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紙の本
どこからか懐かしい音が聴こえてくる……美しい本
2011/09/09 18:21
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:辰巳屋カルダモン - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書を手にして、まず、表紙の日本画にしばし見入った。
庭の柳が揺れる日本家屋、畳の上にきちんと並べて置かれた三味線と鼓。
これから稽古が始まるのだろうか。
主役の登場を待つ、静かな緊張感が満ちている。
三味線を爪弾く音と鼓のキレのいい音が、今にも聴こえてきそうだ。
古来、日本人を取り巻いてきたさまざまな音。
本書は「日本の音」が表現された美術や文学を通して、日本人と音の伝統的なかかわり様を探る試みだ。
自然の音、鳥獣の声、歴史と生活の音、年中行事の音、の4つの音を挙げ、さらに細かく分類する。
表紙の小村雪岱の『青柳』(1924年ごろ)は「歴史と生活の音」のうち「撥音」として紹介されている。
やはり多様なのは自然の音で、雨、風、雷鳴、水音、松籟など。雨や風は特に種類が多い。
馴染み深い、春雨、霧雨、夕立のほか、木の芽おこし、桜ながし等は初めて知った。なんと美しい名称だろう!
風の呼び名も数多く、柳田国男編『風位考資料』には約900種もの固有名が収録されているという。
雨風に、四季折々のまた地域特有の呼び名をつけて、呼び分けてきた日本人の感性の豊かさを誇らしく思う。
紹介される絵画は、13世紀の絵巻物から近代日本画まで多彩だ。絵画だけではなく陶磁器や着物も登場する。
和歌、俳句のほか、エッセイも添えられて、総合的に「日本の音」を鑑賞できる。
黒白ぶちの丸々とした子犬が愛らしい俵屋宗達の『狗子図』、『北野天神縁起絵巻』時平抜刀の場面は、雷神に襲われ宮中人てんやわんやの様子に思わず笑ってしまう。お馴染みの浮世絵や日本画以外に、こうした、ちょっと愉快な作品が入っているのは楽しい。
和辻哲郎『松風の音』、寺田寅彦『物売りの声』のエッセイは、しみじみと味わい深い。
さっそく原本をあたってみたいと思った。
「日本の音」を見事に表現し得ている美術、文学が数多いことに驚く。
目には見えないが「音」は日本の芸術表現に欠かせない大事な要素なのだ。
気がかりなのは、今現在、失われたか失われつつある音が多いこと。
衣擦れの音、物売りの声、子供の遊び声、機織りの音、砧の音など、守らなければならない音は多い。
眺めていると、周囲の雑音はいつか消えて心が澄みわたってくる。
そっと目を閉じてみると、かすかに懐かしい音が聴こえてくる。
実に美しい本に出会った。
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