紙の本
恐ろしく静かな教室
2015/08/28 12:57
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投稿者:くまくま - この投稿者のレビュー一覧を見る
父親の仕事の関係で七度も転校している享一は、いつ頃からかクラスのパワーバランスを崩すことに楽しみを覚えるようになった。趣味でやっているブログなど、ネットの世界では普通に他人と関係が築けるのに、リアルではそんなことをしてしまう。
だが、新しく転校した高校はかなり奇妙だった。クラスメイトたちが一様で、個性が感じられる行動を教室で取らないのだ。その原因は、新卒二年目の教諭・蒔絵が敷く密告奨励制度だ。他者の失点を報告することで、指定校推薦枠の獲得に一歩近づくことが出来るという。
とりあえずクラスで何もすることがなくなった享一は、ただ一人、クラスで毛色の違う鷹音の眼鏡のフレームを眺めていた。好きなブランドなのだ。そしてその視線に気づいた鷹音は、享一にアプローチをしてくる。
一緒にライブに行ったり、同じ映画を離れた席で見たり、奇妙な距離感で交流をしていた二人だが、あるとき鷹音がクラスを一変させる計画を打ち明けてくる。その提案に対してどうするか。享一が自分の立場を決めきれぬうち、鷹音を災難が襲う。その原因は、享一にあった。
相変わらずエグいネタを平気で学園ものに放り込んでくる。イジメはある意味で定番だが、密告奨励制度や強姦、脅迫や復讐はあまりない気がする。だから中盤では思いっきり暗くなるし、陰惨な描写も多々あるのだが、終盤では意外なまでに明るい終わり方になる。その主因は、鷹音の性格によるとは思うのだが、それが適切かどうかは分からない。
そして密告奨励制度。普通にがんばったら大学進学など望めない生徒に、指定校推薦枠という魅力的なエサを用意して、教室を統治する。彼女の動機には一応理由があるのだが、その解決のためにこのやり方しか出来なかったとしたら、それはやはり元々の教育システムに問題があるのだろう。
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201112
前作、パニッシュメントには、ラノベのふりして「信じる」ことへの根源的な問いのようなものが感じられた。
なので若干期待外れではあったが、それでも、熱量はすごい。
「俺は太っていて、背は高くない。腫れぼったい顔に不機嫌そうな目、手入れもしていない天然パーマの汚い髪」 てなルックスの主人公。
トラブルを撒き散らして、いるだけで周囲が壊れていく有害な外来種が転校して来た先は、
教師が大学への推薦枠を餌に生徒への密告を推奨し、相互監視しあうクラス。
平穏な、真っ当なクラスを取り戻そうとする鷹音。
享一は、鷹音の存在により、これまでとは違う意に反した形で壊していく。
最後の預言的なラストには衝撃。
(発売日後の訃報と最後の享一に関する記述。)
それにしてもスマホがコミュニケーション手段として、ブログ更新手段として、武器として、普通にでてきてそういう時代かと思う。
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孤独に酔う映画フリークの転校生デブが、密告蔓延る管理社会化したクラスの崩壊に挑む話。
本来ディストピアSFで描かれるような大きな物語を、高校の1クラスという極小単位に圧縮転写した、意欲作。
ラノベらしく自己陶酔的な主人公が、一貫性をもっていじめを煽る。
好きなタイプのキャラクターではないが、ラストの潔さには結構なカタルシスを感じる。
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江波光則が書く作品は、変奏曲かリフレインのような印象がある。言いたいことが一つしかなくて、それを丁寧に繰り返し描いてみせる。その点は、デビュー作の「ストレンジボイス」と是非読み比べてほしい。
作品単体としては、陰惨すぎて笑えてしまうB級映画の味わい。露悪的であるけれど、偽悪的にも感じてしまうのは作者の計算か。
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読んでいてあまり気分がよくない描写などが多かったけれど、ラストがどうなるかとても気になって結局読了してしまった。ね。。。
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決して明るい物語ではないのに、どこか癖になる。密告制度がある進学学級に、その場の人間関係を壊さずにいられない転校生が転入してき、化学反応が起こる話。愛や夢や希望は出てこず、暴力と犯罪と後ろ暗さとが出てくる話。なのにどこか夢中になる。これはヤバい。毒なのに、それが堪らないって感じ。危ない。
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内申点をネタに密告を推奨するクラス。それに対抗する破壊衝動を持つ転校生。といった殺伐とした世界の物語。最後は小さくまとまりすぎたかな。
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前作『パニッシュメント』に引き続き
興味深い筋書きのお話であるところが良いところ
高校という場でおきる事件というより状況に対し
ライトノベル風でなく現実味というより小説における登場人物的なキャラクタが
青春とか教養とかでなく冒険という非日常のひとつとして通過する話
「非日常」にも現実味を持って起こりうるものとそうでないものとに
区別され得ることを思い出させてくれるおはなしの面白さである
文芸という点で昇華されなければ一山いくらで消費消えていく種の
どこにでもあり小説にはされにくい物語