復元幻の大寺院 新薬師寺の謎に挑む みんなのレビュー

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投稿者：ドン・キホーテ　-　この投稿者のレビュー一覧を見る

奈良の高畑町と言って、すぐにピンとくる人は奈良好きの人であろう。春日大社の南方に位置し、鄙びた風景の広がる地域である。ここには春日の森にある『ささやきの径』を通り、志賀直哉邸の跡を横目に進むと新薬師寺に遭遇する。

　新薬師寺は色々な面で注目されている古代の寺である。それは現代の社会的な事件であったり、本堂に安置されている仏像（薬師如来と十二神将）の魅力であったり、様々である。３年前に通りを隔てて隣接する奈良教育大学の校舎建て替えによる発掘調査で、この寺が注目されることになった。

　大寺院の講堂あるいは金堂とおぼしき遺構が発見されたからである。これが現在は本堂と門しか遺されていない新薬師寺の金堂ではないかと大騒ぎになった。これが金堂だという推理は、その大きさが並みではないからである。東大寺の大仏殿ほど巨大なものと考えられるからである。

　　本書はNHKがプロジェクトを編成して、この金堂とそこに安置されていたと考えられる仏像をCGによって再現しようと、その経過をまとめて出版したものである。もちろん、テレビでも放映されたのでご覧になった方は多いと思われる。

　この金堂には今私たちが本堂で見られる十二神将と薬師如来が七体安置されていたという。CGでは十二神将の奈良時代のイメージが再現されている。つまり、着色されており、今からは想像の出来ない鮮やかな姿である。

　このプロジェクトは発掘によって再現する手法としてCGを利用したわけだが、本書を読むとそこに至るまでの様々な議論の過程がよく理解できる。薬師如来と脇にある菩薩像は黄金に輝くお姿であるが、それを守護する十二神将や四天王は極彩色なのである。奈良時代のこんなイメージは想像がつかない。

　このプロジェクトのメンバーになった奈良教育大、奈良文化財研究所の専門家が本書の執筆にあたっている。それぞれの専門は別々だが、専門違いの学者が集まってプロジェクトを結成したおかげで、部分部分の再現ではなく、新薬師寺薬師金堂とそこに安置されていた仏像群が見事にCGで再現されたのである。

　この金堂は何のために造られたのか、誰が造ったのか、これを調べるために多角的な調査や討論が行われたことが分かる。遺跡から建物の大きさが分かり、巨大であることと、階段があること、金堂の前に八角の建物があったことなどが次々と判明するが、それぞれ目的があるはずだが、今となってはわからない。光明皇后が聖武天皇の病気平癒のために建てたことはかなり可能性が高いのだが、それ以外は他に例を見ないものだった。

　プロジェクトは中国の西域の莫高窟まで調査に訪れる。その結果がこのCGでの再現であった。しかし、どれも確実にそうだとは言えない。一例に過ぎないという。通常寺院は金堂だけではない。それ以外の堂宇もあるとすれば、発掘調査を継続すればさらに新薬師寺の正体が明らかになるという期待を膨らませるプロジェクトの調査結果である。

　本書では寺院の再現のプロセスをよく理解できる内容で、どれも頷けるものであった。残念ながら情報が足りないこともよく理解できた。今は少々荒れ気味で、本堂と門のみになってしまった新薬師寺が天平時代にどんな寺だったかを知りたいという欲求を掻き立てる書であった。