紙の本
悪徳警官の汚名のまま追放された最強の捜査官・加賀谷仁が戻ってきた。不条理世界で生きるこのニヒリストに警官の誇りはあったのか。
2011/10/19 00:02
6人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:よっちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
2011/10/17日経紙「春秋」にこんな記事があった。
暴力団が用心棒代(みかじめ料)を要求すると公安委員会は「やめるように」と命令をだし、従わない場合は罰則があるというのんびりした対応だ。ところが都道府県条例ではこうした時に会社や商店が暴力団にカネを払うと名前を公表されたり処罰されたりする。市民は生身のまま暴力団と対峙することになっている。心配なのは暴力団からの反撃だ。暴力団の襲撃が絶えない北九州市で雰囲気を尋ねると「『警察と暴力団のどちらについた方がいいか考えている人もおる』と、冗談ともつかない答えも聞かれた。次は当然、国や警察が踏ん張る番である。」
私は、警察官の使命はなによりも市民の生活・安全を守ることにあるのだと思う。この小説の主人公たちと同様、現実の警官も使命感を持って踏ん張ってほしいとの思いをあらためて強くした。
佐々木譲の警察小説には2007年に発表された『警官の血』 がある。警察官の使命とは何か、正義の追及とはなにか、を問いつつ、戦後から現代までその時代とともに生きた警察官の一族、親(安城清二)と子(民雄)と孫(和也)の人間を描いた大河小説である。本著『警官の条件』はこの名作の続編に当たる。一般には「続編」というものは「本編」よりもレベルが下がるものだが、この作品は違っていた。深みを増したシリアスな人間ドラマに前作に劣らぬ共感を覚えた。
それだけではない。捜査・追跡・捕捉活動のスリリングな展開と過激な暴力というエンタメ性が加わっているだけ、より魅力的な作品として完成している。
警察が組織ぐるみで裏金をつくり、そのカネを情報収集のためにふんだんに使い、組織暴力摘発の実績を上げていく。一匹狼・加賀谷仁は服務規程を無視し、違法な捜査も辞さず、暴力団の幹部たちと貸し借りの関係をつくりながら、裏社会と密着、独自の情報ルートを作り上げ、抜群の結果をだしていた。彼は高級マンションに住み、外車を乗り回し、一流のクラブの上客でもある。
ところが時代は変わった。警察批判の高まりからこうした体質は改善がせまられた。加賀谷の捜査をバックアップしてきた警察庁の大物も失脚、警察内の新勢力は腐敗体質のシンボル・加賀谷の追い落としを画策する。加賀谷の部下として配属された安田和也は加賀谷の人物に心酔するが、加賀谷のスキャンダルを告発する内命を受けていた。和也の働きで加賀谷は覚せい剤所持容疑で逮捕される。
これが『警官の血』のラストと重なりながら物語のスタートにあたる。警察とは、上位の命令に服従する硬直的官僚組織、上層部の権力抗争、キャリア・ノンキャリアの差別社会、内部犯罪に対する隠蔽体質、仲間内の強烈な結束と露骨な足の引っ張りあいが両立する競争社会、犯罪組織との情報交換が必要悪として成り立つ正義遂行の機関、権力に弱いが権力を振るえる暴力装置である………と。そういう特異体質の組織で、捜査プロセスが正か悪か自ら確信できないままに、本来の任務を果たそうとしてもがく安田和也。この不条理の世界で、警官個人の寄って立つ根本精神はどこに?
物語の背景をドキュメンタリータッチで叙述する、簡潔でしかも濃密な幕開けだ。
ところがマニュアル化された捜査からは肝心な情報が得られず、警察全体に焦燥感が高まってきたのだ。汚れた英雄、多賀谷待望論が沸き起こる。
「都内の麻薬取引ルートに、正体不明の勢力が参入している。裏社会の変化に後手に回った警視庁では、若きエース安城和也警部も、潜入捜査中の刑事が殺されるという失態の責任を問われていた。折りしも、三顧の礼をもって復職が決まったのは、9年前、悪徳警官の汚名を着せられ組織から去った加賀谷仁。復帰早々、マニュアル化された捜査を嘲笑うかのように、単独行で成果を上げるかつての上司に対して和也の焦りは募ってゆくが………。」
「交錯する不信、矜持、ラストシーンでほとばしる激情。」
いささかまだるっこいスタートなのだが、「正体不明の勢力」が現れるあたりから、物語はヒリヒリする緊張感がラストまで張り詰める展開を見せる。絶対不敗が前提となったスーパースターが活躍する冒険活劇ではない。ディテールを積み重ねたリアリズムに徹している。潜入捜査官が見破られるシーンにゾッとする。携帯電話のGPSによる追跡のリアリティに手に汗を握り、その尾行がまかれるところで不安感に襲われる。
哲也が率いる組織犯罪対策部第1課2係と第5課とは角つき合わせて同じターゲットを追う。ここに哲也とは因縁が深い加賀谷の単独捜査が加わる。それぞれに裏社会の情報提供者がおり、情報は錯綜する。「正体不明の勢力」は既存組織と対立関係にある。情報提供者には二重スパイもいるから情報は敵を利するものかもしれない。この複雑な構図で加賀谷の行動が光るのだがその内心はまったく表現されない。つまり読者は八方塞の謎に翻弄されることになる。とにかく上質のサスペンスフルミステリーだ。
「警視庁の闇を呑んだ加賀谷仁。彼を部下として告発した安城和也。9年後、再会した二人を駆るのは憎悪か誇りか………」
女性が絡らむ二人の微妙な人間関係のドラマがあって、一般の警察ミステリーを越えたところの文芸作品の香りが漂う。
『警官の血』から『警官の条件』まで「ホイッスル」(警笛、呼子のことで今でも警官への支給品になっているようだ)という小道具が実に印象的な使われかたをしている。哲也は祖父の代からのホイッスルを携行している。それは祖父が目指した駐在所警官、市民の生命と安全を守ることをもっぱらの使命とする警察官の誇りのシンボルである。市民の支持がなくては使命を全うすることはできないという生き方に徹しようとした祖父の象徴的形見なのだ。使命遂行が難しい不条理世界で一線を越えることがあっても、それを矜持とすることが「警官の純血」であり「警官の条件」だと語りかけている。
この作品の主人公は多賀谷仁である。
多賀谷仁とはなにものであったのか?
和也が吹くホイッスルがすべてを語る感動のラストに心が震えた。
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「警官の血」の続編、加賀谷が復職してきて・・・
骨太でゴリゴリっとした感じ。最近、警察小説が流行っているけれど、こういうのには、なかなかお目にかかれない。
しかもラストのダメ押しに、ガッツリもっていかれた。
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「警官の血」の続編。
「警官の血」のラストで和也が加賀谷警部を告発したことの続きから始まる。ラストはわかっていても、グっときた。
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前作「警官の血」から続けて読んだ方がいい。おもしろい。とにかくおもしろい。なにもない3連休など、まとまったボンヤリした時間に「血」の上下巻からこの作品まで一気に読んだらかなり痛快だと思う。次回作もありそうな予感が…
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ベストセラーになった「警官の血」の続編。
やっぱり、あれの続編は難しい。
佐々木謙の作品は、総じてレベル高いのだけど、ちょっとこれは、うーん。。。
なんか、無理矢理続編作っちゃったという感じがしないでもなく。残念。
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加賀谷警部=佐藤浩市がひたすらカッコいい。警官の血テレビ版を観た人に向けて書いたしか思えない作品。警官の血のテレビと原作にはまった私には傑作でした。
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「警官の血」の続編。祖父、父に続いて警察官になった主人公が、内偵捜査で上司の不正を告発した前作のラストから始まり、上司との関係を中心に物語が展開する。
分厚い本だけど面白くて一気に読んでしまった。
親子、警察をテーマにしている点も前作と共通。
ラストはちょっとグッとくる。
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『警官の血』の続編がこんな形で読めるとは思わなかった。嬉しい!
『警官の血』の三世代目安城和也は警務部からの任命で刑事部捜査四課の加賀谷警部を服務規程違反で告発する形で終わったのが『警官の血』のラスト。
それから10年。安城和也はは警部となり警視庁組織犯罪対策部捜査一課へ。
組対は横の連携が取れず納得の行く評価が挙げられずにいた。
所轄対本部でも生安対組対でもなく、同じ組織対策部内での一課対五課というこの設定が。
最後は予想がついて、そのとおりの展開になるのだけれど、やはり熱いものが。
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親子三代にわたる壮大な刑事物の前作からの続編。読み応え十分。ドラマで加賀谷を演じた佐藤浩市の姿がダブってラスト泣けた。また映像化希望。このシリーズいいな。
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『警官の血』の続編・・・だけど、あまり続編という感じはしない。加賀谷を売った和也のその後。彼らの擬似的な親子関係にどう落とし前がつけられるか。分厚い本だけど、一気に読める。ずっと接点のなかった二人が最後に邂逅する場面はぐっとくる。
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警察三部作?の三作目
全ページおもしろかった
戦後の祖父の代から3代に渡り警察官として務めてきた男たちの話は、本作でついに孫の代へ
直近の某アイドルの覚せい剤使用発覚事件も絡む現代において、主人公が奮闘する
本作の主人公は、どこか高村薫氏作品に登場する合田雄一郎とナウィーブな面でどこか似てる要素もあり、ワタクシ的に更にポイントアップの作品でした
(あ、高村先生作品と異なりBLっ気は皆無です)
トイレに入っている時も、外出して歩行中であるときも、読むことを止めたくない、止められない、止まったら死ぬ、と思うほどガッツリ一気に読むことができ幸せな読書でした
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読了、85点。
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安城和也は内偵の結果、警官として自身の良心に照らし合わせて見て問題があるとして上司として親父として慕っていた加賀谷を売ることにした。
その10年後、和也は警部に昇進し組織犯罪対策部1課2係の係長として配属が決定する。
組対では1年ほど前から麻薬犯罪が掴み難くなっていることが問題視されその解決の為和也は麻薬犯罪の密偵を部下に命令し追いかけて行く。
『警官の血』の続編
**
最近はこういう警察小説、ご無沙汰だったので非常に楽しめました。
小説の冒頭は、警官の血の終盤、和也が加賀谷を監察に報告し、加賀谷が取り調べをするシーンから始まる。
警官の血を読んだ限りでは、うろ覚えながらてっきり覚醒剤を使用したものだと思っていましたが、実はそうではなかったというサプライズから小説が始まる。
結果的に加賀谷はシロとなるが、警察を退職、逮捕、裁判で無罪判決を勝ち取った後三浦半島で釣り船屋の親父に引き籠ることになる、それから時が経って、警察への復職を請われて、、、、と冒頭から非常に引き込まれていきました。
もう一方で語られるのが和也の話です。
この2人が主人公で、話を紡いで行きますが、警官の条件というタイトルが非常に意味ありげ。始終私情に振り回されがちな和也に対して、何も語らずに体を張って我が道を突き進む加賀谷の対比が上手い。
ただこの作品だけを見ると和也があまりにも矮小な人間に見えてしまうのがどうなんだろうと少しだけ思いました。
この手の小説で面白いのは、圧倒的な組織のシステムに対して個人がどう抵抗するか、あたりだと思っていますが、そのあたりはこの小説では少し弱いというか、、、ダメと言う訳じゃなくて、あくまで個人対個人に重点が置かれているってことなんですが。
ちょっと残念だった点は、人物が多く、かつ場面転換が頻繁に入る為に人物把握が難しかったことかな、読者は刑事視点で物語を追う為に、
意図的にミスリードさせようとして如何にも怪しげな人物がたくさん出てくるから尚更分かり難くなっていますし。
あと東京の地図がわからないと場面を思い描きにくいのも少し引っかかる。
あと序盤で和也の机の上に新聞記事、雑誌記事のコピーを置いて行ったってエピソードが綺麗さっぱりスルーされているのはなんだったんだろう?
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前作は、警官の血。今作は、条件。その違いはなんでしょうか。真実に肉薄しようとしたとき、本来敵対するべき相手に身内のような感覚を持ってしまう。自分の中の正義をどこで見失わずに持ち続けるか。
重苦しい文体でただエンターテイメントとして軽く読ませないのが、すごいと思いました。
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前作の続編として捉えるならば、“三代目”という設定は活かされていたが、祖父や父の警察官人生をどう引き継ぐかという和也の成長はあやふやなまま。警察官としての苦悩や苦汁といった内面的なドラマは少なかったように思う。それよりも、組織や捜査の意義といった警察ミステリの骨子である特異な体質が軸になっていた。これだと続編の意味はあまりないかもね。
加賀谷のキャラが濃すぎて、主人公の和也が喰われた形になっている。もともとよくわからないキャラだったが、本作品でさらにわからなくなった。ストーリー自体も地味。なのでどうしても加賀谷の動向に注目せざるを得なくなる。多少の贅肉はあるが、展開は面白かった。もう少し人物の出入りが整理されれば、スピーディーに進んだとは思うけど。
シリーズものとしての違和感はあるが、警察ミステリとして見るとやはりレベルは高い。こういう重苦しい緊張感を伴った感覚は、警察ミステリ特有のものかなと思う。斜め読みの隙を与えない張り詰めた空気感は安心感に繋がるな。
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『警官の血』の続編。『警官の血』ではあまりキャラが立っていなかった三代目・安城哲也が、今回も一応主人公なのだが、加賀谷のキャラが濃すぎてボケ気味(苦笑) 佐々木氏の警察ものは好きなので、今後にも期待したいところだが。