があることを十分に理解していることと、豊富な臨床経験、文学についての膨大な知識があるためであろうと思う.
ところどころに見られる臨床のtipsの様な、考え方のようなものには大いに参考になるものが多い.
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春日武彦氏のエッセイというか文章を読むと言葉で疲れが癒えるとはあるのだなと思う。声を出して笑う。また、やるか。と思える。
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医療従事者が文学をも生業とすることは結構あって、なんとなくその理由がわかるような気がする本。患者を理解するのに、合理的な、検証済みの研究成果を当てはめるだけでは十分ではなく、それを超えた領域でないと理解しがたいことがあるんだろう、ということ、そして自身の救済のためなんだろう、と思った。そこに芸術の本質的な意義があるんだろうな。
精神科というのは本当に過酷で、色んな事例を読むと割と苦しくなる。そこに詩が、出てくることで、急にそこから視点がずれて逃れられる感じ。
それにしても、結構口が悪く、先生も人間なんだな、と改めて思う。
で、この本は前から本棚で見かけるたびになぜか目に入るなあ、と思ってたんだけど、最近私が気に入って読んでる穂村弘さんとの対談集を出してた。なんか、琴線に触れる部分があるんだな。