紙の本
実はその面白さをうまく語ることができないけど、好きな物語です。
2020/09/18 22:35
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投稿者:タオミチル - この投稿者のレビュー一覧を見る
この物語の魅力は、街の描写にあるのだろうか。取り立てて事件も何も起こらない日常的な普通の街。そこは都会とは少し離れたどこにでもありそうな静かな場所で、もちろん観光地でもない。
父母と子ども二人みたいな家族を標準とするならば、登場人物は、どこか欠けた不安定な家族。母と息子、祖父母と孫、伯父夫婦と甥...のような。
そして、彼らはそのことを憂うこともなく淡々と自分の役割を生きている。「物語」そのものも特にドラマチックではなく、他人は知られなくてもいいような静かな出来事だったりもする。しかし、気づけば、じっと息をころすように、その「物語」を読んでいる。自分の息遣いに時々驚かされるほどに集中しているときすらもあって驚いた。
紙の本
「雪沼」とは少し違います。
2015/07/17 23:50
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投稿者:オオバロニア - この投稿者のレビュー一覧を見る
本作は「雪沼とその周辺」と似たコンセプトの連作短編集ですが、少し趣が違いました。
「雪沼」は職人堅気の大人の視点から語られる「物の物語」でしたが、本作は子供の視点から語られる作品が多く、物への思い入れというよりは古き良き懐かしさを感じさせる物語でした。
両作品を読んでその違いを楽しむのも面白いかな、と思います。
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「じゃ、頭、流しますよ」
「頭を流されたら、わしは死んじまうよ」
こういうクスッと笑わせるセンスが好きだなぁ。
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連作短編集、というほど連作感がなかったので、その点がちょっとがっかり。同じ街を舞台にしているだけで、人々の交差はほとんどない。作品は嫌いではないけれど。
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頭にはいってこなくて挫折した。文庫のフォントとか改行の少なさとか行間スペースとかなんとなく読みにくかったせいもあるか。
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堀江敏幸の作品を読むといつも思うが、「こんなこと自分にもあった」という場面が出てくる。で、ちょっと自分にも小説が書けそうな気がしてくる。
まあ、作家にはなれなくても、自分の人生も結構小さなドラマがあるよな、と思わせてくれる。
「プリン」が一番良かった。
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堀江敏幸「未見坂」ぼーっとする頭で読んだ。http://tinyurl.com/3vqz4xy 短編集。家族の病気や死や両親の不仲によって意図せず日常からはみ出てしまってぎくしゃく暮らす、ある小さな町の住人たちの話。全体に不穏で不安定で仄暗いトーンで統一されている。(つづく
話の中のどの家庭も便利さを固辞して生活に手間をかけている。出てくる少年たちの寄る辺なさを、周囲の大人たちが控えめに言葉少なに、手を差し伸ばすわけではなくただ見守る感じがいい。旧型バスの移動商店の話は、ラストにきらきら眩しい光が射していてよかった。(おわり
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武田氏に勧められて、スノボ帰りのバス内で読んだ本。
どこにでもいる、でも一癖も二癖もある、人たちの日常を切り取った一冊。どこかに影を感じながら、それでも日常を生きていく、その決意を感じとることができる。文章は日常の描写をきめ細かく緻密に描き、読み手は想像力を総動員して文章の世界につかり、徐々にその全貌がわかってくるようになる。こんなに静かで、丁寧な小説は久しぶりだった。
最後の解説は、自分の言葉を代弁してくれたかのようにしっくりおちてきた。記念すべきブクログ第一弾!
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デジャビュ的な出来事を書いていながら何故だか凡庸にならないところが堀江敏幸の天才さで、プロフェッショナルな綱渡りを見ているような、あるいは、大体味がそろっちゃうような洋食じゃなくて、ほんとにうまい薄味の和食を食べたときに「あれ、これなんかうまい」って思うような、際立ったセンスのある人が手間をかけて作った素朴ごはん、って感じ。
気取ってないけど実は語彙もすごく多い、すらすら読めちゃうけどじっくり読むと結構情報量が多い、いちぶんいちぶんも結構長いし、意外と文章に癖もある。それにこの『未見坂』の場合、子供視点の話なのに、子供以上の視点で書かれているのだけど、それが意外にも気持ち悪くなかったのが不思議だった。「なつめ」は少し冒頭に苦しさの気配を感じたけれど…。
どちらかというと本人はアカデミズムの領域にいる人であるはずなのに、いやだからこそ岡目八目というのか、しかし、んまいなあ。
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雪沼とその周辺の方がどうやら私に実体のない懐かしさをくれる相性の良い「地域」のようで、未見坂という「地域」にはなかなか馴染みきれなかったのだけが残念。とてつもなくぼんやりしていて、イメージしきれないのです。でも、そのぼんやり感も、「随分昔の記憶で思い出せなくて悲しい」感じとも思えて、やっぱりいい。何より、登場人物の言葉として紡がれる言葉がやっぱり美しくて心地よい。好きだなー、好きだなー、とかなりお馬鹿な頭で読んでしまいました。個人的に一番気に入ったのは「苦い手」。好きな一行にペタペタ付箋を貼っていって後から見直してみると、この作品は付箋だらけでした。肥田さんをはじめ、登場人物の素朴さがとても好きです。
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【本の内容】
山肌に沿い立ち並ぶ鉄塔の列、かつて移動スーパーだった裏庭のボンネットバス、ゆるやかに見え実は急な未見坂の長い道路…。
時の流れのなか、小さな便利と老いの寂しさをともに受けいれながら、尾名川流域で同じ風景を眺めて暮らす住民たちのそれぞれの日常。
そこに、肉親との不意の離別に揺れる少年や女性の心情を重ねて映し出す、名作『雪沼とその周辺』に連なる短編小説集。
[ 目次 ]
[ POP ]
鎮守の森がある丘、常連客が噂話に興じる理髪店、自家製の団子を売るよろず屋……どこかなつかしい雰囲気が漂う架空の町を舞台に、人々の暮らしを丁寧に切り取った短篇集。
表題作は、都会から戻ってきて、地元の新聞記者になった37歳の女性が主人公。
小学校にあがる前から兄妹のように過ごしてきた「彦さん」に対する気持ちが変化した瞬間を描く。
[ おすすめ度 ]
☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
☆☆☆☆☆☆☆ 文章
☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
共感度(空振り三振・一部・参った!)
読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)
[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
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先日読んだ南木さんの「草すべり」もそうでしたが、読み始めると同時にグウッと沈み込むような感じがします。上手く表現できないのですが、これは褒め言葉です。
私の読書時間は朝夕の通勤電車。そんな環境でも、数行読み進めると周りの雑音が聞こえなくなり、視野もページの範囲に絞られ、ザワついていた精神がグッと沈静化するのです。
起承はともかく、転は有っても極わずかだし、結に至っては無いに等しい淡々とした物語。それだけでここまで引き込まれるのは、やはり堀江さんの端正で美しい文体のせいなのでしょうね。
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傑作『雪沼とその周辺』の姉妹編となる連作短篇集です。
とはいっても、『雪沼とその周辺』を未読でも十分に楽しめます。
『雪沼とその周辺』と本作は、どちらも静謐な文章によって紡がれた地域社会を舞台としています。両者の相違点を強いて挙げるとすれば、前者は総じて祝祭的であり、後者は総じて祝祭的でありながら陰影(たとえば入院、死亡、離婚などがもたらす陰影)にも富んでいます。
いずれも魅力的な作風ですが、印象の強さでいうと、構想の瑞々しさが伝わってくる『雪沼とその周辺』でしょうか。
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なんだかじわじわといい。
いろんなところでいろんな人が毎日を生きている。人物造形と描写が秀逸。でも「リアリティがある」というのとはなんだかちょっと違うような気がする。どこかにいそうな誰かたち。静かな町の静かな時間の中で、毎日汗を流したり、不安になったり、ぼんやりしたり、笑ったりしながら生きている人たち。〇〇さんという語り口が新鮮で、町内の人を語っているような印象を受ける。「ささやかな」という言葉がぴたりとくる物語。
メモを書いてるので参照すること。
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堀江敏幸「未見坂」半分ぐらいまで読んだが、なんともじわじわといい。静かな町の静かな時間の中で、毎日汗を流したり、不安になったり、ぼんやりしたり、笑ったりしながら生きている人たち。人物造形と描写が秀逸。
さらに読み進めてますが、さらにじわじわいといいです。「雪沼とその周辺」「いつか王子駅で」も読み返したくなってきました。ストーリーを語るための人物ではなくて、人物を語るためのストーリー。他人の人生を垣間見(覗き見?)するような感じもします。なんといっても静かな語り口がしっくりときます。
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山肌にドミノ倒しのように立ち並ぶ鉄塔、緩やかなように見えて実は急な未見坂、そこを走るバス路線、坂の中ほどにある今は老人ばかりが残された市営住宅、寂れた個人商店・・・。
尾名川流域の架空の土地に住む人たちのささやかな日常を描く物語は、子供の頃のどこか懐かしい匂いと、時代に取り残された寂しさを感じる。
同じ地域を舞台にした物語ということで「雪沼とその周辺」のような作品でありながら、それぞれの登場人物が重なる安易な連作短編になっていないところもいい。
堀江さんの作品を読むと、どんなもんだとばかりに意表をつくような小説や、紋切型の仰々しいキャッチコピーで飾られる小説がなんとも薄っぺらく思えて仕方がない。
なにが起こるわけでもない日々、だれの日常にもありそうな情景が他にはないというほど絶妙の言葉で描かれ、「あ~そんなことあったな~」と懐かしい気持ちにさせてくれる心地よさ。
自分の中にある原風景を反芻しつつ、いつまでも余韻に浸っていたくなる良質な物語でした。