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「原発推進政策」を軸にみると「敗戦国日本」の政治経済史が手に取るように見えてくる
2012/03/26 14:42
4人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:サトケン - この投稿者のレビュー一覧を見る
「原発推進政策」を軸にすると、「敗戦国日本」の戦後政治経済史が手に取るように見えてくる、そんな感想をもつ中身の濃い、読み応えのある一冊である。
すでに多くのノンフィクション作家が原発推進をめぐるこの戦後政治経済史について書いているが、本書のいたる所でその分析力の鋭さと洞察力の深さに、なんどもうならされる思いをするのは、著者がすでに『田中角栄-封じられた資源戦略石油、ウラン、そしてアメリカとの闘い-』(草思社、2009)において、エネルギー問題を軸にすえた戦後史への鋭い斬り込みを示していることにもある。
広義の安全保障には、軍事力だけでなく、国民生活の根本にかかわるエネルギー問題と食糧問題が大きな意味をもつ。
「石油の一滴は血の一滴」という名台詞を吐いたのは第一次大戦当時のフランス首相クレマンソーだが、日本が第二次大戦で敗れ去ったのもまた、エネルギー源である石油が絶対的に不足していたからだ。「敗戦国日本」が「唯一の被爆国」でありながら、政治家たちが原子力に着目したのはエネルギー問題の観点だけでなく、真の国家独立を獲得するために核武装へのつよい憧れが原発推進の「隠れた動機」であったことも、本書ではつぶさに検証される。
権力ときわめて相性のいいのが原子力だ。こと原子力をめぐっては党派を超えて戦時中の大政翼賛会的体質が見え隠れするのはそのためなのだ。政治家、官僚、電力会社という鉄のトライアングルをめぐる関係も、じつは一筋縄ではいかない複雑さがあることを感じ取り、日本が高度経済成長とひきかえに、いかに国土だけでなく人心をも荒廃させてきたかを知るためにも、ぜひ読んでおきたい本である。
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原子力を政治の舞台へ引っ張り上げたのが日本の再軍備化を公言する中曽根だった。
中曽根は以下に重点をおいた。
・弔意的な国策を確立すること
・法律と予算を持って国家の意志を明確にし、安定的研究を保証する
・第一級の学者を集めること
そして中曽根は海軍時代の人脈を多いに活用した。
ユダヤ人のキッシンジャーはその人脈を活かして、欧州や南アメリカの原子力に注力した。
グーグルの狙いはスマートグリッドとトリウム原子力の愛称を探ること。
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原発系固め読み第二弾!
戦後の支配者たちの原発に関わった歴史。
原発の歴史は戦後の核武装準備に始まったが、今や原子力関連組織の保存、自己目的化だとバッサリ。
核武装のためにプルトニウムが必要だからプルサーマル(使用済み燃料の再利用)してたのね…。
一瞬トンデモ本かと思ったけど…。どうやら核武装論の線は本当のようだ。
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原発問題を、政治と権力という視点で戦後間もない時代に遡って掘り下げている。
いわゆる原子力ムラというのがどのように形成され、どんな構造を持っているのか、なぜ原子力なのかという背景が非常によく理解できる一冊。
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「国策」として推進されてきた原発は、結局のところ一部の人間の金銭欲、権力欲を満たすための道具だったに過ぎない。
最後に付けを払わされるのはいつも弱者たる国民なのだ。
日本人よ、もっと怒れ!
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科学者の純粋な興味,日本の再軍備のための政治家の思惑が最終的にドロドロした利権の温床になる様子が見て取れる.
結局のところ本質的な原因は「失敗の本質」にも繋がる日本人の決められない,問題を先送りにする体質にあると思った.
現在はこの利権問題と電力不足の問題が混同して語られ,最終的に原発再稼働する・しないの2択になっていしまっているが大きな問題.現実的には最低限の原発を動かしつつ脱原発を進めていくべきだと思うのだが,決められない現状をみると日本人はここ50年進歩していないのだろう.
※ちなみに,原発と核は必要な技術が大分異なると思うのだが,本文中では原発=核という扱いになっているのに違和感を感じた.ここらへん知識が足りない.
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[ 内容 ]
原子力発電、それは戦後日本にとって最高の電力システムだった。
再軍備ともつながるその魅力に多くの政治家は飛びついた。
いち早く原子力予算を成立させ、日本を原発大国にした中曽根康弘。
CIAと結びつき、総理の座を狙うために原子力を利用した正力松太郎。
ウランを外交戦略の要に据え、東奔西走した田中角栄。
権力者は原子の力を我がものにし、こんにちの日本を形作った。
戦後から連綿と続く忘れさられた歴史をいま解き明かす。
[ 目次 ]
第1章 「再軍備」が押しあけた原子力の扉(すべては逆コースから始まった;巣鴨プリズンで読んだ英字紙 ほか)
第2章 原発導入で総理の座を奪え!(主役は正力松太郎;CIAとパイプを持ち、マイクロ波通信網を構想 ほか)
第3章 資源と核 交錯する外交(新潟が生み出した田中角栄;原発の地元誘致のカラクリ ほか)
第4章 権力の憧憬 魔の轍「核燃料サイクル」(下北半島を日本有数の原子力基地に;使用済み核燃料再処理の壁 ほか)
終章 二一世紀ニッポンの原発翼賛体制(核武装を口にする孫世代の議員たち;核保有に等しい原発の存在 ほか)
[ 問題提起 ]
[ 結論 ]
[ コメント ]
[ 読了した日 ]
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FUKUSHIMAの直後に出た本なので、FUKUSHIMAに関することがたくさん書かれているのかと思いきや、2000年以降の話はあまりありませんでした。
カバーのそでにも書かれているように、中曾根康弘、正力松太郎、田中角栄の3人に焦点を当てて原発政策について語ることで、原発に付随する権力を明らかにしようとした本なので、もっと前に出ていてもおかしくないのですが、タイミングを図って、FUKUSHIMAの直後に出版したものと思われます。
技術的なことにも触れてはいますが、そこはどこからか引いてきたことを書いているだけのようなので、技術面に関しては、あまり信用しない方がよさそうです。
また、一次情報は少なく、基本的には二次情報に基づいて書かれており、足りない部分は著者の想像で埋めているので、想像に過ぎない部分がかなりあることを前提に読んだ方がよさそうです。
ロジックについても若干「?」な部分があります。
とはいえ、原発に関わる政府や電力会社のあり方の歪みに関する記述については、概ね正しいものと思われます。
原発の導入に関しては、少なくとも政府は、日本のエネルギー政策について、もっと長いスパンで、もっと大きな絵を描いた上で、さらには、それらの絵を5年ないしは10年単位ぐらいで、状況の変化を考慮して大きく見直しながら進めるべきだと思うのですが、最初に描いた絵に固執するとともに、小手先の対応で進んできたように思います。
政府や電力会社には、SDGsや再生可能エネルギーが叫ばれる今こそ、大きな絵を描き直して、エネルギー政策を立て直してほしいと、強く思います。