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日本の社会保障制度の行き詰まりを検証しながら、消費税・所得税といった税制全般や年金制度・健康保険制度の現状・問題点を基本から解説し、それらを「一体」とした「抜本」的改革へ、踏み込んだ議論を展開している。
全体として盛りだくさんな上、制度の解説や精緻な試算を把握するのに少々手間取るが、丁寧に読めば(少なくとも政府の説明より)知識はすっきり頭に入ってくる。また、現在進行形の各種改革案についての解説や論評もあり、筆者の主張もたいへん明快で、税と社会保障についてきちっと考えたい人にはなかなかの良書かもしれない。
まだ出版されて間もないこともあるが、筆者の言うように「近い将来、政府や国会から示される改革案を、批判的に読解しその是非の判断を下せるようになる」ために、内容を踏み込んで紹介することは控え、かわりに一読をおすすめしたい。
前半部では消費税の利点と所得税の難点について触れられている。
庶民感覚としては「消費税増税」と聞けば「ノー」と答えるわけだが、筆者の解説を読むと、確かに消費税増税は「逆進性」として批判される以上に優れた機能を持ち合わせていることがわかる。
また、所得税は一律の「所得」に対してかかっているわけではなく、給与所得・事業所得・金融資産所得あるいは年金生活者の所得といった、ケースによって異なって算定される、という説明もたいへん勉強になる(大人には常識なのかもしれないけど…)。
一方、中盤の年金制度・健康保険制度については、とにかくお金の動き(わたしたち→国/地方→再分配という単純な仕組みではもはやない)が複雑である。どうりで国の予算とにらめっこしても、制度とそれにかかるお金の使われ方がさっぱり分からないわけである。そして、これがどうやら「税」と「社会保障」にまつわる嫌な感じの根源であるようだ。
そして、筆者の提案する「抜本改革」の中心の「給付つき税額控除」の話が終盤で展開される。税額控除とは、所得控除が「控除後に課税」しその税率の操作で所得に配慮するのに対し、「課税後に控除」しその控除額で所得に配慮するという方式である。さらに「給付つき」というのは、控除額が課税後の税額より高かった場合には、差額を支給してしまおうということである。
イギリスの例をひいて解説しつつ、一応日本での導入には高いハードルがあることも示している。しかし、なかなか魅力的な制度であるのは間違いない。
とにかく、税や社会保障も、制度の複雑さがもっとも問題であろう。
増税がやむをえないことは、国の歳入の半分が借金であり、国の歳出の半分がその返済であることからして、誰の目にも明らかなはずである。それでもわたしたちが増税に「ウン」と言えないのは、いったいその税がどこへ行きどこで使われるか、まったく不透明だからである。さらには、だからといってその道筋を説明できる人も説明してくれる人も存在しないからなのである。
根本的に、税とは、社会保険(年金・医療・介護)とは何なのか、まず政治や行政は考え直すべきである。そして、もし国家がその帰属を選べない人々に対し経済社会という主張を貫徹するならば、決して「歳出に必要な分だけ(���/社会保険料を)もぎとる」という“お上”の常識に甘んじることなく、できるだけ「(税/社会保険料は)払った分だけ還ってくる」という経済社会の法則に応ずるべきだと思う。そこから、「やはり国家は経済的再分配に携わるべきだ」という考え方を積み上げて、「払った分よりすこし還元が少ない場合があります」という方針が導かれるならば、それは当然受容さるべきことであろう。
どうか、増税を前提としたつまらない政争に明け暮れることなく、いまいちど改革の「理念」を規定しなおしてほしい。筆者も同趣旨のことを述べていたと思う。「理念」ある改革こそが、持続可能で、柔軟な改変の可能な制度設計につながる。行政なのか政治なのか、あるいは無知なわたしたちなのか、病巣などこの際どうでもよいのである。
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消費税の非課税取引にも、結局消費税が課税されているとは知らなかったなあ。
例えば、ポテトチップを買うと、買った消費者が消費税を負担する。
ポテトチップの生産者、製造販売業者は消費税額控除ができるので、消費税は負担なし。
かたや、病院に支払う診療報酬には、消費税はかからない。
しかし、病院は、電気・ガス・水道代や机、椅子、ベッドの購入代金の消費税は負担している。
なぜなら、消費税額控除が認められてないからだ。
だいたい消費税は、自分が1年間にいくら納税したか、簡単には分からないから嫌いだなあ。
所得税や住民税、自動車税や固定資産税なら簡単に分かる。
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【読書その113】久しぶりに社会保障関係の専門書。著者は社会保障審議会年金部会、日本年金機構評価部会の委員の日本総研の西沢和彦氏。現在政府で進めている社会保障と税の一体改革について学者の立場から論じた本。筆者は特に給付付き税額控除の可能性について論じている。なかなか今の部署で直接一体改革と関わることがないが、痛感したのは、自分の税制関係の知識不足。しっかり勉強しなおしたい。
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本書は税と社会保障の一体改革について書かれた本である。
税と社会保障の一体改革の話は、様々な論点があり、しかも各々が有機的に関連している。本書ではそれらの解説を試みており、なかなか解説しづらい分野を解説しているという点で有用である。同時に筆者自身も改革案を提示しており、批判ばかりする学者ではないことがわかる。
ただ、やはり制度を細かく突き詰めていかないと話の本筋が見えない分野であるため、どうしてもわかりにくさは生じてしまう(寧ろ、制度を先に勉強しないと理解が深まらないかもしれない)。加えて、それとは別に文章そのものが正直言ってあまりうまくないので、そういう意味での読みにくさもある。
また、本書が出版されたのが2011年6月である。流動性のある議論なので、今政府がどのような対応をとっているかをキャッチアップして行く必要は当然ながらある。
さらに、税と社会保障の一体改革はかなり広範な議論であり、論点も様々、着目する点も様々である。したがって解説するものによってポイントはかなり異なりうるものである。なので、本書にとどまらず、様々な学者なりの解説を知った方が望ましい。
以上のような留意点があるものの、税と社会保障について体系的にまとめた本はほとんどないため、そう言った意味では時代に即し有用な本である事は間違いないと思う。
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消費税増税が目前だが、社会保障の抜本改革なしには、焼け石に水であることはあきらかであるにも関わらず、抜本的対策を打たない政府。
明確なあるべき姿を打ち出せないなら、本書をベースに政策を打ち出せばどうかと思うほど、丁寧に整理されている。
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著者である西沢和彦氏の『年金制度はだれのものか』では現行の年金制度に特化した作品でしたが、タイトルに税とあるように今回は税金の話が中心になっており、年金、健康保険、所得税、消費税など財政の問題点を幅広く扱っています。
年金に関しては西沢氏がかねてから主張している世代間不公平論を中心に展開されています。
戦後復興まもない時代の生きてきた人と社会的インフラが整備された21世紀の人を単純に年金が多くもらえるから現在の受給者は不公平だとするのには違和感を感じます。
初心者に分かりやすく伝えるというより専門書としての色が強く、基礎知識がある上で読まないと難解な印象を受けると思うので、中級者・上級者向けの作品だと思います。
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これほど書いてある中身をそのものズバリで言い表している本は、最近はむしろ珍しいかもしれません。「なぜ○○は××なのか」といった、今となっては使い古されてしまったレトリックで読者の関心を惹こうという意図は全く見られないと言っていい。
「一体改革」ではなく「抜本改革」としているのも好い点で、この本を読んでいると、税制や社会保障に関する制度の見直し、組み替え、刷新というものが、本当に喫緊の課題となっていることが分かります。
この著者の本で最初に読んだのは『年金制度は誰のものか』でした。それに比べると、タイトル通り扱われている分野は遥かに広くなってます。
10章立てで、日本の税制と社会保障について前提として触れた後には消費税、個人所得課税、年金財政と年金制度、健康保険財政、国民皆保険、子ども手当、給付付き税額控除と、主な税と社会保障に関するトピックはほぼ網羅されていると思われます。
中身は結構、いやかなり難解です。税と社会保障について触れるため、必然的にそれらの算出根拠となるグラフや数字が出てくるんですが、それを読み込むのが大変。税や社会保障に関する予備知識が全くない状態でこの本を読み進めるのは厳しいかも。
その意味で、入門書としてではなく、ある程度は税や社会保障について知っていて、より深く問題点を明らかにしたい人や、問題意識を強めたい人に適した本なのではないかと思います。
ちなみに刊行されたのは2011年6月。つまり、震災を受けて税と社会保障に関する議論がいろいろと棚上げになっていて、しかもアホ鳩が日本をひっかき回した後、バカ菅が首相になって更に日本が混乱していた時期の背景を踏まえた議論なので、2013年3月現在の状況とはまた話が異なっています。その点は割り引くなり、新たに自分で情報を更新するなりしながら読まなければなりません。
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マイナンバーは税と社会保障の一体改革のツールであるのに、その議論が現実には深まっていない。市町村の税務行政を国税庁と統合する歳入庁構想や、給付付き税額控除など、そろそろ財務省が全面に出てきて議論を進めて欲しい。
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ちょっと古いんだけど、まだまだ役に立ちそうな本。
税等の構造の基礎から解説してくれているので、議論は置いといて単純な豆知識本としても役立つ。
消費税が、全額徴収されている訳じゃなくて、仕入に掛かった税額は引いてから支払う、とか、超大構造の要素なのに、実は知らなかったし(^-^;。
いろいろ、まじかぁ~てなった。。
とりあえず、本と、この赤字国債問題、早くなんとかしてほしい。
最近は災害とかコロナでどんどん赤字でがんばるしかないとこあるし、普段の事業費相手に、赤字垂れ流している場合じゃないー。