紙の本
平安期の仏師定朝と比叡山内供奉僧の物語
2018/07/31 11:57
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投稿者:ドン・キホーテ - この投稿者のレビュー一覧を見る
澤田瞳子の描く、平安期の仏師定朝の物語である。現在仏像として遺されているものの中で明確に誰の作品と分かっているものはそれほど多くない。それだけ当時の仏師の役割、地位が高くはなかったということであろう。定朝はやはり仏師であった康尚の子であったが、それがどのような過程で仏師の後を継いだかについては分かっていないので、澤田の創作ということになっている。
現代でこそ名が知れている慶派も、どの作品が運慶の手になるものかは伝運慶が多い。本編では比叡山の若手の僧で、内供奉僧である脇役を加えているが、どちらかといえばこの内供奉僧が主人公であろう。当初は地位もあるこの脇役が定朝の後見であったが、考え方の違いで疎縁になってしまう二人であった。
定朝の卓越した腕と内供奉のお蔭で定朝への造仏の依頼は引きも切らない。たとえ、皇室や高名な公卿であってもだいぶ待たされる。そうこうするうちに関白藤原道長の発願で大寺院の建立があり、仏像の大量の注文があるが、これらの依頼を難なく捌き、しかも他を圧する出来栄えを示す定朝。
最後には道長の息である頼通の別荘であった現在の宇治の平等院鳳凰堂に納める阿弥陀如来像を造立する。しかし、出会いから数十年を経た内供奉増は地方へ修行の旅に出たきり行方知らずとなる。
本書は大きなクライマックスもない。2人の過ごした人生を振り返り、その際に縁のあった人々との交わりを淡々と描いている。こういう歴史小説もある。なかなか収穫のあった小説であった。
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仏を巡る者たちの心の揺れが切実に描かれた作品。
仏とは、人びとの心、その持ち様にある・・、現代においても通じるところがあると感じた。
素直に、仏像を静かに見てみたいと思った。
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テーマ、筆致、掘り下げ方、構成、本当に素晴らしい。静かに始まったかと思ったのも束の間、主人公定朝の苦悩の叫びが描かれ、そこに一つの見せ場が来る。その後、権謀術数うごめく内裏を主な舞台として登場人物の心情の移ろいが時に和歌を交えて描写され、先へ先へと読み進めずにはいられない。そろそろ終盤に差し掛かるかと思った頃、急転直下物語が一気に展開し、主要な登場人物の死が描かれる。それに引き続く展開は、現代の感覚からすればやや強引で性急な感もあり、そこが一点玉に瑕。しかし、彼の時代の人からすればそれもまた自然というべきか。締めくくり方も素晴らしい。決して軽くないテーマを扱っているにも拘わらず、結びの清々しさは見事。読み終えた後、複雑に絡み合った物語に一本筋が通った爽快さがあり、これぞまさに物語を読む醍醐味と思わされる。
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新聞の書評に「現時点での今年のベスト」とあり、興味をひかれて読みました。視点者が入れ替わり、時代の習俗などを知ることができます。隆範とのかかわりを軸に定朝の成長が描かれますが、定朝視点からもう少し、仏師という仕事について詳細に(ディテールを)読みたいと思いました。
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平等院鳳凰堂の本尊など、平安時代の有名な仏師・定朝に関連した小説ですが、彼が主役という訳ではありません。
「小右記」に記されている、上東門院の女房で、花山天皇の娘が、犬に喰われた状態で発見された、という実在の事件から、かかれたものでした。
犯人とされている中関白家の僧・隆範が定朝の仏像と出会い、彼を後見するところから話は始まり、最終的に隆範は下手人として東国遠流となり、その大叔父道雅も左遷され、定朝は平等院の仏像を完成させるのですが、その過程に出てくる人々の細やかな感情の描写がとてもよくて、すすすーっと一気に読んでしまいました。というか、読まずにはいられなかったです。
藤原道長時代なので、一般的に知られている名前もたくさん出てきますが、あくまでも話の中心にいるのは、道長に阻害された人々。
面白い切り口の作品だと思います。
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平等院鳳凰堂の阿弥陀如来像を作った仏師・定朝の物語です。
読後感が爽やかで、人にはすべからく仏生が備わると信じたくなります。
一気に最後まで読んでしまいました。
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平等院鳳凰堂 阿弥陀如来坐像の仏師 定朝の物語。
目に見えぬものをかたちにする。掴みかけたものをもう一度、とするとき、御伽草子の絵仏師の言葉「かうこそ燃えけれ」を思い出した。
あと、中務の話の題材となったという「小右記」、ちょっと気になる。
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これは2012年のベストだろう。
感動した。澤田瞳子おそるべし。
歴史物というと、戦国時代か江戸時代が多いが、これは平安時代である。しかも、しんきくさい仏師の話か...ということだったが、読み始めてすぐにどんどんと引き込まれていく。
定朝、隆範、敦明親王、藤原道雅、藤原彰子、小式部内侍、中務。
生まれながらの身分がすべてという時代。その時代に生きる登場人物の葛藤が活写されている。
天才定朝は、最後には人の内なる仏性というところまで行き着く。
ふむ、オレの内側にも仏がいるのかなどと思う。
最後にまた「序章」を読む楽しみがあるのも良い。
本を読む楽しさを十二分に味合わせてくれた。ありがたいことだ。
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さまざまな立場の登場人物により、彼らの葛藤、時代、世俗が読み解きやすい反面、彼らのエピソードが過分にドラマチックに盛り込みすぎで、肝心な部分が影を潜めてしまったよう。
見えないからこそ心で感じられる、そういうところにもっと光をあててほしかったな。
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一気読み。
時代的には実は苦手(似ている名前多いのと、関係性が複雑なのでw)なのですが、そんなことはほとんど障壁にならず、するすると読めてしまいました。
平安というと、おどろおどろしいイメージがあったのですが、清涼で、かなしい、開きはじめた睡蓮のような本です。
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平安時代・平等院阿弥陀仏像を造ったことで著名な定朝。阿弥陀如来の穏やかな平安に満ちたモデルを求めて出会った女性は・・・。少し冗長に感じるかもしれませんが・・・、定朝と中務の出会いからは一挙に物語が佳境に入ります。藤原道長と頼道・彰子たちの兄弟姉妹、そして三条天皇の御子で廃皇太子とされ不幸な・敦明親王、和泉式部の娘・小式部内侍など、親しみやすい人物も多く登場し、ドラマチックな展開でもあります。著者の該博な日本史の知識に基づき、また美しい表情に関する文章表現など日本史が好きな人にはお薦めです。
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若き仏師、定朝と彼の作品に魅せられた比叡山の僧侶、隆範(りゅうはん)の二人を中心に、道長の娘・彰子に仕える女御、中務と小式部、不遇の敦良親王、藤原道雅・・彼ら彼女らの苦悩と、その思わぬ決断に胸つかれて何度か泣いてしまった。藤原時代の貴族、比叡山、仏師、庶民の生活を描きわけつつ、脇に至るまで個々の登場人物が魅力的。 「円熟」と先入観を持っていてそれほど魅かれていなかった定朝の仏像を改めてじっくり拝観したいと思った。若き定朝の仏像があった法成寺が現在残っていないのがとても残念。
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平等院鳳凰堂の阿弥陀如来の作者定朝と彼をめぐる人々の物語。貴族達の関係性(誰と誰が従兄弟でとか)が頭に入って来なくてそこは読みづらかったけど、おもしろかった!
奈良京都に行きたくなったー。
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平等院鳳凰堂の仏像を手がけた名仏師・定朝の半生を題材とした歴史小説。彫刻家を題材にした小説は珍しいが、かなり資料を渉猟した力作。
定朝と学僧の隆範との交流を軸として、当時にきな臭い政争が絡み合う。藤原氏内部のいざこざや、不遇だが横暴な親王、女房との恋路などは退屈であったのだが、こうした傍役たちのストーリーが、凄絶な結果をもたらす。いくつかの場面で涙を誘われること必定。
女房のくだりは創作かと思っていたが、史実だったみたい。
かの有名な平等院鳳凰堂の阿弥陀如来のモデルが誰なのか、という謎解きでもあるのだが。
青年らしい青臭さがあると思っていた定朝の、芸術家としての業の深さ、貴族社会への痛烈な批判と、落ちぶれていく人びとの哀れ。
大河ドラマの平清盛の世界観を文字に起こしたような感じだったが、描写が丁寧で、平安朝に迷いこんだ錯覚を覚える。
ラストの余韻がなんともまた。兵どもが夢のあと、という一句が似合いそうな。
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副題に定朝とあるけど、隆範とツートップってところ。
彰子サロンの小式部内侍・中務・小諾の女房ライフ、道長に対する彰子の葛藤、小一条院の荒れ様、中関白家の身の寄せ合い…と盛り沢山だけど、やっぱりクライマックスは、脩子内親王の出家から、今昔物語だか小右記だかにある「犬に食われた花山帝の皇女の話」に至る一連かしらん。
ネタに事欠かない登場人物が多いけど、道雅の密通とか敦明の延子・顕光サイドの話はナシ。この辺のバランス感覚が絶妙で読み易いのかも。
ところで。「藤原道雅が彰子の懐刀」と「小式部&敦明」ってのは…フィクションですよね??