紙の本
ゆかいなことはあくまでゆかいに
2011/06/01 08:37
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書のタイトル『ふかいことをおもしろく』は、昨年の春亡くなった井上ひさしさんの有名な座右の銘の一節ですが、全文はこうなっています。
「むずかしいことをやさしく やさしいことをふかく ふかいことをおもしろく おもしろいことをまじめに まじめなことをゆかいに そしてゆかいなことはあくまでゆかいに」
あえて全文を紹介したのは、できればたくさんの人に知っておいてほしいことと、井上さんが遺したものとして記憶しておきたいという気持ちからです。
この本もそういうところから出版されたのでしょうか、2007年9月に放映されたインタビュー番組をもとに単行本化されたものです。
井上さんの肉声、表情はわかりませんが、ここにはまちがいなく井上さんが私たちに遺そうとした思いがつまっています。
このインタビューの時点で井上さんがどれほど自身の死について意識されていたかはわかりませんが、死について「人間は、生まれてから死に向かって進んでいきます。それが生きるということです」と話されています。だからこそ、冒頭の座右の銘にもあるように、笑いを大事にされてきたのだと思います。
インタビューにこうあります。「人間の出来る最大の仕事は、人が行く悲しい運命を忘れさせるような、その瞬間だけでも抵抗出来るようないい笑いをみんなで作り合っていくことだと思います」
深刻な話や難しい話ばかりが私たちに生きる道筋を指し示すのではない。もっと本質的なところで、笑いは生きていくそのことを後押ししているのだと思います。そのような井上さんの思いを私たちはきちんと記憶し、それをまた伝えていかなければなりません。
本書巻末に「一〇〇年後の皆さんへ、僕からのメッセージ」と記された井上さんの文章が収められています。
100年後なんて井上さんはもちろん、私たちのほとんども生きているはずもない世界です。そこに生きる未来の人に井上さんは「できたら一〇〇年後の皆さんに、とてもいい地球をお渡しできるように、一〇〇年前の我々も必死で頑張ります」と書きました。
井上さんがいない今、井上さんが遺したものをお渡しできるように、必死で頑張らないといけないのです。
紙の本
ことばや文学を信じる人の強さを感じた
2011/05/26 22:04
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:安波茶40 - この投稿者のレビュー一覧を見る
テレビのインタビュー番組をまとめた本で、非常に読みやすくわかりやすい内容になっている。
面白かったのは学生時代の話。何でも井上は大江健三郎、筒井康隆と同年なのだとか。
大学のとき「大江健三郎ショック」を受けたという井上、小説は彼に任せようと感じたと打ち明けている。
また筒井康隆のSFを読み、SFは筒井にと思ったのだとか。
3人とも、それぞれのジャンルで大きな存在。同年で同じような存在感を持つ3人がいるというのはすごいことだ。
井上は父親が農地解放運動などに携わったことから、戦中派「アカ」=共産主義者として、一種のいじめにもあっていたようだ。弱者への共感や、国家、特に戦争を遂行しようとする国家の意思、あるいはそうした勢力への疑義が常に井上の底にあった背景に、こうした生い立ちがあったのだ。
あとこんなエピソードも面白い。
いったん休んでいた大学に戻ったとき、本や映画に使うお金を稼ごうと「浅草フランス座」の文芸員のバイトを始めた井上青年。同じ時に採用されたのは作家林真理子の叔父さんだったとか。ちょうどそのとき、結核の療養から戻ってきたのが渥美清だったという。
こんな部分に感銘を受けた。以下に引用する。
理屈でわかっているようなものを書くと、全然面白くありません。いいものを書くためには、練って練って、これじゃ駄目、あれも駄目、これも駄目と、何度も何度もやってはじめて出てくるものを信じています。僕はその感じを「悪魔が来る」という言い方をしています。(p79)
初日の幕が開いて、お客さんが拍手をして「いい芝居でした」「感動しました」「笑いました」といってくれるのが何よりの報酬なのです。(p81)
「笑い」については、こう書いている。
人は、放っておかれると、悲しんだり、寂しがったり、苦しんだりします。そこで腹を抱えて笑うなんていうのはない。それは、外から与えられるものがあってはじめて笑いが生まれるからです。しかもそれは、送る側、受け取る側で共有しないと機能しないのです。
笑いは共同作業です。落語やお笑いが変わらず人気があるのも、結局、人が外側で笑いを作って、みんなで分け合っているからなのです。その間だけは、つらさとか悲しみというのは消えてしまいます。(p91)
本についても、本好きには心強い発言がある。
本とは、人類がたどり着いた最高の装置のひとつだと思います。それを簡単に手放すのはどうかと思うのです。やっぱりそれを大事にしたいという思いと、じつはどこかでまだパソコンを信用していない自分がいます。やっと集めたものが、ある朝一気にどこかにいなくなっちゃうような気がしているのです。(p113)
やっぱり、すごい人です。実に説得力のある発言です。
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読みやすくて45分ぐらいで読了。
面白いのは学生時代の話。何でも井上は大江健三郎、筒井康隆と同年なのだとか。
大学のとき「大江健三郎ショック」を受けたという井上、小説は彼に任せようと感じたと打ち明けている。
また筒井康隆のSFを読み、SFは筒井にと思ったのだとか。
3人とも、それぞれのジャンルで大きな存在。同年で同じような存在感を持つ3人がいるというのはすごいことだ。
井上は父親が農地解放運動などに携わったことから、戦中派「アカ」=共産主義者として、一種のいじめにもあっていたようだ。弱者への共感や、国家、特に戦争を遂行しようとする国家の意思、あるいはそうした勢力への疑義が常に井上の底にあった背景に、こうした生い立ちがあったのだ。
あとこんなエピソードも面白い。
いったん休んでいた大学に戻ったとき、本や映画に使うお金を稼ごうと「浅草フランス座」の文芸員のバイトを始めた井上青年。同じ時に採用されたのは作家林真理子の叔父さんだったとか。ちょうどそのとき、結核の療養から戻ってきたのが渥美清だったという。
こんな部分に感銘を受けた。以下に引用する。
理屈でわかっているようなものを書くと、全然面白くありません。いいものを書くためには、練って練って、これじゃ駄目、あれも駄目、これも駄目と、何度も何度もやってはじめて出てくるものを信じています。僕はその感じを「悪魔が来る」という言い方をしています。(p79)
初日の幕が開いて、お客さんが拍手をして「いい芝居でした」「感動しました」「笑いました」といってくれるのが何よりの報酬なのです。(p81)
「笑い」については、こう書いている。
人は、放っておかれると、悲しんだり、寂しがったり、苦しんだりします。そこで腹を抱えて笑うなんていうのはない。それは、外から与えられるものがあってはじめて笑いが生まれるからです。しかもそれは、送る側、受け取る側で共有しないと機能しないのです。
笑いは共同作業です。落語やお笑いが変わらず人気があるのも、結局、人が外側で笑いを作って、みんなで分け合っているからなのです。その間だけは、つらさとか悲しみというのは消えてしまいます。(p91)
本についても、本好きには心強い発言がある。
本とは、人類がたどり着いた再校の装置のひとつだと思います。それを簡単に手放すのはどうかと思うのです。やっぱりそれを大事にしたいという思いと、じつはどこかでまだパソコンを信用していない自分がいます。やっと集めたものが、ある朝一気にどこかにいなくなっちゃうような気がしているのです。(p113)
やっぱり、すごい人です。実に説得力のある発言です。
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井上ひさしの有名なことばの一節を題に掲げた本書。
以前NHKで放送されたインタビューを活字にしたものだという。
多数ある井上ひさしの著作で読んだものはとても少ない。彼自身のこともほとんど知らなかったので、インタビュー内で生い立ちのことどが語られるのは興味深かった。
作品を生み出すとき、自身の辿ってきたものと無関係ではありえない。そんな当たり前のことを改めて考えた。
そして、自分自身の勉強不足も痛感した。
「情報を知識へ、知識を知恵にしていくとうことは、自分の体験を少しまとめ上げて、その集まりから小さな文章を作っていくということです。これがそれぞれの知恵になるわけです。」
もっと本を読まねば。これから書く文章のために。
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『「創作の原点 ふかいことをおもしろく』
Author[井上ひさし]
Publisher[PHP]
Reading Date[May 29, 2011]
Contents
・父が死んだ年齢と同じ三十四歳くらいまでに
父が目指した道を自分も歩いていたいと
小さいころから思っていました
・ほかの子とは違うと言うふうに言われて
傷つくようなことはありませんでした
根が楽天的なんでしょう 何でもいい方へ、
いい方へ考えてくらしていたように思います
・情報をどんどん入れて知識になり
知識を集めて知恵を作っていく
どんな仕事もきっと同じはず
・頑張れば光が見えてくる
・どうしても物語性の中に自分を置きたがる
それは、子どもの頃からかわっていない
・読んでいる間はゲラゲラ笑って
一日ぐらいホッとするような
そういう小説を絶対書きたい
・自信はなかったけれど
とにかく書くのがたのしかった
・初日の幕が開いて、お客さんが拍手して
「いい芝居でした」「感動しました」「笑いました」
と言ってくれるのが何よりの報酬
・見る人が目の前にいるのが一番厳しく、しかし面白い
・笑いとは、人間が作るしかないもの
それは、一人ではできない 人と関わって、
お互いに共有しないと意味がないものでもある
・自分がつかいこなせる言葉でものを考えることが大切
・「それ、わかりませんので教えてください」
と無知のふりをして聞き返せばいい
やっぱり無知が一番賢いのです
・手が記憶する 記憶した手で 新しいことを作っていく
Impressions
井上ひさしさんは東北の山形の生まれ。
東北の宮城生まれの私としてはとても親近感を覚える。
「ふかいことをおもしろく」というタイトルに
惹かれて読んだ。
難しいことを難しく、というのはまだ2流
というようなことをどこかで読んだ。
ふかいことをおもしろく、むずかしいことをやさしく、
という世界はよくよく事物を理解していないと
出来ないもの。
分からないこと、知らないことは謙虚に人に聞きながら、
少しでも成長していきたい。
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残念ながら、筆者が他界されてから初めて筆者の事を意識し、この本を取りました。この本からは本への愛情、笑いへの思い、それらひっくるめて人への愛情が本当に感じられました。正にこの本のタイトル通りおもしろく読ませていただきました。氏のメッセージに背くことなく次代を担っていきたいという思いにかられました。
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一本筋の通った、井上ひさしの原点を見た。わかりやすい言葉で、笑いを大切にした、誠実な人柄が伝わってくる。
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シンプルなのに シンプルだから?深い
情報をどんどん入れて知識になり
知識を集めて知恵をつくっていく
どんな仕事もきっと同じはず
自分が使いこなせる言葉でものを考えるということ
意味をきちんと理解せず討論をしものを考えていくといいかげんな理論構築や結論が生まれてしまう
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強烈な光を出す個は はっきりとした明と暗を生み出すのかもしれない。
自分はひょこりひょうたん島の原作者が DVをしていたとしてしか、この方の人となりを知らない。舞台や放送作家として日本を明るく励ましていた方が どうしてDVをするのか この方の考え方を知りたかった。
が・・ わからない
色に狂う方 ギャンブルに狂う方 暴力も同じなのだろうか? 表現者や先駆者は何か悪魔との契約が必要なのか?
本自体は ものすごく明るく判りやすかった ので 余計に寂しくなった。
1日30冊は凄いな 本当に要点読みが出来ているのだろう 圧倒的なインプットだな・・
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100年後の皆さんへ、作家で劇作家の井上ひさしさんからのメッセージ。創作の原点。含蓄のあるメッセージがたくさん。例えば…本とのつきあい方(情報をどんどん入れて知識に、知識を集めて知恵を作っていく)、笑いとは何か(笑いとは、人間が作るしかないもの それは一人ではできない 人と関わって、お互いに共有しないと意味がないものである)などなど。
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井上ひさしさんには、変な人というイメージがある(まことに勝手ながら)。だからおもしろいものを創造できるのだと思う。この本を読むと、そのバックグラウンドは壮絶なものであったと想像される。さらりと軽い言葉で答えていることに気づくと、さらに壮絶さが増す。インタビュー形式ではあるけれど、井上さんの考え方や思いがわかる本だ。
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この方の人生をユーモアを交えて語ってくれる小さいながらも中身の濃い本です。釜石で屋台をしていたという逞しい母親が印象的です。一日30冊の読書という凄い読書量には驚きですが、高校時代は映画を見まくったという羨ましい青春時代です。「笑いとは、人とか関わって、お互いに共有しないと意味がないもの」「自分が使いこなせる言葉でものを考える」「手が記憶する。記憶した手で新しいことを作っていく」などという言葉は含蓄がありました。
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亡くなった伯父が文章を教わっていたということで人となりを知るために読んでみた。言葉に対してとても柔軟だけれども、戯曲には大和言葉を使うなど貫き通しているし、考え方に共感できるところが多々あった。
東北各地で過ごされていたため、縁のある土地では今でも愛されているのが理解できた。
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練って練って、これじゃ駄目、あれも駄目、これも駄目と、何度も何度もやってはじめて出てくるもの。
それは「悪魔が来る」時間。
筆が遅いことで有名で、「遅筆堂文庫」まで作ってしまった井上ひさし氏の創作の秘訣は、この「悪魔を呼び込む」時間にありそうだ。
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「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろく、おもしろいことをまじめに、まじめなことをゆかいに、そしてゆかいなことはあくまでゆかいに」!
記憶せよ、抗議せよ、そして、生き延びよ。この時代に、頑張れ、あらゆるエンタメ。