紙の本
この指とーまれ
2012/02/08 23:38
5人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:想井兼人 - この投稿者のレビュー一覧を見る
2010年1月31日に放送されたNHKスペシャル「無縁社会-“無縁市”三万二千人の衝撃」の社会的影響は大きく、「無縁社会」という言葉が広く認知された。この「無縁社会」について、著者は社会保障システムではなく、人間関係上の問題として語られるところに疑問を抱いた。そこで様々な客観的データをもとに、感傷を組み入れることなく分析することで、孤立という問題についての取り組む必要性を感じ、本書にまとめた。
著者はまず日本社会の人間関係についての意識分析を行う。その結果、戦争以前の閉鎖的・硬直的な社会関係からは脱却しつつも、夫婦中心の性別役割分業家族の存続と戦後の日本型経営システムという社会関係の構築を目指したことを指摘。個人としてのある程度の自立と集団の中にいるという安心感を享受しようと模索したというのだ。しかし、世の中そんなに都合よくはいかない。
本書は孤立を「行為者にとって頼りにする人がいない状態」(173頁)として議論を進める。そして、純粋なデータ分析により抽出された傾向を示している。人びとの孤立傾向は、離死別、無職、低学歴、不健康、男性、高齢社という順にみられたという。また、家族・親族は情緒的サポート関係の中にあるが、それは離死別による喪失感が孤立を生み出すことの裏返しでもあるようだ。さらに、家族外の社会活動は孤立に何の影響も及ぼさないが、婚姻形態は強く影響するとのこと。
孤立の背景には様々な要因があるため単純化して語ることは避けなければならないが、家族や親族に情緒的サポートを求める傾向がいまだに強いことは予想外だった。ただ、この関係も永続するわけではなく、うまく更新し続けなければ誰もが孤立状態に陥ることを本書は示している。つまり、家族・親族だけを精神的支えにすることは、非常な危険性をはらんでいると読み解けるのだ。しかし、それは孤立という問題を解決するヒントとも言える。
家族・親族という関係に過度に頼ると孤立への転落の危険性が高まる。ということは家族・親族という枠を拡大させればいいのではないだろうか。つまり、家族・親族で留まっていたサポート枠を家族ぐるみまで展開させ、さらに地域ぐるみに拡大する。これは社会システムの構築だけではどうにもならないし、個人の努力にだけ委ねるわけにもいかない。
以前は醤油の貸し借りも隣近所なら行っていたという。高度経済成長は豊かな経済的生活を与えてくれたが、情緒的関係を貧困化させてしまった。孤立という社会問題は、戦後日本が歩んできた方向性が誤りだったことを教えてくれている気がする。ただ、『20世紀少年』のように過去にしがみつく“ともだち”にはなりたくない。全てを都合のいい時代まで戻せるわけはないのだが、個人の自由に多少の犠牲を強いても集団の繋がり方を模索する必要はあるのかも知れない。昨年来「絆」が日本全体のキーワードになっている。「絆」という言葉の意味とそれがもたらすプラス面とマイナス面を改めて考える時期に差し掛かっていると感じた。
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無縁社会というのは、NHKでも特集され、注目されました。
血縁、地縁、職縁といったコミュニティの崩壊、
孤立する人びと。
家族がいたとしても、頼れずに孤立してしまうケースもあるといいます。
帯に孤立する人は誰なのか、
とありますが、なぜ連帯への不安が高まってきたのか、
実際に孤立してしまう人はどのような人なのかという社会状況を丁寧に説明してくれています。
そして、この孤立の状況を打開するために、
何が社会に求められているのか。
自分のベースが、心理学と教育学にあるので、
社会学的なものの見方とは少し焦点のあて方、関心の所在が異なってくる部分もありますが、とても興味深かったです。
家や、地域や、職場の伝統的なしがらみから自由になるために歩んできた私たちは、
純粋な関係性を求めるようになってきた。
つながりの質が変化してきた。
しかし、そのような純粋な関係を築くのも維持するのもたいへんです。
自由を求める一方、放っておかれるのは寂しいという想いもあります。
純粋な関係では、コミットメントが大事ですが、
では、どんな人と、なぜつながりたいのかを明確にするのはムズカシイのも事実でしょう。
連帯は揺らいでいるものの、まだ代替となるコミュニティやつながりを見いだせていないのが、
この社会なのでしょうか。
孤立している人、無縁となる人は、かなり追い込まれた状況のようにも思います。
人は誰に頼るのかという議論では、家族・親族を重視しています。
いざというとき頼れるのは、家族・親族。
これは、突き詰めていけばそうなのかもしれません。
血縁のしがらみをぬけたくても、最終的に頼り、頼られるのは家族。
身の回りの世話や、ほんとうに苦しい時のサポート、支援は家族。
とすれば、
未婚の人は、家族を失った人が孤立しないようにするには、どうすればよいのでしょうか。
著者は、人間関係の維持・生成と生活の必要性とのつながりを弱めることを挙げ、
単身者でも生活しやすいセーフティネット、社会保障の充実を指摘しています。
これはたしかに必要なことでしょう。
その上で、
まだまだ実現までに時間がかかるとされている新しい連帯、コミュニティ、つながりの育成も、
よりいっそう力を入れていく必要があるのではないかなと思います。
昔の血縁、地縁、社縁がよかったから、そこに戻そうというのは、
無理があるでしょう。
孤立の問題をどうとらえるか、興味深かったです。
“私自身は、家族を中心とした連帯を生かしつつ、そのようなシステムからの漏れに対応する社会保障制度を策定する方向が妥当ではないかと考えている。これは、コミュニティの再編を支持する多くの論者の意見と異なる。しかし、現時点での、家族関係の役割の大きさ、自発的連帯の背負うリスクを考慮すると、コミュニティについ���は、家族関係の綻びを補うセーフティネットの役割が適当である。”
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結局は家族が頼りということか。データからの実証分析がなされており、真摯な研究姿勢が伺える。ただし、考察において、ありきたりな部分とやや強引な解釈とが入り乱れており、疑問符の浮かぶところも見受けられる。あとがきには、著者自身一人が好きだがそろそろと考えていたようであるが、その後の展開はいかがなものか。(余計なお世話でした。)
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図書館から借りてきて読了。調査を元にわりと客観的な内容になっている。家族の温かさを求めながらもそれに束縛されたくないという現代の矛盾した傾向をデータで示していた。
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第I部 日本社会の人間関係
第一章 「無縁社会」が見せたもの、見せなかったもの
1 流行現象としての「無縁社会」
2 「無縁社会」の背後に潜む二つの言説
3 「無縁社会」の諸問題
第二章 日本社会における中間集団の変容
1 人間関係にまつわる二つの言説
2 「解放」される人間関係と「剥奪」される人間関係
3 日本社会の人間関係
4 日本社会の人間関係と連帯のゆくえ
第Ⅱ部 孤立に潜む諸問題
第三章 誰にも頼れない人たち
1 第II部の指針
2 社会における孤立の問題
3 JGSS二〇〇三の概要
4 孤立者の背景
5 日本社会の孤立問題
第四章 家族に頼れないのはどのような人たちか
1 家族にかんする問題
2 家族サポート研究の枠組み
3 本章で用いる変数
4 基本的事実の確認──分析一
5 配偶者、両親、子どもに頼らない/頼れない人びと──分析二
6 サポート源としての家族とそれに付随する諸問題
第五章 なぜ男性が孤立しやすいのか
1 孤立と性別の問題
2 男性の優位性と女性の優位性
3 データと変数
4 男性と女性のネットワーク構造
5 孤立に潜むジェンダー問題
第六章 地方山村の人間関係と孤立
1 地方社会の孤立
2 地方の力が問われる時代
3 地方生活における諸問題──先行研究の検討
4 山間部調査の概要
5 山村社会の生活と孤立
6 連帯再生の試み──結びに変えて
終 章 これからの連帯のゆくえ
1 孤立の回避と連帯のゆくえ
2 孤立する社会を支えるセーフティネットの構築
3 家族のつながりのゆくえ
4 新たな連帯の構築
5 第三の道の模索