紙の本
反ラノベ
2012/03/11 13:53
3人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ソネアキラ - この投稿者のレビュー一覧を見る
読み終えてから、はじめて作者の処女作『愛の生活』を文庫本で読んだときの感慨を思い出した。改めてネットで作者のプロフィールを読んでみたら、19歳のときに『愛の生活』でデビューだそうだ。じゃあ、書いていたのは18歳くらいの頃か。共感とか女子高生の等身大とか、そんなんじゃなくて。日本語によるヌーヴォーロマン。退屈じゃないヌーヴォーロマン。恐るべき文学少女だ。
この小説も、いつものように、ページをめくると、改行がほとんどなく、しかもフレーズが長い。アナウンサーが朗読したら、窒息しそうなほどに。漢字、しかも難しい漢字が多く、件の小説のスタイルに馴染んだ読み手には極めてとっつきにくいかもしれない。どうする。簡単なこと。ゆっくりと読めばいい。幸い、短篇連作だから、ちょうどいい。ゆっくり味わうように読めば、次第にこの世界に浸ることができる。
この本の断片が触媒となって過去のことが甦ったり、新たなことを想起させてくれる。
主人公の母親の洋裁室。生地やミシン、裁縫道具などの細やかな描写は、中学時代ぼくが夏期講習や冬季講習に通っていた塾を思い出す。そこは、ふだんは小さな町の洋裁学校、ドレメだった。すると、目抜き通りの映画館の入口にあったパン屋の同級生の女の子から文藝同人誌の誘いを受けたことが、記憶の底から浮上した。恥ずかしくて断ったけど。
絶版になっていた、ロブ・グリエの『消しゴム』を神田神保町の古書店で見つけた。二階のガラス戸の書棚に鎮座ましていたが、ビンボー学生には、手が出にくい値段だった。同じクラスの江古田君(仮名)が、秋吉久美子がナタリー・サロートのファンだと教えてくれたことも…。ビュト-ルの『時間割』やソレルスの『ドラマ』にはシビれた。
久々に日本語の持つ豊穣さ、小説の醍醐味を愉しんだ。ひょっとして新たな境地へと作者は入ったのかもしれない。あ、これ上から目線ではありません。
カバーと扉のおしゃれなフォト・コラージュ。姉上の作かと思ったら、岡上淑子という人のもの。こちらにもひかれた。図録が図書館の蔵書にあったので、借りて眺めている。マン・レイの実験映画を見たときぐらいに、シビれている。
小説を読んで読み手なりの感想を再構築する。それが「トゥワイス・トールド・テールズ」だとか。部分を組み合わせる。絵画だとコラージュか。
あとがきの表題である「読む快楽(よろこび)・書く快楽(おののき)」とは、蓋し名言なり。
紙の本
まるでコラージュのような小説
2012/02/26 23:06
5人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:BH惺 - この投稿者のレビュー一覧を見る
なかなか読む人を選ぶ、もしくは好き嫌いの分かれる作品だなあ、というのが読了後の素直な感想。
21の章から成るそれぞれのエピソード。この作品を小説と言っていいのかどうか? 内容にもあるとおり、それぞれの章がまさにコラージュされたような、つぎはぎ切り貼りしたような印象を与える作品。
かろうじて根幹をなすストーリーというのが、とある男性作家(おそらく)の幼少期の回想録であるらしいこと。
戦後間もない時代、ある日突然父親が失踪し、残された母親と男性は祖母と伯母と暮らすことになる。その多感な幼少期の生活での強い印象などが、濃密な描写と改行のほとんどない文章で綴られてゆくので最初はかなり違和感。
主語がなく唐突に文が始まり、さらに一文が長く一体誰の語っている言葉なのか途中で判然としなくなる。まるで学生時代に習った古文のような感じ。
父親が母と自分を捨てて愛人の許に走ってしまったという事実。父親が死に、語り手の男性の許に父親の愛人から手紙が届く。それを受け取った男性が意外にも愛人に対して負の感情を抱いていないのがまた男性心理の複雑なところ。父の失踪の原因は何だったのか? ほんの少しミステリーっぽい香りもしたりして。
かなりアンニュイでノスタルジックで独特の雰囲気のある作風と文体。
はっきり言って小説として明確なストーリーはありません。いや、小説として捉えちゃいけないのかな?
この作者の他の作品を読んだことがないので、普段どのような作風なのか分からないのですが、実験小説のような印象受けました。
万人受けする作品では決してないと思います。こんな作品もあるんだ! と目からウロコ状態で読了。
読んでがっかりするか、未知の作品との出会いに感動するか。どちらかに分かれる作品かと思います。
投稿元:
レビューを見る
おぉ~!金井美恵子さん、好きだぁ~!「噂の娘」男性版とでも言うべきり濃厚な香りは、一つ一つの章がまさにピース・オブ・ケーキ。パクパク食べるなんてもったいなくて、ゆっくりゆっくり味わいながら読みました。
語り手は誰なのか?
語られている人たちと語り手の関係は?
語られている時は昭和のかなり初期のようだけど、語っているのはいつなのか?
全てが曖昧模糊としたまま、語り手の目線&語られている人々のあっちこっちに飛ぶ話で物語は進んでいく。状況がよくわからないのに、ドレスの仕立てや当時人気だったらしい映画の話などは詳細でそのアンビバランスに眩暈がするほど気持ちいい。(*^_^*)
で、段々に明らかになっていく大筋は、語り手は今現在作家であるらしい男性で、彼が子どものころ、父親が突然愛人の元に失踪。残された彼と母親は、母親の姉、母の元に身を寄せて、その中に届く愛人からの手紙・・・。
twice told tales のタイトル通り、ある時に語られた話が時を置いてまた別の語り手によって再現されるその不確かさもまた面白いし。
大好きな大好きな金井美恵子さんだけど、トラー亡き今、体調もよろしくないはずなのにこんなに重厚な物語をファンの前に提示してくれるなんて驚いてしまう。
どうもありがとうございます。
大事にしますね!と申し上げたいです。
投稿元:
レビューを見る
時間ではなく場で記憶を語る。何度でも語る。
時に巧妙に逆らう小説。
タイトルがまた素晴らしくて。
ピース・オブ・ケーキは最初に慣用句的な意味を発想してしまったけどそれは山椒のようなもので直訳で受け取ったほうが素直に読めます。
場にとって「私」とはうつろうものだ。
投稿元:
レビューを見る
とにかく一文が長くて長くて、主語と述語は結び付いてないし、時制もめちゃくちゃだし、まあそういうのを狙って書いてるんだろうけど、作文の試験だったら間違いなく大量の添削が入るはずで、そんな文章を読まされた挙げ句、結局何が言いたいのかさっぱりわからなくて、ストレスが増大して嫌になるのに、こういうときに限って図書館が次の本を貸してくれない、このレビューは何なのかただの文句をつらつら書くな、つまらんと思った人は絶対に読んではいけない。
投稿元:
レビューを見る
はぁ~、もうただただため息が出るばかり。金井さんの世界にどっぷりつかってなかなか現実に戻ってこられない。こういう読書ができることの幸せよ!
二十一もの掌編を連ねた構成で、一人の男性の回想という形であるが、はっきりした筋立てがあるわけではない。一貫して流れているのは「失われたものへの痛み」であるように感じた。ただ、この作者のこと、そこに「ノスタルジー」などという甘ったるいものは一切ない。読者としては、克明に語られるディテールにそのような感情を揺さぶられずにはいられないのだが。
いや実に、この小説の細部の描写には参った。「ケースについている人絹のひもをクルクル回すガラスの体温計」とか「鉛筆の芯が折れないように脱脂綿がしいてある筆箱」とか。もちろんこういうものは少しも「重要な小道具」として登場するわけではないのだが、そういうものたちによって、確かにあった(すっかり忘れ去っていた)過去の「手触り」が蘇ってくるようだ。そういう意味でこれは金井版「失われた時を求めて」である、と言ってしまおう(おぉ、大胆!)。
描写として圧巻なのは、「伯母」の縫うドレスについてだ。繰り返し繰り返し語られる衣服のディテールは、作者(と姉の金井久美子さん)の美意識をくっきり反映して、うっとりするほど華麗だ。その衣服をまとう女性達たちへの、意地の悪い辛辣な評も金井ファンにはおなじみで楽しい。
読み終えて、タイトルの妙にも心底唸った。これはまさに「ピース・オブ・ケーキ(ケーキの一切れ)」であり「トゥワイス・トールド・テールズ(語りなおし)」である。あとがきで作者は「本書は意味的には、『楽々とできる語りなおし』という、あざといタイトルを持って」いると書いている。確かに、ここにあるのは切り取られた一かけらのものに過ぎないし、登場人物達はまるでなぞったようによく似た道をたどる。それは何度も何度も語りなおされてきたありふれた物語である。でも、それだからこそ「語られずにはいられない物語」であり、それ以外に人生に何があるというのか。そしてまた、「ピース・オブ・ケーキ」はこの上なくおいしいのだ。そんな思いが潜ませてあるのだと、勝手に一人で納得している。
投稿元:
レビューを見る
金井さんは、しばらく小説はお休みしているのだと思っていたので、久しぶりに本屋で金井さんの本を見かけて、心の中で小躍りしてしまいました。
最近は、ハウトゥー本とかマンガみたいな小説が流行ってるけど(否定しているわけではありませんよ!!)、こーゆーのがやっぱイイよね★
と、自分の好みを再確認。
小説に、なにかの答えを求めてる人や、意味とか筋を求めてる人にはオススメできません。布教しちゃうけど(笑)
投稿元:
レビューを見る
きらきらさらさらとした、美しい文章たち。特に中身があるわけではない、だけども魅了される、魅力的な連作短編集。
投稿元:
レビューを見る
著者の知性・教養・品位を強く感じる。
たゆたう流れに身を任せているうちに、
いつの間にか捉えられている自分を発見する。
作家の生姿を拝見できるのは貴重。
「金井美恵子×朝吹真理子
読む快楽(よろこび)・書く快楽(おののき)」
http://bit.ly/JZTQrg (YouTube)
投稿元:
レビューを見る
夢の中で夢を語られるような不思議な文章と
どこまで一気に読んでいいのか分からないような
不思議なリズム感の虜になった。
美しいイメージの連続を思い描くのが難しくて
なかなか一気には読めなかったけれど、
それがまた楽しくも幸せだった。
投稿元:
レビューを見る
切れ目なくえんえんと続く文章にのせて、様々な時間の記憶が交錯する。ナナメ読みを断固として拒否する挑発的な作品。読めば読むほど、筆者に「わたくしの、広くて深い教養を、少しばかりお見せして差し上げる」と言われているような気がする。
投稿元:
レビューを見る
アマゾンで購入。
読書会課題本。
やっと、やっと読み終わり。
つかみどころがなくてはじめはものすごく苦戦。
文章を浴びるのですと教えてもらったら
これが気持ちよくて。
くるくるとあらわれては消えていく鮮やかなイメージ。
まるで万華鏡みたいだった。
パズルのピースをあてはめてひとつの絵をつくっていくのではなくて、
ただだだ感じる物語は初めて。
いい体験をさせてもらった。
満足。
(13.07.04)
投稿元:
レビューを見る
タイトルと表紙の優雅さに惹かれて借りたけど、
昔の洋裁の話で、主人公が誰なのかもわからず
私には向かない作品の為、途中で読むのやめた。
投稿元:
レビューを見る
abさんごと文体が似てる・・
おしゃれな雰囲気なんだけど読みづらかった。
句読点でずっと文がつづくから、読んでると息がつまるような・・
投稿元:
レビューを見る
金井美恵子の世界、というより金井美恵子の品格の見本市で、アア、金井美恵子はずっと変わらず金井美恵子だなァと思う(おもわされる)ところまでワンセットで金井美恵子でした。