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こういう重厚な、刑事物というのは大好き。
特に水上文学の中にあって唯一の推理小説であるということも泣かせる。
名匠内田吐夢によって映像化されたさいは、三國連太郎が極悪非道の殺人者であり、本編の主人公である樽見京一郎を熱演した。
この原作を読むと、あの映画は、たんなるダイジェスト版であったことを思い知らされる。
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松本清張風の社会派ミステリー。社会背景が興味深く物語に力があるが、前巻のネタバレが興趣を削いだ。殺されるヒロインがあまりにも不憫。
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人物や風景の描写、時代設定がとにかく丁寧。まるで実際に起こった事件のルポタージュを読んでいるよう。日本版レ・ミゼラブルと言われれば確かにその要素は強い。樽見京一郎の壮絶な人生を、刑事の視点から追った伝記のようなものにも感じる。
十年以上、道内から関西までと時間的・空間的に広大ながらも、ひとつひとつの設定が細かく、決して持て余してはいない。戦後の騒乱の残り香を感じる大作。
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またもや再読。はさまってるレシートの文字はすでに消えかかっているが、2004年の日付が。だからこれも何かのきっかけで映画を観たあとに読んだものだろう。であるじゃによって、読んでいても三国連太郎が浮かんでくる。
推理小説だが文芸作品でもある、こういう骨太な小説って、少なくなったなぁ。
戦後すぐが舞台で、警察捜査も現代のように科学捜査ではなく足での捜査というところにドラマ性が生じやすいのかも。
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「飢餓海峡」のDVDを借りてみたのは、震災直後のことだった。「この主人公のように、震災前とは全く違う人間になって生きていく人もいるのかもしれない」そんなふうに考えたものである。
出演:三國連太郎、 伴淳三郎、 高倉健、 左幸子
そして改めて小説を読んでみる。
その時代描写に馴染むのに少し手間どり、出だし読みにくかったが、八重が登場してからどんどん引き込まれていき、そのストーリの面白さと人間描写に圧倒される。
最近、現代推理小説を読んで何故か物足りなさを感じたが、作者のあとがきにその答えがあった。
作者は、「飢餓海峡」を書き終わってから推理小説への情熱を失った。
「私はそういう小説の娯楽性を否定するものではなく~(中略)。けれども、それがいくらよくきまっても、よく仕上がっても、どこかからふいてくる空しさ、それががまんならなかった。たとえ、人によろこばれなくても、おもしろがられなくても、作者がこれだけは書いておきたかった、というような小説があってもいい。しずかに、人生を語る小説があってもいい」
作者は登場人物に愛着をもち、その人生に興味を持っている。だから登場人物からは匂うような人間性がにじみ出ている。
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ミステリーとしてはあんまり評価できないが、そもそも本作は人間を描き出すことに主眼があるのだろうからその点は問題ないのかも。
ただ京一郎の描写は正直あまり感心しない。
八重とか刑事、時子らと比較し、何処か薄い感じがする。
最終的にはこの人物の葛藤に収斂していく訳だから、ミステリーとしての弱さがこの人物、ひいては本作の重厚感に物足りなさを感じさせてしまっているのかもしれない。
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飢餓海峡。標題がこんなに内容に合う著作は少ないのでは。餓えているのは行きつ戻りつの人間たちなのか、
その業なのか。
ネタバレを恐れ書けませんが、もう少し思いやる余裕があれば、八重も京一郎も違う人生があったはず。
どちらの人生も泣けます。自分の良く知る地名が舞台で感無量です。
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弓坂元刑事と味村刑事の執念の捜索が続き、実を結ぶ。推理小説とは違った人間小説と著者は言うが、そのとおりだと思う。ユゴーの「レ・ミゼラブル」や清朝の「砂の器」と似た匂いを感じる。樽見の最期はあっけなく、ややさみしい感があった。2016.3.19
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地元の大作家でありながら未だに読んでいなかった自分が恥ずかしい。
戦後の混沌とした世界の中に実在したであろうと錯覚すら陥る登場人物の描き方。当時は貧しかった。貧しさが当たり前だった。こんなに引き込まれたのは久しぶりだ。
さあ明日から水上作品を読まねば…
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古典的な大河小説。ちょっと大時代な部分もあるが,感動できる。地理的に理解しやすい部分もあり親近感が出た。
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読み終わった。最初は「ゼロの焦点」っぽい感じかなーふむふむ、と読み進めて、なんとなく刑事側に肩入れできずに読みすすむ。
語り口が事件調で、サスペンスっぽいなんか起こりそうな不吉さにヒヤヒヤして引き込まれ、あっという間に前半読み終わる。
ただ後半の八重ちゃん事件後になると、刑事たちの謎解き?パートがやったらと長くて、何回同じことしゃべんねん、あと何回出張いくねん、無駄遣いすぎやろ!!と突っ込んでしまう。
最後のあとがきで作者自身がミステリーに飽いてしまい、人間ドラマや社会を描きたかったと言っていたのを読んで、なるほど刑事たちは今まで書こうとしてきたミステリーが作らせたキャラで、犯人の主人公たちはそれに抗う筆者自身だったのかもしれないなと思った。
だからこそ、リアクション側、やっぱり刑事側のリアクションにイマイチ真実味や人間味がないというか、嘘っぽくて読みにくいのかもしれない。
無理に事件解決を焦点にあてなくてもよかったかも、あるいは刑事側のドラマや人間味をもう少し掘り下げてもよかったかも。そっちの方はなんの事件もなく、ただ〇〇な人間であった、という説明だけでどの人もまったく感情移入できなかった。むしろ警察側は私たち読者目線というか、ただ物語を読みたいだけの人に見えた。犯人側じゃなくて正義側の動機が抽象的で響かなかった。
そもそも犯罪者が増えるのは社会の不手際だと思うし、むしろ警察組織とか刑務所とかにかけるコストは社会問題を解決するためのコストに回したらいいんじゃないか、悪者ばかり作って弱いものイジメをして何の正義があるのだろうと思った。
主人公たちこそ貧しい田舎に恩を返そうとしていて立派だし、警察の方がのうのうと税金で暮らしてめっちゃ捜査にお金をかけてていらないなと思った。この本の中の世界の話では。
むしろ作者のあとがき含めて謎解きになっていた。書きたくて書いてたはずなのに、書き続けたことで抑圧されて書くことのエネルギーになったという不思議な話で印象強かった。書ける作家の方が情熱的にも思えるけど、作家が書けない、書かないというのは本当に困った、書けることよりももっと根強い感情があると思う。もはやどう書こうか、という葛藤そのものを私たちは見せられている気がする。だから最後まで読めました。
そう考えると、たしかに人の悩みとか愚痴とか、長々と聞けなくて途中で打ち切っちゃうタイプかも。だから同じことの繰り返しに飽きたのかも。ごめんなさい。
最後の独白のシーンはとてもよかった。あと戦後の日本の描写が好きなのでその街並みとか産業とかもおもしろかった。やっぱり戦争がらみの本は好きだなと思う。ちょうど一昨年くらいに亡くなった101歳の曾祖母と作者が同世代で、「やっぱり、厳しいのが好きだねぇ。生ぬるいのはダメだね」と言ってミステリーばっかり読んでいた曾祖母を思い出した。彼女と同時代を生きた人が書いた小説なんだなぁと思うと、より感慨深かった。その点でもこの本がミステリーじゃなくて社会や人を書いてくれていてよかった。
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1963(昭和38)年刊、昭和のミステリの名作ということなので、読んでみた。作者の水上勉はミステリ作家というより普通小説の作家のイメージで、以前読んだものにはあまり魅力を感じなかったので興味を抱けない作家だった。
本作は全体としてミステリの大枠を持つ。殺人等の犯人は最初から分かっているが、具体的な行為や背景の真実を求める形のミステリである。
しかし、下北半島出身の娼婦杉戸八重の境遇の変化が上巻の後半で延々と語られ、人間の生き様や運命をヒューマニスティックに描く普通小説としての側面が強い。単純にミステリを読みたいと思ったこんにちの読者なら、本作を長すぎて退屈なものと感じる可能性があるだろう。刑事たちが試行錯誤を繰り返しながら捜査を続けるさまも、延々と続く。
昭和22年あたりから物語は進み、その頃の東京などの風俗が丁寧に描かれ、同じ時代を扱いながら横溝正史作品などとはやはり違う観察があって、私にはとても興味深かった。
巻末の作者あとがきに書かれているように、娼婦杉戸八重の人物像には、ドストエフスキー『罪と罰』のソーニャのイメージが、確かに重ねられているが、魅力的だ。もっとも、彼女は上巻の最後で死んでしまう。
昭和22年の殺人放火事件を北海道から東北と東京にまで執拗に捜査を続け未完となった刑事の努力と、下巻の初めから描写される10年後の殺人事件を追う京都府の日本海側、舞鶴市の刑事の捜査とがやっと結び付いた場面は快感であった。さあ、いよいよ捜査が大詰めを迎え、一気に盛り上がるぞと思ったら。かなり冗長な捜査の描写が続き、辟易した。
容疑者や被害者の生い立ちを現地に行って調べる場面が長く続き、ミステリとしては緊張感を欠く。が、きっと作者はこのように書きたかったのだろうと納得する面もある。人物たちの生涯を浮かび上がらせたいという普通小説としての欲求が強いのである。しかも、それを追求する刑事たちの姿も細やかに書きたかったようだ。だが、被害者の遺族に毎度毎度強く同情する刑事たちは、ちょっと主情的すぎる感じがした。
松本清張なら冗長さを省略し、端的に事実をまとめて記述するだろうと思う。清張のドライで冷酷な傾向と、本作のウェットな文学スタイルはかなり正反対に近いようだ。
結局無駄足になる捜査の描写が延々と続くし、刑事たちの間違った推測も長々と維持される。上巻の杉戸八重を中心としたストーリー描写によって読者はとっくに知っているのに、数百ページにわたって刑事たちがずっと思い違いを続けている事に、読者は「だから、それ違うって」と苛立ってくるに違いない。おまけに、最後まで読んでも判然としない犯罪のディテールは残るし、長々と記述された推理の伏線もいくつか回収されずに終わってしまう。
これでは、ミステリとして期待して読んだ者をがっかりさせてしまうだろう。
人間ドラマとしては、杉戸八重など娼婦たちの人物像は魅力的に感じたが、「犬飼多吉」の方にはほとんど共感できなかった。戦後の風俗や僻地の貧しい村の描写については、大変よく書かれていて良かった。
が、数十ページにわたって克明に描写された捜査内容を、その後の捜査本部会議で��事たちがまた克明に口頭報告するのをそのまま長々と書くような冗長さには、呆れてしまった。読者はとっくに知っていることなら、「刑事は調査結果を報告した」と簡潔に書けば済むのに。
とはいえ、全体としては面白く、楽しませて貰った。記憶に残りそうなイメージも多かったと思う。
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号泣。
全人類読んで。
八重ちゃん殺されたのがあまりにもショックすぎて
「作者許すまじ手紙にカミソリ入れてやる!!!」
って思ったし、犯人絶対バチゴリに追いつめられて欲しいって思ったの。
でも、どんどん犯人の過去や想いが明かされて、
だからといって罪が消えるわけではないんだけど、
あんなつらい境遇や尊い志があったなんて知ったらさぁ、
もう責められないよ生きててほしいよ。なんで…なんで……?
正しく生きようとすればするほど、罪の意識に押しつぶされて、
逃れられなくなっていく地獄があそこにあったんでしょ?
つら……
戦後のさぁぁ……
あんな、あんな貧しくてどんなに頑張っても這い上がれない中でさぁ、
村を豊かにするんだ!ってさぁ、
生きるためにあんなに足掻いた人が居て……
人間って何?
真実を明らかにするって、どういうこと?
ほんとつらい。
はやく読んで、人類。
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宮本輝氏のエッセイ集「本をつんだ小舟」で紹介されている。
下巻は停年退職した弓坂刑事が捜査に加わり、樽見京一郎の想像を絶する苛酷な生い立ちが明らかになっていく。
戦後まもなくの時代背景もあるのだろうが、貧しさの中で苛酷な宿命を背負った人たちの物語にどっぷりと浸かり読みごたえがあった。上巻511ページ、下巻も本編は400ページを超える大作だが、土日の2日で1冊ずつ一気に読み終えた。
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上巻に引き続き分厚い
超大作だった
慣れない時代背景に中々頭が追いつかなかった上巻だったが、下巻は慣れて来たのと先が気になるのとで割とすんなり読み進めた
・
京一郎を真っ直ぐに慕う八重が哀しい
ただ、戦後の貧困の中で必死にもがいていた京一郎の境遇を知るにつれ、哀しみが増した
・
ミステリー小説に分類されるのだろうが、登場人物一人一人を緻密に描いており、つい感情移入してしまう