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女子学院の女性教師、キャメル色の床にふかふかのラグ、白いカーテン、山桃のエキスの緑色のキャンドル、メイド、料理人、宝石、レモンヴァーベナの香り…などの道具立てや、「フロントガラスのワイパーは一本足のバレリーナが二人並んでいるみたいに、一糸乱れぬ軽やかなリズムを刻み始めた。」などの表現が、実にエレガント。
霧の中のように幻想的な雰囲気を醸し出しながら、品がある。
クラシックな気品を持つ。
突然解雇された女性教師の謎を追っていると、そうなのだ、「固い地面なのか流砂なのかわからずに、どろどろの沼地を歩」いているようなのだ。
登場人物もそれぞれに個性があるし、謎があって経過があって、理由付けや説明もなされるので、決して曖昧でいい加減なのではない。
ただ、いつも、実像そのものではなく、鏡に映った姿を見ているような、妖しさが漂っている。
読後も、その妖しい余韻をひきずる。
つまり、取り込まれたということか。
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2012年12月8日読了。
正直、期待した程ではなかったなぁ・・・。
『幽霊の2/3』を読んだ時の、「そうきたか!」とポンと膝を打つ様な驚きはなかった。
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平凡な女性教師が突然解雇を言い渡され、理由も分からないその仕打ちに憤慨した同僚のギゼラはウィリング博士に相談する。調査の結果わかった解雇の原因とは…
短編「鏡もて見るごとく」を長編に仕立て直した作品。
短編の方は既読でストーリーはわかっていたので、途中まではちょっとまだるっこしいと思って読んでいたが、ラストでやられた。なるほど、こういう結末にするわけね。
長編化した理由はあとがきを読んで納得した。たしかに作品としては長編の方が美しいと思う。
ネタを知らずにこちらを先に読みたかった。
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ウィリング博士シリーズ
ブレアトン女子学校に勤めるフォスティーナ。校長に呼び出され突然の解雇通告。理由を聞いても答えない校長。周囲のおかしな雰囲気。唯一の学校内の友人ギゼラへの相談。ギゼラの恋人ウィクリング博士の捜査。彼女の周囲にあらわれるもう一人のフォスティーナ。フォスティーナのさった学校で起きた死亡事件。フォスティーナが被害者であるアリスを押して転落死させたという目撃証言。フォスティーナのアリバイ。被害者アリスの元婚約者レイモンド・ヴァイニングとフォスティーナの関係。フォスティーナの受け取る遺産との関係。
2011年8月1日読了
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幻想ミステリ。
「私にはロマン脳がない!」と絶望した一冊。
むむむ。
前情報からの期待が高すぎたのか、読み進むうちに「うーん」となり、最後の最後で……「で、でもさぁ」という気持ちになってしまった。ロマン派かつ、幻想小説好きなら面白いんだろうな。
おそらく好みの問題なんだろうと思うけど。
登場人物の行動が、現代的なところと時代的なところが混じりあい、それが魅力になるというよりは「あれ今はいつの時代でどんな話なんだっけ」と道に迷う結果になってしまった。入り込めなかったなぁ。残念。
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上質なミステリ。
詳しくは述べないが、本格ミステリなのか幻想小説なのか、最後まで興を削がない。
当然本格ミステリなのだろうという予断を持って読み進めるのだが、段々と幻想小説ではないのか、と疑わせる。
そして、最後は「探偵対犯人」の図式を示すことで改めて本格ミステリであることを示しつつ、しかし読後感はどちらともつかない中ぶらりんな気分にさせられる。
こういった、いわゆる「ジャンル」を超えた作品が傑作と呼ばれるのだろう。
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入手困難な名作として知られる同作がようやく復刊、ちょっと期待しすぎた感も。
最後の合理的解決はかなりアクロバティックで、多少の余白が残されているとはいえ、個人的にはもっとオカルト的に開かれたオチでも良かった気が。
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勤めてたった5週間の女子学院を突然クビになったフォスティーナ。
彼女への仕打ちに憤慨した同僚のギゼラとその恋人の精神科医ウィリング博士はその原因を調査するが…。
見事!と言うしかないマクロイ節。
恐怖を盛り上げて盛り上げて、最後に読み手を突き放す。
それが余計に恐怖を煽り立てる。
それまでに書かれたほんの些細なことが、すべて犯人の策略でありえてしまう。
怖いよ、怖い。
よくあるネタなんだけど、調理次第ではまだまだ違った味わいがあるんだなあと思ったよ。
そして、最後まで読むとタイトルの意味がわかって余計に怖くなる。
暫く夜中に鏡の前に立てないかも。
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第二次大戦後、間もない頃、アメリカ・コネチカット州のブレアトン女子学院が舞台の幻想ミステリ。
学院に勤めていた美術教師フォスティーナは、突然、明確な理由も告げられずに解雇を言い渡される。同僚である友人、ギゼラは、恋人の精神科医ウィリング博士とともに、その背後にある謎を解き明かそうとする。
古き良き時代といった香りがするが、そもそも発表が1950年なので、ほぼ同時代を描いた作品と言ってよいだろう。
本作のキーとなるのは、超常現象とも受け取れるような出来事であり、それがやがて本物の殺人事件につながっていく。
ゴシック・ホラー風でもあり、一方で本格推理小説調でもある。途中までは幻想ホラーとして終わるのかミステリになるのかもわからず、そういう意味でもスリリング。
科学の合理性と幻想のロマンがせめぎ合っているような作品であるが、それはある意味、この時代の空気でもあったのかもしれない。一気にテクノロジーが発達しようとする一方で、また、どこかオカルト的なものへの恐れ・憧れ、そして「科学ですべて解決できるわけではない」という確信のようなものが綯い交ぜになった思いが基調となっているように思われる。
実像と虚像。
実像だけでは薄っぺらであるところ、鏡の陰影を加え、作品に奥行きが増している。微かにゆらめくろうそくを合わせ鏡に映したような不思議な魅力がある作品である。
『暗い鏡の中に』というタイトルは秀逸だと思う。
★4つか3つか迷うところだが、好みを加味すると3つかな・・・。
結局のところ、自分は合理性の方が好き、といってしまったら身も蓋もないのだが。
*ギゼラという名は聞き慣れないが、ジゼルのドイツ語読みのよう。比較的一般的な名前なのだろうか。そもそもはゲルマン語(?)の「誓約」に由来するようだが、あまり確かな原典までさかのぼれない。
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巻末の解説で言及されている本作での狙いや、まさにその点こそが高い評価を受けているのだと理解はする。するんだがどうも響かなかった。相性が悪かったのかもしれない。
これまで読んだマクロイ作品はわずか三冊だが順位をつけるなら
『幽霊の2/3』>『殺す者と殺される者』>『暗い鏡の中に』かな。
いずれも数十年前に書かれたものなのに大変読みやすい。原文の良さか翻訳の上手さか。その両方なんだろう。
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ヘレン・マクロイの幻の最高傑作と言われていた作品。そんなうたい文句だったので、期待が大きすぎたせいか、思ったほどぐっとくることはありませんでした。
幻想的な空気感、謎ときの妙が味わえるということでしたが、僕はあまり深く入り込むことができませんでした。探偵役の精神科医もあまり際立ったキャラクターでなく、最後の解決編のところもそれほどサスペンスフルではなかったです。
ただし、物語としては読みやすくわりとすらすらと読めました。ということで3点です。
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ミステリというよりはホラー(解説では幻想文学みたいな書き方されていたけど)色の方が強い。
落ちはともかくとして、一体全体何が起こっているんだと真相に気をもませる展開と、次第に浮かびあがってくる登場人物間の深い関連や細かい言葉、態度の意味が醍醐味か。
ラストもなかなか乙。雰囲気的にこの終わり方はマッチしていると思う。
読んでいて『エアーズ家の没落』を思い出した。あの作品は当時は全く自分にははまらなかったが、こういったジャンルの小説を前提とすると、とても精緻に書き込まれていたと見直した。似たような雰囲気を持つ作品としてはあちらの方が上と感じる。
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少なくとも、現代科学は「突き詰める」ことで進展してきた。論証が収束しようが、破綻しようが、それでも現代科学は答えを導き出し、知性を深化させてきた。でも、本当にその行き方が正しいのだろうか? たとえば、魔女など本当にいないのだろうか? 生霊は自然の畏怖に満ち溢れた時代のおとぎ話にすぎないのだろうか? 理性的に、論理的に、ふさわしい答えを導き出そうとするが、論証した端緒から破綻していくことなどありえないのだろうか? 厳然として「見える」事象群が「嘘」という可能性を孕むことは重々承知していながら・・・。「信じる」と「分かる」は視覚が介在するために見分けがつかないほど近接しており、錯覚はいつでも真実にすり替わる危険性を帯びている。そこに郷愁を覚えれば「幻想文学」の守備範囲になるのだが、意地悪なヘレン・マクロイはあえてすっきりとした終章を用意しない。そう考えると、案外「純文学」をバカにしているのかもしれない。暗い鏡を挟んで向き合ったのは分裂した彼女の感情なのかもしれない。
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女子寄宿学校の教師フォスティーナは理由も告げられずに突然解雇を言い渡されます。
生徒やメイドの、まるで異様なものでも見るかのような自分への態度に不審を抱くもなすすべなく職場を後にしますが、
フォスティーナの同僚は不思議に思い、恋人の精神科医と調査を始めます。
良家の子女が集う学校とはいえ、株価の暴落による家庭の崩壊など
時代の不穏な空気が作品世界にまとわりつきます。
生徒たちが授業で演じるギリシャ悲劇「メディア」、レモンヴァーベナの香り、宝石。
現実世界の不安にオカルトめいた事件が絡む舞台設定。
なぞ解きは完結しますが、積み上げた論理も「流砂」のように崩れ落ちていくかもしれない。
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まるで誰もいないはずの家の戸締りされた二階の窓に、浮浪者がひょいと顔をのぞかせたかのようだった。
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冒頭に提示されたイメージが最後まで残像のように消えません。
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ミステリーは美しい就任数週にして突然、全寮制のブレアトン女子学院を理由も告げず辞めさせられたフォスティーナ。彼女の友人の教師ギゼラは、その窮状をフィアンセの精神科医ウィリング博士に知らせる。ウィリングが調査に乗り出すと、フォスティーナがこうして解雇されるのは今回がはじめてではなかった。美しい。美しいミステリーである。謎が謎を呼ぶホラーチックな導入部から、探偵の登場、さらなる事件、深まる謎、意外な事実の発覚、決定的な事件、幻想に満ちた謎解きまで、すべてが完璧。さして長い小説ではないが、ここにミステリーのすべてがある。ミステリーとしてこれ以上の完成度のものは他にないんじゃないか。