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紙の本
こんなにも身近にありながら、侵してはならない彼らの領域がある。
2011/07/21 17:09
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:チヒロ - この投稿者のレビュー一覧を見る
あの「アブサン物語」はあまりにも有名で、
村松さんの愛猫アブサンのその見事とも言える最期は、
今でも鮮烈な記憶となって残っている。
アブサンの死後、相変わらず様々な猫たちが作家の庭を行き来する。
その中でも、際立つのが、野良猫ケンさんだ。
美形でありながらいつも眼光鋭く、ケンカっ早い。
縄張りを侵すものは許さない。
だから彼を避けるように、みな時間をずらしてやってくる。
顔みしりになった猫に名前をつける村松夫婦。
歌舞伎の主人公や落語の登場人物など、
「ツバキ」(椿姫から由来)なら「ツバキ」と、その名を呼んだ時から、
それは猫ではなく唯一無二の「ツバキ」となる。
猫たちは村松家の庭に面した窓枠を舞台に、
表情豊かにその生きざまを見せつける。
まるで人間たちのそれのように。
ケンさんはそこでは特に古株だった。
村松氏夫婦は、事のほかこの孤高の侠客のことが気に懸かっていた。
夫人が与えるフードを食べに敷居を乗り越え、部屋に入ってくる他の家の猫たちはいるのに、ケンさんは決して心を許さなかった。ただ2回だけを除いて。
1度は思わずふと部屋に入ってきてしまったようだ。
その時は既に老境に入っていたケンさん。
「あの行動が、すべて意識されたものでもあるまい。
そろそろこの家にちょいとサービスをしてやろうという人情的な動機に、まず仮眠からさめたケンさんは突き動かされた。
そして、何かに操られるように部屋の中へ入り、すぐにヤバイと思って引き返した。」
そして、2度目は深夜。
ケンさんは深手の傷を負っていた。
ケンさんはあれほど警戒していた場所に何の躊躇もなく踏み込んだ・・・
これほど身近なものでありながら、その生きざまに人は手出しができないのだ。
それは人間界のルールは通じない彼らの社会の理というものだ。
強いものが台頭し、やがて老いによってその座を若者に明け渡す。
ケンさんのその時はかなり近づいてきたということを村松さんは知る。
あとがきには原稿を書きおろした10日後に東北大震災があったと記されていた。
そしてケンさんは、ここのところ姿を見せていないということだった。
「きっと何処かの寝ぐらで、萎えた体力を回復させるべく爪を研ぎ、
ひそかに呼吸をととのえて、老優は次なる勝負への準備をしているはずである」
野良猫ケンさんの続編がまた書かれる機会があることを、私は心から願いたい。
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