紙の本
鬼が出て来てくれたほうが、よっぽどこわくない
2012/03/13 18:39
4人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:saihikarunogo - この投稿者のレビュー一覧を見る
暗い。怖い。救いがない。新聞に載るような事件の当事者が味わっている感じを文章にしたらこんな感じなのだろうかと思う。文章はとてもうまい。具体的で無駄がなく、そこにあるすべてのものが目に見え、耳に聞こえ、鼻で臭いが嗅げるようだ。登場人物の抱く感情はどれもはっきりと表情で示されている。だから、一人称の主人公の日常のやりきれなさや、劣等感や、みじめさなどが、ひしひしと伝わってきて、ある日、狂気のような行動にかられるのも、納得できる。それだけに、恐ろしい。狂気の行動にかられたその先にあるのは、孤立、隔絶、冷たさ、侘びしさ。
もっとも、すべての主人公が、犯行後、日常から切り離されるのではない。一見、幸福な結婚をして円満な家庭を築いて平穏に何年間かを過ごす者もいる。必ずしもみじめで孤独な主人公ばかりではない。
6編の短編のそれぞれに、鴉が登場する。鈴虫や蝶などの生き物の使い方もうまい。また、叙述に工夫が凝らされていて、終わりのほうで、あっと驚くどんでん返しもある。たとえば、日付が過去にさかのぼっていく日記で、初めはガラスの引き戸に新聞紙が貼られていることがさらりと書いてあって、何かでこわれたのかなと思うと、また次に、食器戸棚のガラスにも新聞紙が貼られていると書いてある。そして最後に、なぜそんなことをしてあるのかという理由が明かされるのを読んで、あわてて読み返す。引き戸と食器戸棚のガラスの記事の間に、勝手口に鏡を捨てた話があった。そこを読んだときには、ただ、鴉がそれで嫌がってやってこなくなったという話に注意が向いて、引き戸や食器戸棚のガラスとは結び付けていなかった。すべての理由を知って、初めて、そうだったのか、やられた、と思った。
どの小説にも、「不吉」だとか「凶」だとかいった言葉は出てこないが、そういう言葉が表わすものの雰囲気だけが取り出されてつきつけられているような感じがする。「不吉」だとか「凶」だとかの言葉を使ってもらった方が、よっぽど、こわくない、気持ち悪くない、恐ろしくない、と思うほどだ。
読んだあと、厄落としでもしたくなって、書評をしておくことにした。
紙の本
くろくろくろ
2016/05/26 22:14
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投稿者:szk - この投稿者のレビュー一覧を見る
あらすじにある「刑務所で作られた椅子」に引込まれ、よしこれを読もうと。6つの短編集。すべてSがらみ。どのSも狂気と哀しさをまとう。『ケモノ』が一番面白かった。冒頭の『刑務所で作られた椅子』の話でもあるし。もうとことん虚無。やるせなさとか切なさなんて遥か彼方に行ってしまっている。この小説を読んでから、『向日葵の咲かない夏』を読んだ方がよかったのかもしれないとふと思う。読み手を惑わし、落としどころがない黒い空洞を感じさせる話。慣れてしまえばどってことない。むしろ魅力的でもある。道尾氏に嵌るワケ、ここにあり。
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2011/11/25 Amazonより届く。
2020/10/16〜10/17
心に『鬼』を抱えている6人の男女(Sで統一されているが、説明はない)が引き起こす闇深い事件を描く、短編集。「鈴虫」、「ケモノ」、「よいきつね」、「箱詰めの文字」、「冬の文字」、「悪意の顔」の六篇。最後の作品が一番良かったかな。
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鞄の中にいれておくのがちょっと怖い。けど、読み始めるとつい引き込まれる。怖い話は苦手なのに困るなあ。読み返すのも怖いのだけど、しばらくしたらまた読みたくなってしまうかも。
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オチのひっくり返し方とかありがちな話もあるけど、道尾さんが書くとこうも面白くなるのか。短編だけに軽くあっさりだが、短編ならではの切れ味。
道尾さん自身がTwitterで「よいぎつね」のオチに対して、論理的に解決できる道が一つだけあり、同書の別短編にヒントがある、と言っていたので、いつかその辺も考えつつ再読しよう。
収録作品
「鈴虫」「犭(ケモノ)」「よいぎつね」「箱詰めの文字」「冬の鬼」「悪意の顔」
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長編だと思い込み読み始め、2話目を終えたところでようやく短編集であることに気がつきました。(遅いって!!)
6話すべて別々の話だけど、共通しているのは「S」と呼ばれる登場人物。
「S」はいじわるでもあり、悩み苦しむこともあり、すべてを受け止めてくれる器の大きい存在でもあり・・・
タイトル「鬼の跫音」と同名の短編はありませんが
どのストーリーも人間の心にある「恐ろしい部分」がひたひた近づいてくるような、そんな話です。
一話読み進めるにつれて怖さが増してくる気がしました。
怖くておもしろかったけれど、やっぱり長編をじっくり読みたいな。
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うーん。。。ふつう。
長編で見せる良い意味でのこじつけ感が、短編だとシンプルにまとまっただけになっててあっさり味。
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刑務所で作られた椅子に奇妙な文章が彫られていた。家族を惨殺した猟奇殺人犯が残した不可解な単語は哀しい事件の真相を示しており・・・。(「ケモノ」)同級生のひどい攻撃に怯えて毎日を送る僕は、ある女の人と出会う。彼女が持つ、何でも中に入れられる不思議なキャンバス。僕はその中に恐怖心を取って欲しいと頼むが・・・。(「悪意の顔」)心の「鬼」に捕らわれた男女が迎える予想外の終局とは、驚愕必至の衝撃作!
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不安の煽り方が凄く好きだ。
心がザワザワして、辺りを見回してしまう。
「冬の鬼」の狂いかたが特に好き。
愛情って、怖くて暗く深くて狂おしいモノなんだなぁ・・・
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恐ろしい、恐ろしい話だった。
人の心とはかくも変容してしまうものなのでしょうか。
ほんの少しの捻れが、歪がいびつな形で実を結ぶ。
特に『鈴虫』と『冬の鬼』が一等、狂っていて美しいと思う。
これは夏ではなく、ひたひたと寒さを感じる冬に読むに相応しい、底冷えする怖さですね。
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道尾秀介は間違いないね。
6つの作品からなる短編集。
巻末の解説が京極夏彦というのもなんとも豪華。
これは乙一のトーンにとても似ていると思った。これが好きな人は乙一の『zoo』もおすすめ。
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何気なく買ったのだけど、短編集でした。
でも、どれも面白い。
ひとつひとつの話は短いし、本自体の厚みも薄いので一気に読めちゃいます。
全話にSという登場人物が出てくるけど、他の話とは別人物だって分かっていても、関連性が気になってしまう・・・。
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文庫での再読。
大好きな道尾の作品だが、一度目に読んだときは特に心に残ってはいなかった。
改めて読み返してみて、こうも印象が変わった小説は珍しい。
6人のSと6人の主人公。その誰もが狂気じみていて、「鬼の跫音」というタイトルは収録作品どれもに通じるものがある。
どれも短編の中でも短いほうのもので、すぐに読めてしまうのだが、ここまで重くのしかかるような短編は珍しいのではないか。
道尾秀介の小説はすべて読んでいるが、なかでもトップの好きな作品となった。
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6話の短編
「犭(ケモノ)」が一番面白かったかな・・・
最後は予想もしていなかった展開に驚き。
どちらかと言うと、読み終わってすっきり面白かったが好きなので、後味の悪いのはどうも苦手。
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道尾秀介氏は先日NHKの週刊ブックレビューに出演しているのを見かけた。テレビで見ると、何故か親近感を覚えてくる。
同氏の短編を読むのは初めてだが、洗練されてよく出来ている。短編の方が出来がいいかも。
6編あるが、いずれもちょっと怖いストーリーだ