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これに限らず現代社会に生きる以上、人生は大なり小なり己が生まれた国家に翻弄されずにはおられないわけで。けど、たとえ翻弄されたとしても、人としての尊厳を見失わなずに生きていく姿勢を保つことが最良ではなかろうかと。ただ、それを貫くことの難しさをも指摘している…と思うのです。
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おすすめ資料 第158回 (2012.10.5)
20世紀ロシアの作家で、ワシーリー・グロスマンをご存知でしょうか。
グロスマンはウクライナのユダヤ人家庭に生まれた作家であり、従軍記者でもあります。
本書は第二次世界大戦時のスターリングラード攻防戦を舞台にした歴史小説です。
一度はKGBによって原稿を没収されましたが...数十年の時を経て、ついに今年日本でも刊行されました。
全三部作とボリュームたっぷりですが、ぜひ挑戦してみてくださいね。
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全体主義国家ソヴィエトの人びとがお互いを密告し合い、人間不信に陥るさまが痛々しい。このような国には絶対に住みたくない。今まで散々非難された者がスターリンからの電話一本で立場は急転し、その後は称賛されるようになる。日本の官僚の実態もこのようなものかもしれないと思ってしまいました。ショスタコーヴィチが誤りを認めて懺悔の手紙を書いていると、作品中に出てくるのだが、本当のことだったのであろうか。
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第3巻
この巻はヴィクトルの心境の変化と、クルイモフの苦悩がメインだと思う。
1930~50年代のソ連といえば、非常に生きにくい時代であったことは間違いない。
常に密告の恐怖におびえていなければならず、一方で正義感から密告に走る人間もいる。ヴィクトルが周りから距離を置かれるシーンは、深刻さに違いはあれどその感覚を経験したことがある人は多いと思う。かくいう私もお酒の場で失敗してしゃべらなくてもよいようなことをしゃべってしまった翌日に、他人との関係がぎくしゃくしてしまい、自分はいつも通りふるまうが、他人の愛想笑いが気になり日中仕事に身も入らずそのことばかりを考えていたことがある。恥ずかしい話だが。
そんな感じで周りから斥けられているヴィクトルがスターリンからの電話によって急に周りからちやほやされ、ぎくしゃくしているときはそれでも良心は問題なかったが、ちやほやされてその心の強さを失ってしまい、自分の信念とは異なる告発書に署名してしまうシーンは恐ろしいほどのリアリズムで、そのあとのマリアからの電話で衝撃を受けるシーンは読んでいる私もつらくなった。
クルイモフは正義感から密告に走るタイプの人間だが、国家の敵として逮捕され、自分が密告した証拠を突き付けられ、自身の正義感が揺らいでしまう。
なんという残酷なシーンかと思うが、最後別れた妻の差し入れを受け取って感謝のあまり涙を流すと考えると、現実よりは優しいのかもしれない。
とても読み応えのある、素晴らしい本だが前提知識が必要なことだけが残念で他人には勧められない。よって星4とした。
なお、この本前日譚があるらしく、なんと同じくらいの分量だという。
翻訳はされていないようで非常に残念ではあるが、巻末の解説に役者があらすじを書いてくれているので、それは是非読むことをお勧めする。