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マシュー・スチュアート(桜井直文、朝倉友海訳)『宮廷人と異端者 ライプニッツとスピノザ、そして近代における神』書肆心水、2011年。
「不気味に自足した賢者」と「究極のインサイダー」の邂逅。
廷臣ライプニッツは破門の異端者スピノザの思想の何を敬い、何を恐れたのか。本書はその足跡を丁寧に辿る一冊。ライプニッツに注目することでスピノザの思想をも照射するその手法には驚くが、最新の、そして格好の入門書でもあろう。
二人が生きた17世紀ヨーロッパ。それは単一の神の世界が動揺した時代でもある。劈頭にガリレオ裁判があり、末尾にニュートンが現れる。すでに前世紀の宗教改革という事件とそれに起因する宗教戦争は、宗教を不安におびえさせていく。
さて二人の生まれ育った地域と身分は非常に対照的である。そしてスピノザは自由を謳歌し、あぶらののりきった共和国・オランダで「不気味に自足した賢者」として過ごす。対するライプニッツは、宗教戦争の余塵くすぶるドイツのハノーファー選帝侯領に使え、手練手管を尽し万能の天才ぶりを発揮しようと活躍する「究極のインサイダー」だ。
スピノザは単一神の瓦解を聞き、自由に宇宙を新しく配置していくのに対し、ライプニッツは、新旧キリスト教の和解を願いつつ思索を深めていく。二人の直接対決はスピノザの家で3日間行われたというがその内容は明らかではない。
当時の先端技術ともいえるレンズ磨きを生業としながら、そしてユダヤ教会から破門されながらも、新時代の革命的思索を遂行しようとするスピノザ。それに対して先端知をおさえ、応用・展開しつつも、保守的と揶揄されたライプニッツ。彼は生涯をかけて人間と神の尊厳を守ろうと試みる。
本書は二人の哲学者の生と思想、そしてその時代を丁寧に活写する。そして二人の発想の違いが以後の西洋哲学を特色づけていく様子を展望する。
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これは素晴らしい。
スピノザとライプニッツ、同時代に生きた二人の大学者、その生涯と哲学、そして対決を主軸とした一冊です。
とにかく圧倒的にスリリング。地上的なる天才・ライプニッツと自足した怪物・スピノザ。この、二人の大学者の生涯から哲学にまで至る対比を鮮やかに描き出しています。
本書の眼目といえる、ライプニッツがスピノザ哲学に衝撃を受け、当人と対面し、やがてスピノザの影に追われるようにして自己の哲学を構築していく経緯はドラマチックそのもの。どこまでも超越的であるスピノザに比べ、実に人間くさいライプニッツの生涯は強い印象を残します。
スピノザとライプニッツの思想も丁寧に解説してくれますが、さすがにそのあたりは少々難解。特にスピノザについては入門書に目を通しておいた方がいいかもしれません(講談社現代新書『スピノザの世界―神あるいは自然』をお勧めします)。
とはいえ、二人の軌跡が絡み合う様を追うだけでも興味深い読書体験となりましょう。是非どうぞ。
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スピノザとライプニッツ。同時代に生きた哲学者達の人生と出会いを俯瞰する。2人の思想やその違い、スピノザの思想が当時の社会状況から考えて、とんでもなく反社会的だったということも何となく理解出来たような気がする。
要するに神の概念を書き換えることが逆鱗に触れたみたいね。本人は神に始まり、神に終わっていたというのに。
17世紀はまだまだ現代には遠い。
この中ではライプニッツはスピノザに比べて随分俗っけの多い世渡り上手みたいだけれど、状況を考えれば仕方がないと思えた。
誰もがスピノザのように信念と勇気があるわけではないし。
2人が比較的自由にものを言える現代に生きてたら、いったい何を思うだろう。