紙の本
強烈なインパクトのカオス
2015/09/22 20:11
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投稿者:紗螺 - この投稿者のレビュー一覧を見る
短編集だが時系列に並んでいないので、最初やや戸惑った。読み終わってからも、時系列に並べなかった理由はわからないままだったけれど、このカオスのような世界を枠組みからして表すといった象徴性を感じた。
本当にカオスというのがふさわしいような、汚く下品さに満ちた世界(というか家族)の話なのだが、その汚さを卑下するのでもなく持ち上げるのでもなく、ありのままにとらえるといった書き方が気持ちよく、かつおもしろい。酒呑みのおじや父のむちゃくちゃぶりがあってこの小説は成り立っている。でも、だからといってそれを押しつけがましくしつこく書くのではなく、ありのままにさらっと書いている。自伝的小説ということらしいが、これだけの内容をさらっと描ける客観性というのはすごい。
話として特におもしろかったのはおじのひとりが催すツールドフランス。ただし本家とはちがい、近隣の村で酒を呑みながら回るというとんでもない競技。挙句の果てにおじは酒に倒れて送られてくる…。純粋に感動を誘うのは、一家を支えた祖母がぼけてしまい、ホームにいる時の話。彼らの下品な歌を民俗学の先生が聞きに来るが、誰も思い出せなかった二番を、その人が帰った後、祖母は口ずさむのだ。その口ずさむ歌が下品極まりない歌詞ということに、滑稽さと憐れ、アイロニーなど様々なものが凝縮されて感じられる。
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フランダースの作家の半自叙伝風短編集。
タバコとビールとオンナにうつつを抜かすオトコたち。わたしは一緒に暮らすのは嫌!だけど、彼ら特有の家族の結束力は小気味良く、ホノボノする。最後の短編はピリリとココロに刺さります。
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過去の自分と現在の自分。
どれだけ乖離していようとも、
否定は出来ないし、
否定してはいけないのだな。
ベルギー人の書いた私小説なのかもしれない。
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ベルギーのオランダ語圏フランダース地方の作家、ディミトリ・フェルフルストの、一応フィクションだけど自伝的な作品です。
主人公、ディメトリーは父と母が離婚した後、父方の実家で暮らすことになる。そこには父、祖母、そして父の兄弟たちがいたが、そろいもそろって貧しく、下品であった。酒場で歌うのは「陰部の歌」。トイレはドアを開いたまま。酒臭い息、タバコのヤニですっかり黄色くなった歯。
アホだし、汚いし、品はないけど自分たちの家族、仲間を大事にしている、愉快な仲間たちの話です。
昼間っから飲んだくれているような父や叔父たちとの下品で残念な人たちだけれど、そこに起こる出来事を通して、人間性豊かで、少しの悲しみと、少しの誇りを感じる本です。
主人公ディメトリーは大人になってこのアホンダラな親戚たちと離れて独立していくことになりますが、懐かしく思いながらももうその中には入れない、そんな詩情も感じます。
フランダース地方っていうと、日本ではフランダースの犬があまりにも有名です。こんな人たちがいたら、ネロもパトラッシュも死ぬことはなかったのだろうなぁ、と勝手ながら思いました。飲んだくれで下品にはなっていたかも知れないけど。(笑)
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残念な一家のお気に入りは、なんと、ロイ・オービソン!
あのライブを彼らも見たのか。
それだけで親近感を持っちゃうな。
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血のつながりと、村のつながり。その残念な日々。
過去と地続きの自分。
村を捨てたことへの罪悪感。
あらゆる感情がないまぜになって、その後に残念な日々への愛情が残ります。
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ディミトリ フェルフルスト
長山 さき 訳
新潮社 (2012/2/29)
(新潮クレスト・ブックス)
久しぶりのヨーロッパの本
これ以上ないほど下品で悪臭まで漂ってくるようです
フランダース地方の方言というか彼らの言葉が関西弁に訳されていてびっくりしました
なんなんだ!この人たちは1
なんて思いながら でも何故か憎めない
彼らから距離を置いて「普通」になった作者の複雑な想いが切ないです
貧乏で怠惰で愛情深いこの一家、ビールと歌と家族愛があふれていました
≪ あの家族 残念ながら 今の日々 ≫
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子供のころの親戚たちに囲まれた、貧しいどん底の生活が、誇らしくユーモラスに描かれている。
主人公が村を出て、大人になって、「いい暮らし」を手に入れるにつれて、ちょっぴりダークな心情描写になっていく。
村を出てしまった後ろめたさを感じつつも、親戚のもとに時々は、帰らずにはいられない。
叔父たちの態度は、変わることはない。いつまでも自分たちの一員の「チビ」として、受け入れてくれる。
家族である、残念な人々への深い深い愛情を感じる。
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寝る前に毎日一話ずつ読んで読み終わりました。似た話が続いて飽きるかな、と思ったのですが意外と飽きなかったです。
最後の主人公と自分の息子のエピソードがぐっときました。クレストブックスははずれがないです(ほとんど)。さすがです。
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世に人有る所クズ人間有り。ベルギー出身の著者が少年期を回顧した自伝的短編集。金もなく生活や言動はどうしようもなく粗野、毎日をチキンレースの如く飲んだくれることで過ごす父と祖父達の元で過ごした日々は糞ったれで最低なのに、ここには決して奪われない絆と笑いが刻まれているのだからたまらない。作者はやがて距離を置き、文化的に洗練される事でこの小説を書き上げたのだが、それはこの共同体から切り離されることを必然的に意味していた。だからこそ本書は葛藤や自己嫌悪に苛まれながらも、家族に対しての愛おしさが滲み出てるのだろう。
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中島さなえさんがラジオで紹介していなかったら、まず手にすることはなかったであろう一冊でした。(とはいえ、この回は聴きそびれているか、忘れているかのどっちかでした。)ビールやその他もろもろの不快な臭いが行間から漂ってくるようなデンマークの貧しい一家の豪快で情けなくもちょっと切ない物語です。下ネタが苦手で潔癖症の人には向かないかもしれない・・。
貧しい下層の人々を指す言葉に「労働者階級」というのがあるけれど、彼らはそれすら当てはまらないのかもしれません。何せ家族のほとんどが飲むのが仕事みたいになってて働いていないのだから・・。
父方の祖母を筆頭に父親、兄のような叔父たちとともにディミトリーは育ちます。冒頭の章では、そんな男所帯に美人で有名な叔母がこれまた美しい従妹を連れて帰ってきます。何もない村の数少ない娯楽である村の酒場に連れ出され、そこで余命いくばくもない村人と出会い、どこか心通わす従妹は、ちょっとしたことから酒を飲む羽目になり酔っぱらって帰ってきます。そこで、待ち構えていた叔母の口から思いがけない事実がわかり・・。
ロイ・オービソンのところでは、ネットで検索して該当の曲を聴きながら読んだのですが、臨場感が増しておススメ。
これでもかというほどの「残念」で「悲惨」な日々が描かれているのですが、その中に家族に対する愛と懐かしさが感じられます。こういうのを「アイロニー」っていうのかな?
後半、大人になったディミトリーが登場し、その家族の顛末が明かされていきます。そしてそんな環境に育った少年が一体どうやって作家になっていったのか? 訳者あとがきも必読です。
ところでこの舞台となっているフランダース地方といえばかの『フランダースの犬』ですが、あれはイギリス人が書いた物語で、あの結末に感銘を受ける民族というのは日本人くらいらしい・・。一説には、ここの母語であるオランダ語はもともと農民の言葉なので、あまりロマンチックな表現がない・・なんて話もあったりします。
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翻訳の話し言葉が秀逸で、なんと関西弁なのです。最初は何やってんだこの翻訳?と思いながら読んでいたのですが、ベルギーには3つの公用語があるという実情を、日本で表現するにはうまい解決策なのかもしれません。
読み始めて、とんでもない小汚い話が関西弁の会話とともに、続々と出てくるので、なんだよ、これ、でした。最後まで付き合えるか心配になるお話で始まります(最初のエピソードの落ちは秀逸ですが)。
読み進んでいく途中には、私にはくだらないと思えるエピソードがあったりして、中盤あたりでは、さっさとこれは終わりにして、次行こうと思いながら読み進んでいました。最後の方になって、じっくり味わいながら読まなければいけない話になってくるのですが、それにしても、小汚さは、最後までさりげなくまぶされています。読んでいるうちにその小汚さも、愛すべきエピソードになって私の中に入り込んできます。最後の最後、読み終わってみて、私は、家族というもののあり方に、深く考えさせてくれるこの作家に感謝していました。私には、よい小説でした。
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ディミトリフェルフルスト「残念な日々」/新潮クレスト 読んだ http://www.shinchosha.co.jp/book/590094/ しみじみとよかった。でもその読後心境に行き着くまでには怒濤の猥雑下劣な描写と汚穢をくぐり抜けねばならない。書かれている内容に比べたら猥雑という言葉すら上品に感じるな(つづく
穀潰しアル中の男どもの破天荒エピソードに隠れて目立たないけど、この一家、というかこの本の中心はおばあちゃん。息子がアル中で重篤な状態にあることを知らせに来た警察をど迫力で追い返したり、家財差押中にどうやってかお金を工面して新品の自転車を買ってきたり。ボケても主張は強い(つづく
育ちがいいというのはこういうことだとつくづく思う。無学で下品でも家族に愛があり気に掛け合う。いやこれだと貧しくても絆があれば!というバカな話のようだけど全然違う、全然酷い家の悲惨な話。自転車ツールの話とTVを観に他人の家へ押し掛ける話と離婚後の息子の面会日の話がとてもいい(おわり
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ベルギー・フランダース地方で子ども時代を過ごした著者。
「毎晩のように幸福と不幸の区別がなくなるレベルまで酒を飲む」「度重なる警察や財産差し押さえ人の訪問」・・底辺に貧乏な生活を送る父と叔父たち、母代りを兼ねる祖母(ばーちゃんスゲー!)と過ごす少年時代。
・・・と、後半「主人公が大人になってから。」の自伝的連作短編集。
前半の貧しさと汚描写(主にユーモラスに、時にしんどい)が、後半に活きてきます。
家族と少年時代を恥じ・・・けれど叔父を、祖母を父を愛しているのが伝わってきます。(そして父や叔父が主人公を愛していたことも行間から滲みでています。でも、酒は貧しさは・・・。・・・。)
特に、祖母への思いが。息子への気持ちが。・・・描かずにはいられなかったんだろうなぁ。
あとがきによると、著者は中学生のとき学校で自ら家庭の事情を打ち明け、里親の家で暮らすことに。ナイフ・フォークの使い方にはじまり、生活のすべてをそこで学び直さなくてはいけなかったそうです。
「しあわせであることは自らの務め。」・・・この本は、前半・後半、あとがきまで全て読んで、
ひとつの素晴らしい「彼の」人生を読むことができます。
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大笑いしながら読んだけど、読むほどに切なさがつのる。「ツール・ド・フランス」はもうサイコー!「収集家」は紋切り型の対立と最後の一文がちょっとあざといかな。