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ぼくが釣りをする川の上流にふ化場があって、職員の人とちょっと話をしたこともある(ここより上で釣っちゃだめだぞ、と言われたんだけど)。金網のむこうを覗いてみたら、人気のない広いコンクリートの池があって、あそこに稚魚がいるのかな、いろいろ苦労もあるのだろうが、楽しそうな仕事だと思ったものだ。
そこで働いていた人の手記というので、楽しみに読む。著者が北海道のふ化場に赴任したのが昭和37年。昔話的な楽しみもありそうだ。
ただ、考えていたものとちょっと違った。視点がわりあい高くて、○年は採卵いくつ、遡上魚いくつ、といった大局的な記述が相当多いのだ。それはそれで資料的な価値は高いのだけれど、せっかく現場で働いていた人の話なんだから、現場の体験談を読みたかった。採卵というのはどうやって、どのように受精させ、卵はどうやって孵化させて、その後どうやって育て、放流するのか。そのあたりの一番興味のあるところは、具体的なイメージが沸かないまま。体験談として出てくるのは赴任地へ向かう苦労とか、送別会とか、出張のあれこれで、それは昭和の普通のサラリーマンの体験談だよな。