紙の本
疎まれていたのではなく 恐れられていた 徳川家康の息子
2011/07/21 21:15
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投稿者:星落秋風五丈原 - この投稿者のレビュー一覧を見る
山田風太郎には、“彼”を主人公に据えた『摸牌試合』『羅妖の秀康』という作品がある。梅毒にやられて鼻がもげてしまったという酷い御面相で、若死にしており、信長の命で殺された信康に次ぐ二男であるにも拘らず、家康に病的なまでに嫌悪されている。ここまで書くと、何とも哀れな、そして滑稽な男である。しかし、本当にそうだったのだろうか?女性作家から見た彼は、豪放磊落な面が強調され、見違えるように魅力的なキャラクターになっていた。そこには、彼の母親・お万の方の描かれ方も影響している。築山殿のお付きでありながら、家康の手がついたため、嫉妬の的となった彼女は家康から離れて家臣・本多家に庇護され出産した。これが通説であるが、本編では、秀康が双子であったとする説を取り、彼女が逃げたのは双子の一方を抹殺せんとする家康の企みから逃れるためであったとした。従来の説から浮かび上がるのは、女の戦いから逃れるか弱い女性であるが、後者の説を取れば、子を守るために果敢に行動する頼もしき女性と映る。そして、そんな女性に育てられた秀康が、単なるお味噌であるはずがないだろうと思わせる。
彼は最初、羽柴秀吉の養子となり、次に後継ぎのいない結城家の養子となる。都合三人の父を持つことになるが、結城家の父を除けば、実父も秀吉も、息子に対する情愛が薄いように感じられる。情愛を注ぐのみの母に比べ、父親はどうしても敵愾心を持ってしまうものであるが、作者は従来採られてきた【家康の嫌悪説】を恐れゆえに遠ざけたという視点から語り直している。
上杉景勝や直江兼続、石田三成からも敬愛された秀康は、その後続いた徳川本家を高めんがために、敢えておとしめられたのではないか。本編読了後には、そんな考えすら浮かんできた。
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以前の大河ドラマで、秀忠が秀康の死を聞き「世が世なら将軍だったものを」といって涙したシーンをよく覚えている。家康の次男ながら、豊臣家に養子(人質)にいったことから、秀忠に将軍を譲る形になったのは有名であるが、出征からかなりのドラマがあった。そんな松平(結城)秀康の一生を知ることはなかったので、本屋でついつい購入してしまった。
この本は、生母於大の方から秀康へとストリーが受け継がれてゆく。この作者、良く調査をしていて、高野山の墓前の記載からストーリーが始まるが、そのことがすごく引き込んでゆく。秀康のストーリーからみる、家康・信康・秀忠にいたる、徳川初期のころにことが、非常に興味深い。
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一般的にはあまり知られていない家康の次男・秀康の物語。
家康の側室、お万の子として出生するも双子であるがために日の目を見られず、秀吉の養子(人質)として育つ。秀頼の出生に併せ、結城家へ再度養子として出され、波乱の人生を送る。
信康の最期や戦国時代におけるサイドストーリーが盛り込まれており、知識としては得られるものもあった。
物語の展開は不要な情報が整理されず盛り込まれているせいで、本筋が何処にあるのかわからなくなる場面が多くあり、読み進めていて不快感を覚える部分も見られた。
あの時代ならではのヒトが政略的に繋がりまた離れという繰り返しの中で、ある画が垣間見られた。
資質や才ある人間が必ずしも頂点に至るとはならない。現代のビジネスでも同様な事象として考える事も出来た内容であった。
あまり双子である事と物語の進行は大きく影響しないと感じた。
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家康の次男で器量も優れていたのに、家康から嫌われた不遇の武将。
家康との確執を描きながらも、爽やかな武将として描かれている内容は今までの結城秀康像とは違う印象を受けて面白かったです。
家康が猜疑心の固まりの様な人物設定だったのは致し方ないでしょうか。
全体的には、躍動感ある戦国物というより、秀康と家康の父子の確執を通して秀康の生涯を見ているという感じです。
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結城秀康の一代記です。
先日読了した『家康の子』が柔な印象ならば、
本作は剛な印象で、歴史小説らしいですが…、
それは文体のことであって、内容的には…、
『家康の子』の方は、
秀康、秀吉、家康、さらに係わる人々の心情や策略を、
作者なりに、一本筋を通して描いていましたが…、
本作は、剛な印象とは裏腹に、
エピソードをトレースしただけの薄っぺらな内容で、
作品から伝わるパンチ力が感じられませんでした…。
読み易さも含めて、『家康の子』の方をオススメかなぁ…。
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家康の長男・信康は切腹、次男が秀康で、三男が二代将軍・秀忠。本来なら二代将軍になっても良かった秀康は、秀吉に人質として出された後、結城家の養子として家督を継ぎ、関が原以後、御三家の別格として越前松平家初代となる。
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徳川家康の次男である結城秀康について書いた本です。
この本では、秀康双子説をとり、秀康の母であるお万の方が秀康を産むちょっと前から、秀康が死んで、高野山に祀られるまでが描かれています。
双子ということで忌み嫌われたり、怖れられたりしながら生きてきた結城秀康が唯一安らかに過ごせたのが、結城家であったというのが印象深いです。
また、女性の著者らしく、秀康本人だけではなく、全編を通して、母であるお万の方や正妻である鶴子、側室であるおゆき、など女性が多く登場します。
↓ ブログも書いています。
http://fuji2000.cocolog-nifty.com/blog/2013/06/post-b538.html
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★2017年12月17日読了『越前宰相 秀康』梓澤要著 評価B+
徳川家康の次男であった結城秀康の生涯を丁寧に綴った歴史小説。
この物語の本質は、父家康と子秀康の親子の相克と不信感が中心的なテーマとして描かれている。そして、結局、三男で凡庸だった秀忠が二代将軍となり、5万石の小藩に養子で入った秀康は、関ヶ原の戦いの時の東国のおさえの総大将としての功績から上総10万石に加えて、越前68万石も加増され、大大名に取り立てられるも、それ以降各地の普請に駆り出されることで、体調を崩し、わずか34歳で世を去る悲劇となる。
家康の実子、秀吉の養子という立場であるがゆえに、それぞれの権力者のエゴ、人となり、冷たさ、狂気を間近に見聞きする形で、人物像と物語の厚みを増している。
長男信康が信長に殺され、次男の秀康が家康の世継ぎトップの筈にもかかわらず、出来が良すぎることからかえって警戒され、常に家康から遠ざけられ、大阪の秀吉にまで人質として養子縁組されて送り込まれてしまう。豊臣一族の養子は、その後秀吉の実子である鶴松、秀頼が生まれることから、次々と邪魔者扱いされて非業の死を遂げていくことになるが、幸いにして、辛くも秀康は、下総国の結城晴朝(はるとも)への養子として秀吉の元を離れることができた。時の権力者たる秀吉と家康の思惑のぶつかり合いから、秀康の人生は大きく左右された。結局、自らの思い、すなわち民の苦しむことのない国を作るという夢を実現できないままに終わる。越前に6年しか居られなかったにもかかわらず、領民から慕われた結城(松平)秀康は悲劇の宰相である。
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秀康の感情が詳細にかかれているので入り込みやすく、時代背景も馴染みなのであっという間に読了。父親の家康には見向きもされず、養父となる秀吉は子どもができたら邪険にされ領主となる場所は余所者、邪険にされて不遇の人生なのに生き抜こうと、他人を思いやる気持ちもあって全然知らない秀康だったけど機会があれば秀康の人生も覗いてみたい