紙の本
読み応え十分の歴史小説
2012/07/26 00:36
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投稿者:messy - この投稿者のレビュー一覧を見る
古書がからんだミステリといえば、今をときめく「ビブリオ古書堂」のシリーズやジョン・ダニングのジーンウェイものが思い浮かびます。で、そんな趣向を予想して本書を読みはじめたところ、見事うっちゃられました。
ミステリといえばミステリなのかもしれませんが、むしろ歴史小説と呼びたくなる、そんな物語ですね。そして読み応え十分。読書の愉しみを堪能しました。
主人公に相当する女性は狂言回しで、ホントの主人公は「サラエボ・ハガダー」という実在の古書です。20年ほど前のボスニア内戦の時はこの古書の行方が世界的な関心事となり、ニューヨーク・タイムズなどにもしばしば登場しました。本書の著者は、そのころ記者として現地で取材していた経験も生かしつつ、人類の愚かしさと気高さを描き出す物語を紡ぎだしました。
愚かしさは、ほかでもないボスニア内戦やナチス・ドイツのユダヤ人迫害などを通して映し出されます。コロンブスがアメリカ大陸を「発見」し、レコンキスタが完了したとされる1492年が、世界史の中でいかにおぞましい年だったか、読む人は改めて思い知らされます。
そして人類の気高さは、この古書が今も生き延びていることによって、くっきりと映し出されます。
本書は第2回翻訳ミステリ大賞を受賞したそうです。第1回受賞作の「犬の力」も、ミステリと呼ぶにはあまりに壮絶な歴史との格闘でした(こちらもいずれレビューしたいと思っていますが、今はまだちょっと歯が立たない状態)。米欧の作家たちの力技に感服します。
紙の本
美しい題名の本
2022/08/06 13:20
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投稿者:ケロン - この投稿者のレビュー一覧を見る
ハガターという本をめぐる物語。
まず、ハガターとは何ぞや?というところから始まりましたが、ぐいぐいと物語に引き込まれました。
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面白かった。しかし、ただ楽しんだだけではなかった。これは一冊の貴重な古書をめぐる物語だ。現実に存在するユダヤ教徒の出エジプトを祝う儀式に用いるという歴史的価値の高いある古書が民族紛争に、世界大戦に巻き込まれ、ユダヤ教徒のための本でありながら二度もイスラム教徒に救われたその古書に思いをはせ、想像の翼を大きく大きく広げ高く遠く羽ばたかせて紡いだ物語だ。そう、物語という想像力の賜物だ。
物語は紛争が終結しようとしている1996年のサラエボから始まる。古書修復師である主人公が紛争中、銀行の貸金庫に隠されていた古書の修復にあたることとなったからだ。そして本のなかに挟み込まれた蝶の羽や塩の結晶、ワインの染みという過去を探る手がかりから物語は時間を遡る。
ユダヤ教徒の苦悩とはいかなるものかその一端を私は初めて垣間見た。これは古書をめぐる物語であると同時にユダヤ教徒の迫害の歴史書でもある。またユダヤとカトリック、イスラムとの関わりの歴史だ。そして、ある意味で同じ起源をもつ三つの宗教を時代ごとに追い、その時代に生きる人間たちをあざやかに描きだしている。理不尽な迫害に泣き、たしかにこんな時代があったことをかみしめた。もちろんこれは物語だ。たとえ実在する書物を題材としていても空想の産物であり、実際の歴史ではない。しかしだからこそ胸に迫るものがある。この古書がたどった数奇な運命の一つの道を著者は見事に描いた。物語という夢のなかで。
面白かった。そして泣かされ、もっと知るべきだと思わされた。過去を、過去に生きた人々を。
上下、2巻。
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ユダヤを含むヨーロッパの歴史がわからないとなかなか入り込めないが、現代と過去を交互に登場させることで、より一層の臨場感が楽しめる。
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500年前のユダヤ教の写本が発見され、その本がどのように作られ、どのように人々の手に渡り守られ今日まで至ったかをめぐる話。
古書鑑定家ハンナが鑑定し、手掛かりを元に古書の謎を追求していく。
ユダヤ教の書物にハガダーというものがあるのも初めて知ったし、ユダヤ教とキリスト教の戦いも知ることができた。
ハンナが発見した手掛かりと、それにまつわる過去の出来事が年代を遡る形で交互に語られていく形式は、単調にならずに読み進めることができて読みやすかった。
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一冊の稀少な古書をめぐる、歴史ミステリ(?)小説。
話は現在と過去を行き来しながら展開される。
現代では、修復作業の過程で見つかった様々な手がかりをもとに、稀少な古書(サラエボ・ハガダー。15世紀に造られた挿絵入りのユダヤ教の祈祷書)の来歴をひもとく謎解きに合わせ、古書をめぐる陰謀が渦巻く。また現代の物語と並行して、ハガダーにまつわる過去の人々の物語が展開され、読者は古書の保存修復を請け負った主人公以上に古書の来歴を知ることになる。
過去の物語は、ユダヤ教の書物にまつわる話だけあって、抑圧に抗う人たちの物語と言える。時に酸鼻な光景が展開されるが、登場する人たちは悩み、苦しみながらも絶望に抗い、したたかに生きていく道を選ぶ。
ハガダーのために。あるいは自分のためにハガダーを使いながら。
そしてサラエボ・ハガダーはなぜ作られたのか。その理由は恐らく主人公には想像してもしきれないような素朴な理由が最後に明かされる。
一方、現代の物語は、古書の来歴をたどる緻密な古書修復作業という多くの人にとって未知の世界。これだけでも十分興味深いが、ハガダーを巡る陰謀が渦巻き、エンタテインメント性も十分。
ミステリ小説か、と言われると違うのかもしれないが、ともかくも面白い。
話の筋も面白ければ、知的好奇心も満たされるし、歴史小説好きにもヒットする。夢中になって読める類の良作。
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500年前の稀覯本「サラエボ・ハガター」が発見されたと聞いた、オーストラリア人の古書保存修復家のハンナが治安の安定しないサラエボに向かう。
彼女が見つけたその稀覯本に残る小さな形跡がこの本が辿った運命を物語る。
展開としてはこんな感じか。。。
この「サラエボ・ハガター」は実在の稀覯本ですが、物語は全くのフィクションだそうです。
まず本の背表紙にある紹介文の一番最初の部分
「100年間行方の知れなかった・・・」この部分が本の内容に合わないのは著者の責任ではないな。。。
しかし、読み出してすぐに「アレッ?」って感じになってしまう。
本に残された形跡「昆虫の羽根、ワインの染み、塩の結晶、白い毛、無くなった金具」を調べ世界中を飛び回るハンナ。
その形跡を探すところで、各章時代が遡りその形跡が残されたエピソードへ。
面白い展開です
古い時代の各章で語られる真相の詳細は知るのは読者のみで、そこまでの詳細は探索者のハンナは判らないと思うのですが、最終的にはこの本が辿った運命のかなり詳細なレポートを書き上げている様な雰囲気だったことが、チョット??
ユダヤ民族とユダヤ教の辿った厳しい運命はある程度理解しますが、過去の各章の登場人物のユダヤ人のほとんどが凄く良い人でそれ以外の人がかなり嫌な感じ(ユダヤ人以外の良い人も出てきます)の点に少しやり過ぎ感を感じました。
また、この本が辿った出来事を通してユダヤ民族・ユダヤ教の厳しい運命は物語としては良いのですが、本の帯にある謳い文句の「歴史ミステリー」のミステリー感は殆どなかった。
この点も著者の責任ではないのですが。。。
ハガターと言う本の存在も初めて知ったし、歴史の一面の勉強にはなりましたが、正直小説としては私には少し合わなかったな。
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書店でタイトルに惹かれて手に取りました。古書の研究者の姿と古書がたどってきた歴史とが交互に描かれる世界。本に残された人類の歴史。そしてその陰にある個人の歴史…。1冊の本の歴史からいろいろな世界が広がります。
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500年前のスペインで作られた、ユダヤ教の美しい本サラエボ・ハガダー。値のつけようがない希少な本がいかにして現代まで守られてきたのか。現代と過去を行き来しながら、ユダヤ教徒の歩んだ苦難の歴史の断片が綴られている。
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古書鑑定家ハンナが一冊の古書と出会い、そこから時を越えた物語が始まる。ミステリーだと思って読み始めたけれど、歴史小説としての色合いが濃い。美しい挿し絵入りのユダヤ教の書。その書物に関わった人物たちの悲劇や苦悩に、何度となく胸が押しつぶされるような気持ちになった。第二次大戦中のユダヤ人の少女、19世紀末の製本職人、17世紀初頭の検閲官。それぞれの時代で、なぜユダヤ人があれほどまでに虐げられなければならなかったのかについては自分の知識不足を感じた。下巻ではどんな歴史が語られるのか期待。
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内澤旬子さんが『捨てる女』(http://booklog.jp/users/junjinnyan/archives/1/4860112482)で紹介していて、おもしろそうだったので速攻購入。1996年に奇跡的に再発見されたユダヤの書物『サラエボ・ハガダー』をめぐる歴史ミステリー。といっても、大半は創作のようですが。冒頭の、製本技術に関する記述が悶絶するほど面白かった!上巻半ばからのユダヤをめぐる歴史物語は私の興味からは逸脱していたので読み進めるのにずいぶん時間がかかってしまいましたが、下巻からはまたまた面白くなってサクサク読めました。
2014/1/12 上巻読了。
2014/1/15 下巻読了。(http://booklog.jp/users/junjinnyan/archives/1/4270104104)
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サラエボで戦争後に見つかった、中世に作成された美しい挿絵入りのとても貴重なサラエボ・ハガダー。その本に偶然入り込んだ蝶の羽、ワインの染み、署名はなぜできたのか。誰がどのように痕跡をつけたのか。
現実であればタイムマシンもなく掠れた痕跡を記録から推測することしか出来ないけれど、そこは小説の力、当時に戻ってその時の人物とシーンを再現してくれて、当時の時代背景と人物の感情が生き生きと蘇ってくる。
ユダヤ人は当時から差別され迫害されていたのか。全然知らなかった。あと、ハガダーの図を冒頭に示してほしい。用語も馴染みがなく留め金などイメージしづらいので。
本の歴史を辿るミステリー以外にも、サラエボとボスニア人の話、母と娘の確執、恋愛などの要素が盛り込まれていた。じっくり書いてある感じではないんだけど全部がなかなか重いテーマ、でも読み進めやすい。
下巻でついに1400年代まで辿れる、主人公のお母さんや恋人との関係はどうなるのか、目が離せない。
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ユダヤ教の古書を鑑定する現代の話と、その本を所有してきた人々の歴史をたどっていく過去の話が交互に進んで行く構成。
紛争・戦争の時代から遡って行くので、最初は読むのが辛いけど、そんな中にも少しの幸せを感じる所もあって、すぐに上下巻とも読めてしまった。
鑑定で分かったことと、鑑定でも分からなかった背景が、ドラマティックだった。
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ユダヤの祭事で使うある本の500年の遍歴。100年ぶりに見つかった本には何が隠されているのか。
ユダヤの世界というのは日本人には遠くてわかりたいけどわからない部分だったんだけど、世界の中で歴史の中でどんな扱いだったのか、少し知れた。
濃厚!