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何年も何年も待ち続けた作品。
読了すると、たった800ページしかないのか…と切なくなる。
今回の思想対決は、いつもより難しく思えた。所々ただ文章を読んだだけという箇所が結構あった。
難しいのはいつもだけと、再読しながら少しずつ理解していくのがこのシリーズの常なので、難しいのもまた味だ。
今回、一番面白かったのは、第六章“否定の神学”かな。
カケルの“男の現象学的意味と女の本質”の話はとても面白い。
前にも出てきた『むきあい』『ならびみ』『わたしみ』の話は、前回よりも、今回の方が上手く話に乗っかってて、わかりやすかった。
“男も女もない、存在するのは母と子だけだ”
この章の後半、カケルとルブリョフの否定神学の話から、『サマー・アポカリプス』のシモーヌの思想が重みを増したのも興味深かった。
“神は存在しないと思いながら神に祈らなければならない”
シリーズを読み進めて行くと、前の作品を更に深く読めるようになる。だからまた最初から読みたくなる。読む度に、新しい発見がある。
だからこのシリーズはやみつきになる。このシリーズを愛してやまない理由はここにある。
ま、最後に、バートリ・エルジェベト出てきちゃって、『あれ?』って思ったのは確かなんだけど(笑)
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パリの町で週末ごとに起こる連続殺人事件。全身の血を抜かれた女性の死体、犠牲書の体に残された謎の文字の意味するものは……。
相変わらず、濃厚で難解ですなぁ。事件そのものよりもラカンやクリステヴァをモデルとしたキャラクターとの思想的対決にページが割かれるいつもの笠井潔節に頭がクラクラする。これはこれで愉しいんだけどね。
謎解きとしてはロジカルなガチガチの本格。特に血を抜かれた死体や死体に添えられた徴の多義性に関する論考には唸らされる。
面白かったけど、800ページ超はさすがにちょと疲れたかな。
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矢吹駆シリーズ
ルーマニアから亡命してきた将軍チモチュフェ中将の殺害事件。現場に残された「D・R・A・C」の文字。捜査に当たるモガール警視。同時に起きる「ヴァンピール」事件。被害者の女性は身体の血を抜かれての死。「ミノア島」事件の後遺症により精神科医の治療を受けるナディア。ルーマニアからの亡命者で元体操選手タチアナ。タチアナとともに亡命したコーチ・ルブリョ氏。チモチェフ殺害の影にあらわれるルーマニアの諜報部隊とニコライ・イリイチ・モルチャノフ。
2011年11月6日読了
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矢吹駆シリーズ。またしてもとんでもないボリュームで、とんでもない薀蓄の数々が。読み終えたときの充実感は圧倒的でした。
「ヴァンピール」による連続殺人と、ルーマニアからの亡命者に関わる心理分析。一見無関係な事件に共通するある事柄。犯人と、その動機。魅力的な要素がいっぱいです。神学や心理学を巡る論議も盛りだくさん。とても勉強した気になりました。
ひとつきりではない事件の解決は、ラストに至ってもなかなか気が抜けず。さらに宿敵イリイチの暗躍にも目が離せません。終盤では読む手が止まらず、一気読み必至。
だけど一番衝撃的だったのは。ムーミンがカバではないと知ったことでした(笑)。
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久々の新作。
ムーミンはカバというネタは日本だけのネタだとてっきり思っていた。
内容は哲学の話がありますが、今回は精神療法の話がメインでした。
大学で精神科の歴史や精神療法を少し勉強していたので、今回はそこまで混乱はしませんでした。相変わらず難しかったのですが。
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疲れた〜。
なんとか読み終えたけど、あまりに疲れてしまって、面白かったのか面白くなかったのかさえも分からない。
とはいえ、最後まで読んだって事は面白かったってことですよね。
シリーズ物だってことに読み始めて気付いたのだけれど、初めてでもこの作品単体で読めました。もちろんシリーズを順番に読んでいた方が楽しめるのは間違いないでしょう。
とにかくもういろんな知識が詰め込まれていて、わけが分からんなぁとなりつつも、知的好奇心はいたく刺激されました。
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『オイディプス症候群』でひさびさに復活した矢吹駆(カケル)とナディア・モガールが送る哲学ミステリー。怪異な要素を多分に帯びた連続殺人事件を現象学を駆使した「本質直観」よって解明するというスタンスは変わらないものの、『哲学者の密室』で極点に達した実存を巡る差し迫った危機感は和らいでおり、安心してページをめくることができる。題名から明らかなように、本作ではこれまで笠井潔が固執してきた観念論から距離を置き、身体論に重きを置く心理学に焦点を当てている。フロイト、ラカン、クリステヴァなどを批判的に検証することで、「神とはなにか」という命題に迫ろうとしている。そもそも現象学やそこから派生した実存主義も、コリン・ウィルソンが指摘しているように生々しい身体論に行き着くように思う。カケルの宿敵であるイリイチが『オイディプス症候群』でHIVに感染したという設定を複線として、笠井潔がどこに論点をもっていくのか。免疫疾患とは異物を「異物」と認識できない状態であり、他者性が曖昧になるという視点から、いろいろ転回できるように気がする。
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読了感満載。何度か理解不能に陥りましたが、今回も多くのことを学ばさせて頂きました。もはや学術書。想像するに難い笠井さんの知的情報量。
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矢吹駆シリーズ第6作。相変わらず分量的にも内容的にもすごいボリュームで、もはやミステリというより学術書。
女性が血を抜かれて殺されるという連続殺人にモガール警視をはじめ警察が翻弄される中、ナディアは前回の事件の後遺症に悩まされて精神医のもとを訪れる。そこで知り合った少女に奇妙なことを頼まれたことから、彼女も事件に巻き込まれ…
ラカンをモデルにした精神分析、ルーマニアのドラキュラ、キリスト教義などさまざまなピースが組み合わさって複雑な話を織り上げているが、もう少しシンプルに書いてくれないものか…と思うのはこちらが年をとったからだろうか。
今回はカケルの出番も多いし、イリイチもチラッと登場。ラストの黒幕(?)には驚いたが、ムーミントロールの存在感が(ストーリー上)すごいのにはちょっと笑った。
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矢吹駆シリーズ第6作。これまでの作品と同様に非現実的な状況の中での事件を、一つひとつ論理を積み重ねて謎を解き明かしていく。そこがこのシリーズの醍醐味。今回は精神分析がテーマだが、この1冊を読んだだけでも心理学のテキストを何冊も読んだ気になるほどの知識量。相変わらずペダンティックな部分のたまらない。
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ふうっ、長かった。
因縁と宗教と精神分析。理屈っぽくて、横溝正史っぽいおどろおどろしさと、ほんの少しの胡散臭さ。
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哲学の装飾を剥ぎ取ってもミステリとして良作であるのが作者の持ち味だったはずだが、本作はミステリの筋はやや平凡、前々作あたりからかもしれない。
そろそろ、装飾の方が自分の専門から外れてきているようなので、あまり無理をしないでミステリの本筋のほうに力を入れてはもらえまいか。6.5
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題名通りの精神分析とか吸血鬼に関する蘊蓄は難解。ミステリーとしては精神異常に逃げては反則でしょうという感じ。
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待ちに待ってた矢吹駆シリーズ六作目。相変わらず分厚い……ミステリーとは離れた哲学・神学的パートの方が多く、これまで読んできた中で一番、途中目が滑るまま読み進めてしまった。それでもお話の動きが青銅の悲劇の時よりも好みで(青銅の悲劇が個人的に非常にアレだったので、その後出てきたこの作品が大丈夫なのか実は不安だった)、一気読み出来る面白さがあって良かったなと。なので★は4つくらいで。
最後にきた「!?」となる仕掛けがあまりに不意打ちだったのだけど、小説だしな……と思いつつなんとか飲み込んだ。あと相変わらず、駆と一緒の時のナディアは可愛く思えて癒しだった。
既に連載は終わっているという次の「煉獄の時」の単行本化が楽しみです。
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秋葉原ブックオフにて購入。十部作後半戦の緒戦たるこの6作目にして遂にイリイチ御大のご尊顔(横顔のみだが)とお声を拝むことができ、物語が佳境に入ったことを感じずにはいられない。一作につき一哲学者という従来の展開を覆し、ラカンとクリステヴァを向こうに回すというゴージャス感もナイス。思想戦とミステリパートの乖離は確かに顕著だが、本編の現象学探偵がアレな態度で事件に臨む以上、むしろ力業で融合を図らなかった点をこそ評価すべき。終盤絡みで『黒い仏』に言及している書評を見かけたけど、宜なる哉。こういうテイスト大好き。