紙の本
圧倒的な寒さの真実
2012/09/06 12:24
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ががんぼ - この投稿者のレビュー一覧を見る
故米原万里さんのデビュー作として、ファンには特別な意味を持つ本らしい。
米原万里さんといえば、卓抜したエッセーの腕で知られる。
しかしことこの本となると、著者の技量はあまり関係ないように思える。
本の性質もせいもあるが、何しろ語られる事実が圧倒的なのだ。
年平均気温-10度、冬はマイナス50度が普通の世界。
旧ソ連、シベリアの「世界一寒い」サハ共和国(本書の段階では、ヤクート自治共和国)の話である。
1984年から85年にかけて、TBSの取材班がテレビの取材にシベリアを横断し、それに米原さんが通訳として同行したときの記録らしい。
米原さんの文章に、たくさん写真が加わる。
どれも印象的なものだが、全体に青い。つまり寒いのだ。
いや、寒いなどというものではないのだろう。想像を絶する。
吐く息が凍りついてみな眉毛やヒゲが白い。
家の窓は三重。
寒すぎて滑らない氷。
プラスチック、ナイロンなどの石油製品が寒さにまるで通用しない話。
人の息やら車のガスやら家の湯気やらすべてが凍りつくためにいつも霧の状態という街。
うっかり鉄の柵をなめて舌がくっつき、舌を切り取ってどうにか命が助かった子供の話。
そんな厳しい自然条件のもとでも、人はやはり生活している。
興味深いエピソードが満載だ。
そこでやはり米原さんの筆が生きる。
のちの本に比べると、その類まれな個性はさほど表に出ないが、
びっくりしながら、生き生きしている。
どことなく茶目っ気があって、ユーモラスなのが楽しい。
巻末には、やはり同行した椎名誠の「解説」もある。
短いがこれも面白い。
どうせ落ちれば死ぬからと壊れても修理されないシートベルトの話。
黒いはずの馬が走っている間に吐く息が凍りついて白馬に変わる話。
ただし、と一言添えておくと、
たしかに驚くべき話なのだが、
世界のすみずみにまでTVクルーが入り込んで、珍しい話題が毎日のように茶の間にも提供され続ける昨今、
我々は驚くことに慣れ、感覚が鈍ってしまっているところがある。
現地に行けばまるで話は違うだろうが、
人によっては、読むだけではもう一つインパクトがない、と感じるかもしれない。
それでも気楽で愉快な読み物であることは間違いない。
事実と写真と米原さんの語り口と、さらには椎名誠の文で、
四重に楽しめるコンパクトな旅行記である。
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:うみいぬ - この投稿者のレビュー一覧を見る
米原さんの本は、一時期すごくハマりました。歯切れのいい語り口、でもしっかりとした文体。今流行りの軽い文体ではないので、最近の人には敬遠されがちかも知れませんが、すごく面白くて。子供の頃苦労されたせいか根底にしっかりとしたモノがあり、ただ人を攻撃する毒舌ではなく、ユーモアに富んでいます。
これは、その人の初期の作品。あれだけハマっていた割に、これは何故か読んでなかったんですねー。
感想は…やはり、まだまだこれから…という感じの作品。面白いですが、これ以降の作品の方が私は好み。処女作だし、しょうがないかな?
でも、今時の人はこれぐらいの作品が読みやすいのかも。。
もし、この作品を読まれて米原さんに興味を持たれた方がいらしたら、これ以降の作品もぜひ!この人の面白さは、こんなものではありませんよ!
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幻の処女作がもともと子ども向きの読みものだったのだと、今回初めて知った。
寒さの常識をくつがえすような体験の連続で、大人が読んでもこどもが読んでもたのしいレポート。若い読者向きのやさしいことばで書いてはいるが、米原さんらしい格調の高さやユーモアがすでにかんじられ、国語などの教科書にのせたいぐらい。
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米原さんの処女作。
酷寒の地ならではのエピソード、そこに住む民族の生活などが語られている。
子供向けに書かれているため、ところどころ漢字の方が一般的な単語がひらがなになっていて多少とまどうが、米原さんの軽快な語り口は最初から読ませる。
薄い上にカラー写真も多く文字も大きいため、すぐに読み終わってしまったのが残念。もっと読んでいたかった。
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ロシア語同時通訳者にして作家であった故米原万里女史のデビュー作です。吐いた息はそのまま凍って顔中に張り付き、釣った魚はその場で凍りつき、おまけにトイレには屋根がない!?まさに『氷の世界』でした。
本書はロシア語同時通訳にして作家であった故米原万里女史の処女作であったのだそうです。この本が記されたときは旧ソ連体制であろうと推察されるシベリアを横断するヤクート自治共和国(現在はサハ共和国)を取材した旅行記でございます。冬の一番寒い時期にはなんと、マイナス50℃にもなるというまさに『氷の世界』でページをめくりながら全身から汗が引いてくるようでございました。
この取材に動向したのは山本皓一と椎名誠の両氏で、彼等の写真と解説も読み応えがあるものでございました。僕には想像すら出来ない世界ですが、本書にいわく、マイナス50℃の世界からマイナス21℃の世界に来ると、『暖かい』と感じるそうです。読みながら『どっちもどっちだろう!』と叫んでしまいそうになりましたが…。
米原女史の透徹した鋭い観察眼はこの段階からすでに現れていて、つり上げた魚が10秒ほどで『冷凍魚』になってしまったり、立っている家がいびつに傾いている様子を見て、ツンドラの大地が固まったり溶けたりを繰り返すことによるものだということを記してあり、なるほどなぁ、と感じ入ってしまいました。さらに、お世話になった家での食事が魚、生肉。に加え、てんこ盛りのバターに砂糖にミルクという、やはり極寒の大地を生きるにはこういう『高カロリー』の食事でなくてはならないんだなと、つくづく感じ入ってしまいました。
しかし、それに飽きた米原女史は日本から持ってきた食材を用いて現地の料理をアレンジし、『日本食もどき』をこしらえてしまうのです。そのときの写真が掲載されているのですが、スカートにヒールでしゃがみこんで料理する姿は本当に『切実』なものがあります。本書は比較的薄いので読もうと思えば小1時間程度で読み終えることは可能かと思いますが、行った事もない(あるいは、行くにはかなりの勇気がいるような)国に思いを馳せるには、本当にすばらしいルポルタージュであることは間違いないかと思われます。
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ヤクート(Yakut)語はテュルク語族に属し、ロシヤ生まれの言語学者ベートリンク(Otto von Böhtlingk:1815-1904)の物した研究書"Über die Sprache der Jakuten (ヤクート人の言語に就いて)"は、テュルク言語学の出発点となったと言われている。ヤクート族の自称はサハ(Sakha)。ヤクートはブリヤート(Buryat)族の言葉で「最果ての更に果て」を意味するのだそうだ。
本書中に触れられているヤクート族の英雄伝承群オロンホ(Olonkho: 14-15c./ca.)というのが興味深い。口伝伝承には当然ホメリダイの様な伝承者が存在するが、ヤクート族にはオロンホ•スーティと呼ばれる語り手があるとのこと。これは調べてみよう。
巻末に付された椎名誠氏の解説で、取材当時の微笑ましいエピソードが語られており、それが喪失感と相俟って、哀調に胸に響いて来た。
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お風呂の中で、マイナス50℃の世界にトリップ。旅好き&本好きな人と「トイレ」の話をすると、椎名誠と米原万里の同じような記述に必ずと言っていいほど辿り着くのだけれど、お二人はご一緒の取材旅行をされてたんですねぇ。再編のされ方も良かったと思います。でも何より、ヤクートというと、まずサハ語を思い出しますww
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<内容>
ロシア語通訳者として著名な米原万里による、シベリア滞在レポート。200年前にシベリアに漂着した日本人の足跡をたどるTBSのドキュメンタリー番組に同行した際の現地の生活について生き生きと紹介する名エッセイ。
<感想>
過酷な印象のあるシベリアの暮らし。自分の周りにも渡航者は少なく、未だ詳しい内容を知らない土地について書かれたレポートは非常に興味をそそるものだった。内容は子供向けではあるが、米原万里さんのユニークな視点を活かしつつもわかりやすく書かれた文章と、椎名誠さんの写真と解説で大人でも充分に楽しめる。
黒い毛の馬が、走るうちにかいた汗がたちどころに凍り、白馬となるという話や、釣り上げてすぐに凍ってしまう魚の肉をナイフで削ぎながら食べるというエピソードなど、凍土に暮らす人々の執念と知恵を知り、感動すら覚える。そういった、自分たちとかけ離れた生活の中に深く切り込み、独自の観察眼を活かして書かれた文章が面白くないわけがない。
所変われば常識も変わる、という当然のことを改めて知らさせる思いで、サラッと読めつつも深い余韻を残す、面白い一冊だった。
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氷が滑るのは、摩擦熱のせい。寒すぎるとたかが摩擦熱では氷は滑らなくなる。
日本に住んでいる我々の常識を覆す本。
信じられないような寒さのシベリア生活が純粋に面白い!
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表紙の写真が印象的だったので衝動買い。
米原さんのエッセイ風のものを読むのは2冊目だけれど、平易な言葉遣いでユーモアがあって読みやすい。そして食べ物の話には熱が入る。写真も多く掲載されていてよりイメージが膨らむ。
4章のタイトル「さいはてのさらにはて」という言葉から想像させられる世界が、幻想的で良い。
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寒い場所好きのワタクシとしては、著者の睫が凍っている表紙を見ているだけでもたまりません(変態(何
通訳者であり、作家・米原万里氏の処女作。200年前にシベリアに漂着した日本人の足跡をたどるTBSのドキュメンタリー番組に同行した際の滞在レポート。
いきいき楽しく読めます。
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バナナで釘が打てます。濡れタオルを振り回すと凍る……。自分の”寒い冬”の概念がことごとく覆されました。
滑って転ぶ、しもやけになる、車がスリップ等が、寒い国では日常茶飯事。
子どもは、かまくらを作って、雪合戦や雪だるまを作って遊ぶのだろうと、この本を読むまで思い込んでいました。
んがっ!全然違うのです。マイナス五〇度以下の世界おそロシア☆
とにかく世界観が違います。まるで氷魔法の使えるファンタジーな世界。
本を読みながら『マジで!?ひぇ〜』と何度も声にだし、たまげました。
あまりにも寒いと、雪は粉のようで、道路も固いので滑らないのだそうです。
スケートしたり、雪合戦は春先の遊びで、ある程度気温が上がり、湿気がないとできない遊びなのだそう。車が滑って危ないのも春先なんだとか。
マイナス五〇度の日は、無闇やたらに金属類に触ってはいけない。
瞬間やけどで皮ふがくっついて取れなくなっちゃう!
あまり時間のかかる処置をしていると、その間に凍死の可能性があるので、最短のことをやるみたいで、恐い話がひとつ載っていました。
マイナス五〇度以下になると、飛行機が飛べないことは、はじめてしりました。
なんでも機体の水分が氷結してエンジンの動きがにぶり、機体が重くなるので墜落の恐れがあるとか。
南極よりロシアのほうが寒いようですが、だから探検は犬ぞりだったり氷破壊する船なのかと、やっと理解しました。
自然の製品しか使うことができず、マイナス四〇度以下でプラスチック製品を持ち戸外にでると、瞬間に凍って粉々に崩れ去るそうです。
うぉーっ!まるで魔法のようです。
生活の細かい描写まではなかったのですが、きっと私の生活と全く違うものがあるんだろうなぁと強く感じました。
本書はヤクート人のことが書いてありますが、温厚なヤクート人のヤクート語には、あられもない言葉がほとんどないそうで、喧嘩するときはロシア語を使うそうです。
これには、大爆笑しました。狩猟民族なのに、大人しいというところもほのぼのしています。狩猟民族の概念も覆されました。
こんなに極寒なのに、マイナス三〇度のモスクア等より過ごしやすいんだとか。
空気に湿気があると、風が吹いたときに、より寒いそうです。
そして、そして!さらにマイナス六五度以下になると、ちょっと具合の悪い鳥などが落っこちてくるそうです。
小さな点に見えるぐらいの空を飛ぶ鳥のフンが肩に落ちたときに、強力なGを感じたことのある私は恐怖に震えました。
大きな氷が空から落ちてくるようなもんだ。恐いわー。
巻末の椎名誠さんの解説も面白いです。
飛行機も大体みたいで、シートベルトがあるところとないところがある。壊れたらそのまま。
墜落したら全員死ぬんだからそんなの気にしないという考えを読み、その思い切りのよさについ爆笑してしまいました。
黒い馬で走っていると、いつの間にか白馬に変わってる!
馬のかく汗が凍るので、自然と変身してしまうそうです。
���ーお!なんとファンタスティック!
凄く夢中になって読んだ一冊です。
写真もたくさんあって、わかりやすい。薄い本なのですぐに読み終わりますが、大満足の内容です。
やっぱり、自分が知らない世界のお話って興味深いですね。
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「こんなとこ住まなきゃいいのに!」まさにこれが正直な感想。極寒の地、というか「極寒」なんて言葉ではとうてい表すことなどできないであろう、まさに想像を超えた寒さ。マイナス50℃の世界は「寒い」という言葉を通り越して、「寒い」ことから連想される様々なことが(たとえばスケートとか氷柱とか)、実は日本での「寒さ」を想定した事象に過ぎないことを教えてくれる。
こんな寒い地ならわざわざ住む必要などないのでは?というのが最初の単純極まりない疑問。それゃそうだ。飛行機は飛ばない。バスだって霧によって危険極まりない。それでもヤクートの人々は、たとえヤクートより暖かいところへ行ったとしても、「体の調子が悪い」なんて言っては再びこの極寒の地に帰ってくるのである。愛着?そして体に染み付いた"何か"が彼らを故郷へと返すのだろう。その"何か"とは、米原氏一行が極寒の地でなんとか必死に日本料理を作ろうとしたのと同じように、それぞれの人の体にしっかりと染み付いた"文化"と呼ぶべきものなのかもしれない。
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世界には色々な文化がある。どんなところにも人間のあたたかいいとなみがある。自分達の常識は、外国では非常識になるのだ。世界でもっとも寒い国のあたたかい物語。
九州大学:えんぴつ
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裏付きに書こうと思ったことが全て書かれていてどうしようも無いのだが、米原万里様の処女作のヤクツーク取材記。マイナス50度を超える極寒の世界の見聞記。読んでるだけだと行ってみたくなってしまうが、行ったら死ぬほど後悔するのだろうな。
長男にも読ませよう。