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マリア・テレジアの時代に造られたチェス指し人形「ターク」。小川洋子の詩的な世界とはまた違う、テクノロジーを巡る広大な海が広がる
チェス指し人形といえば、小川洋子の『猫を抱いて象と泳ぐ』。
本書では、実在したチェス指し人形を追う。
「ターク」は、1770年、マリア・テレジアに仕えたケンペレンによって作製された、チェスを指す自動人形(オートマトン)である。オートマトンは、この時代に流行していた、人や動物そっくりに動く、機械仕掛けの精巧な装置である。
「ターク(The Turk)」は長い煙管で煙草を吸うトルコ人の外見をしていたことからそう呼ばれるようになった。機械仕掛けのこの人形は、並みいるチェス名人たちを負かし続け、人気を博した。だが一方で、この人形が本当に自ら勝負しているのか、それともインチキなのか、物議を醸してもいた。
ある者は中に人が入っているといい、ある者は外から巧みに操っているといった。
やがて「ターク」の所有者が変わっても、「ターク」は人々を魅了し続け、皇帝ナポレオン、コンピュータの先駆者バベッジ、作家(当時はジャーナリスト)エドガー・アラン・ポーといった多彩な人々と出会い、1854年に火事によって焼失した後も、人工知能の父チューリングなどに影響を与えた。
著者はこの人形を軸に、丁寧に時代ごとの人々の反応を追っていく。「ターク」の仕組みは最後にしか明かされず、明かされてみれば当然な仕組みなのだが、そこに至るまではミステリアスな展開となっている。
バベッジの機械式コンピュータやチェスマシーン「ディープブルー」など、「ターク」の理論上の後継者ともいえる、コンピュータや人工知能開発に関する系譜も興味深い。
*ポーが記した「メルツェルのチェスプレーヤー」というエッセイには、後の短編小説の萌芽のようなものが見られるという。
*コンピュータが知能を持つかを判別するテスト、「チューリング・テスト」についても触れられている。会話を続けてもコンピュータであるかどうか見破られないかどうかがキモとなる。チューリングはチェスのプログラム作成も試みていた。『かたち』http://booklog.jp/users/ponkichi22/archives/1/4152092408にも出てきたチューリングは、多才な人物だったようだが、41歳で亡くなり(自殺または事故といわれる)、今年、生誕100年。
*「ディープブルー」に続く系譜としては、ワトソンがある。http://booklog.jp/users/ponkichi22/archives/1/415209236X
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1769年ケンペレンによって作られた自動でチェスを指す人形タークの話。ベンジャミンフランクリン、ナポレオン、エドガーアランポーなどと接しつつ80年以上その仕組みは謎であった。この人形に触発されたバベッジの発想がコンピューターへと繋がるのは興味深い。
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マリア・テレジアの命によって、1769年にケンペレンが作った、チェスを指す機械仕掛けの人形〝ターク〟。この機械人形が一般公開されるや否や、ヨーロッパ中が騒然となりました。〝ターク〟の腕前はなかなかのもので、一流チェスプレーヤーと手合わせしてもほとんど負けることがなかったからです。当然コンピューターなどない時代のことですから、機械に頭脳を持たせることができるのかということが話題の中心で、その仕掛けについて多くの憶測がなされました。科学者が間近で見ても、その仕掛けが解明できなかったことや、〝ターク〟がナポレオンやエドガー・アラン・ポーをはじめとする、数多くの有名人とも関わりをもっていることなどから、話題が話題を呼び、各国の新聞紙上を賑わせ、関連書籍がたくさん出版されたばかりでなく、芝居や小説、後に映画になったりもしています。
作者ケンペレンの死後、いろんな人の手に移り、解体と復活を繰り返すたびに欧米諸国で話題をさらうことになる〝ターク〟は、1854年アメリカのシアターで火災のため消失してしまうのですが、その後もことあるごとに、このチェス指し人形は人々の関心を惹くようです。〝ターク〟が伝説と化したのは、彼がたどった運命があまりにも劇的で、今日のIT社会に通ずるものがあったからなんでしょうネ。
本書では、仕掛けの謎も解き明かされていますが、それでもなお〝ターク〟の魅力は衰えることがありません。とても面白い本でしたぁ。
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その強さはかなりのもの、しばしば人間の強豪を倒していた。ベンジャミン・フランクリン、ナポレオン、ベートーヴェン、エドガー・アラン・ポーがタークと対戦、もしくは仕組みの謎解きに取り組む。後半、バベッジ、チューリング、IBMマシンの話題も有。
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18世紀、人々が産業革命の只中で蒸気機関の夢を見ていたころ、チェスを指すからくり人形があった…!という、伝説というか、外国版ふしぎ発見みたいな内容。歴史を追いながら、少しずつその秘密が明らかに…ということで、なかなかのボリュームやったけど、ミステリーのように楽しく読めました。
単なる歴史トリビア的なとこだけでなく、機械と人間の境目とかを考えさせられる内容でもあったり。ヴィクトリア朝時代のインターネットと同じ著者、訳者。
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18世紀に作られたチェス指し人形「ターク」の話。結局中に人が入って居たのだが、当時世界中で騙しなのか人工知能なのか論争が巻き起こり、人々の知的好奇心を駆り立てていた。
コンピュータの基礎となる考え方がタークとの出会いから始まる逸話も面白い。
正直当時よりも今の方が人々は騙されると思う。火事で消失したのが惜しい。
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「謎のチェス指し人形「ターク」」
18世紀後半にハンガリーのケンペレンが作ったチェスを指す人形の物語である。
当時は産業革命初期の頃で、機械人形が王室や貴族の間でのおもちゃから道具としての機械へといろいろ考案され生まれてきた時代である。
その時代に人間とチェスをする機械仕掛けの人形が、はじめは王侯貴族を打ち負かし、ロンドン、パリで一般公開され次々と人間のプレーヤーを打ち負かしていく。
そして、人形はその後ドイツ人メルツェルのものとなり、ヨーロッパからアメリカに渡ってチェスの試合をすることになる。
本書は、はじめは当時の驚きの様子を描き、人々がどのように考え、人形の動きの謎を解こうとしたかについて書いている。
どのように動いているかについて、人間が中に入っている、外からワイヤーや磁力で動かしていて機械仕掛けではないという言説がある一方、機械が発展している時代でもあったので本当に機械だという意見まで現れ、それがまた評判になり見世物としては大成功する。
機械がチェスを指しているという考えはバベッジの階差機関を生むインスピレーションにもなり、どのように動いているかの推理はエドガー・アラン・ポーを推理小説作家として生み出すきっかけとなる。一方、宣伝、話題が新聞というマスメディアを通して広がり、話題が話題を呼ぶショーとして成功する一面も示している。
しかし、次第に人々の興味は失われ、残念なことに結果的には19世紀中頃に火事で焼けて消失してしまう。
本書では結局中に人間が入っている奇術だったと種明かしをして、1971年にアメリカの奇術師がほぼ同じものを作っていることを示し、その写真も載せている。
ただ、本書はそこで終わらずに、IBMのディープ・ブルーがはじめてチェスで人間に勝ったこと、映画2001年宇宙の旅でHAL9000の話まで話を広げている。つまり人工知能についてまで話を広げており、人間が人工知能に対してどのように考えているかについても考察していて大変面白い内容だった。
本書の原書は2002年に出版されており、日本語版は2011年なのでまだコンピューターによる機械学習が話題になる前の本なので現時点で見るとまた違ったように思えるが、人工知能と人間の関わり、人間が人工知能をどう感じるかについて面白い視点を示している。
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以前に朝日新聞の書評でみて、読みたいと思っていた本。1700-1800年頃に作成されてみんなの前でチェスを指して見せたという、今でいうロボットのことを描いた本。構成はあたかもサスペンスのような感じで、最初は謎でいっぱいだったすごい人形に、様々な人が疑問を呈してゆく展開。そして最後は、現在のコンピューターのことにもつながる展開になってゆく。
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2012/1/15 新刊棚で見つけて借りて読み始める。
すごく面白い。ので、1/17 あっという間に読んでしまった。
まだ、秘密がわかるところまでは、読んでいないので 興味しんしん。
それにしても、「オートマトン」すごいものがたくさんあったのね。
日本の「からくり人形」でもびっくりさせられるが、そんなもんじゃない!
「ターク (トルコ人) 1770〜1854年」は、巧妙に動くだけでなく、チェスを指すのだ。
そしてなんと、世界最高のチェスチャンピオンも負かしてしまう強さ。
誰も、その仕組みを解明することができない!
作ったのは、ハンガリーの文官(枢密顧問官) 『ヴォルフガング・フォン・ケンペレン』。(発明家、技術者でもあり多才)
後を引き継いで 世界中にその実力を広めたのは、『ヨハン・ネポムク・メルツェル』 (発明家、技術者、興行師)
メルツェルのあと、1854年火事で消失してしまい 秘密はわからずじまい・・・、
最後の所有者ジョン・ミッチェルの息子サイラス・ミッチェルが、1857年 初めてその秘密を解き明かした。
その精巧な仕組みが本当に動くか、1971年ジョン・ゴーガンが新生「ターク」をつくり、チェスの試合を行い実証した。
登場人物も豪華! 1700年代の西欧王侯、マリア・テレジア、ナポレオン など。
ベートーヴェン、エドガー・アラン・ポー、当時の芸術家や知識人、技術者。
そして、現代のコンピューター技術にいたる多くの人。
本書の最後には、最強のチェス専用のスーパーコンピュータ「ディープ・ブルー」と チェスチャンピオン「ガルリ・カスパロフ」氏の対局について書かれている。
☆ ちょうどのタイミングで 2012年1月14日「将棋:コンピューターソフト、113手で米長永世棋聖を制す(第1回将棋電王戦)」というニュースが流れたところ。
囲碁ソフトは、まだまだのようですが・・・。
内容は、「訳者解説」に、非常にうまくまとめられています。(<==本文を読んでから、読むこと)
巻末には、参考文献、索引とあわせて、「オートマトンと計算機械の歩み」という年表もあり、見ているだけでも面白い。
→ 「オートマトン」 でGoogle検索
訳者のあとがきに紹介されていた → 演劇企画体ツツガムシ「automata【オートマタ】」
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18世紀、機械仕掛けのオートマトンは貴族の見世物として人気があった。
空気の流れと指の動きを模したフルートを吹くオートマトンなども存在していた。
ハンガリーの文官、ヴォルフガング・フォン・ケンペレンは技術にも通じ、マリアテレジアの宮廷に召し出されてオートマトンを目にすることになる。
その場でケンペレンは、私なら誰も見たことがない、より素晴らしいオートマトンを作って見せると主張した。
そして1770年、ケンペレンが作成したのは自動でチェスを指すオートマトンだった。
チェス盤が置かれたテーブルには歯車がセットされ、そのテーブルを前にしてローブとターバンをまとう人形型オートマトンは「ターク(トルコ人)」と呼ばれた。
驚くことに、タークは自動でチェスを指し、その腕前は並みのチェスプレイヤーを凌駕した。
タークの仕組みを解明しようとするも、完璧に見破ることができなかった。
タークは完全に自律思考してチェスを指しているのか、
後ろで誰かが操っているのか、
人形の中に誰かが入っているのか。
話題が話題を呼び、ヨーロッパ各国を巡業し、持ち主も変わり、最後にはアメリカに渡ったのち火事で消失するまで85年チェスを指し続けた。
タークの秘密とは何だったのか。
機械は自律思考するかという問いの根源は250年前のオートマトンにあった。