紙の本
上田秀人の今後を占う初期作品集
2012/07/01 21:39
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投稿者:ドン・キホーテ - この投稿者のレビュー一覧を見る
上田秀人の初期の作品集である。とはいっても最近文庫本で出されている長編ではない。時代物短篇集と言った方が適切である。初期とあるが、実際にはまだデビュー前の作品だそうである。したがって、内容的にはまだまだ練れていないのだろうという先入観があった。
本書には8つの短編が収められている。テーマとなっているのは、織田・秀吉はもちろん含まれるが、黒田官兵衛、新井白石、竹田出雲、勝海舟、小栗上野介、福沢諭吉など多彩である。新井白石など後の小説の肥しにでもなっているような書きっぷりである。
いずれの話にも定説がある。あるいは史実と言ってもよい。しかし、上田はまだ謎を秘めた歴史の一幕にメスを入れたのである。歴史上のストーリーの中にも、そこに登場する主人公が何を考えてそうしたかがどう考えても不明なものも多い。そこを上田流の小説家としての推理を働かせて記述したものである。したがって、一話一話は短いが、そこに至る推理としてはなかなか読ませる仕上がりになっている。
こういう類の推理話はなかなか読者の興味を引くものである。長編推理小説も結構であるが、こういう短編ものも密度が濃く、十分読み応えのあるものになるであろう。是非、同じようなシリーズを今後も発表してもらいたいものだと思う。長編推理小説だけでは読者に飽きが来ることは間違いないからだ。
本編に載せられているストーリーの中で、「乾坤一擲の裏」というテーマが第一話に登場する。今川義元が調子良く織田信長を攻めていた際に取った作戦についての謎である。秀吉の軍師である黒田官兵衛が今川のとった行動について思い悩むのである。この一編はもう少し分かりやすく書けなかったのかという印象が残る。とくに始まりの部分は整理がなされていないような気がする。
時代の範囲から言えば、8短編の中に福澤諭吉や勝海舟など幕末から明治維新にかけての大物が登場する。私自身はほとんど興味がないが、上田には幕末物や維新物における長編を書く準備が整っているといってもよいのではなかろうか。
江戸時代を得意としているように見えても、上田はそれ以外の時代も視野に入れて勉強も積んでいるといっても良いのかもしれない。いずれにしても上田の今後が楽しみである。
紙の本
少し骨休みにちょうど良い一冊。
2012/05/27 17:50
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投稿者:龍. - この投稿者のレビュー一覧を見る
少し骨休みにちょうど良い一冊。
歴史ミステリーの短編8作品。
戦国時代から、江戸期、幕末、明治期までと時代背景は幅広いです。どの作品も、歴史上の「なぜ」という部分に焦点をあてて、独自の解釈により謎ときされています。
構成はだいたい同じで、謎解きをする歴史上の有名人が、「事件」の謎に挑むという形です。パターンが決まっている作品集は、最初のいくつかを読むとそのうち飽きがくるものですが、本作品の場合、最後まで飽きずに読むことができました。
例えば、「たみの手燭」では、幕末の最大のミステリー「龍馬を暗殺したのは誰か」に勝海舟が挑みます。
謎解きは、最近、いくつかの書籍でもちらほら見られる説ですが、状況証拠から推理していくところはなかなか説得力があります。
どの短編も著者上田秀人氏のデビュー前の作品ということです。短編ということで、ストーリー展開にやや荒削りの部分はあるものの、十分楽しめる内容でした。
龍.
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歴史ミステリーってところか。
忠臣蔵の話しの最後のどんでん返しっぷりははすごい。
ここまでのどんでん返しはぷり久々だしお見事。
理にもかなっているし本当にそうなのかもと思えなくもない。
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官兵衛が桶狭間の勝利を演出した者を、不昧公が利休切腹の謎を、海舟が龍馬暗殺真犯人を……と、戦国時代から明治時代の著名人が、歴史の謎を解くミステリ短篇集。
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デビュー前から上田秀人はこんなに凄かった!
発掘!歴史の謎を大胆に読み解く、驚愕の初期作品集。
・乾坤一擲の裏(桶狭間の戦い、黒田官兵衛)
・功臣の末路(堀田正俊暗殺、新井白石)
・座頭の一念(田沼意知暗殺、座頭)
・逃げた浪士(忠臣蔵、竹田出雲)
・茶人の軍略(千利休、松平不味)
・たみの手燭(坂本竜馬暗殺事件、勝海舟)
・忠臣の慟哭(桜田門外の変、小栗上野介)
・裏切りの真(箱館戦争、勝海舟、福沢諭吉)
本書は、日本意外史の流れをくんだ歴史短編小説集である。
桶狭間の戦いの謎を、黒田官兵衛が解いたり、堀田正俊暗殺の謎を、新井白石が解いたりする。どれもどこかで聞いたようなネタであるため、あまり新鮮味は無い。それは良いのだが、デビュー前の作品は、話の語り方が洗練されていないため、同じパターンである8本を読み切るには骨が折れた。(もっとも着想は面白いので、もっと面白い書き方が出来るかもしれない)
以下、感想です。
「逃げた浪士」と「たみの手燭」、「忠臣の慟哭」はなかなか面白かった。
「乾坤一擲の裏」ネタは面白いが生かし切れていない。
「功臣の末路」真相がこれとは、肩すかし。
「座頭の一念」ちょと無理がある。
「茶人の軍略」短編では苦しい。
「裏切りの真」榎本さんは開陽を自分から沈めませんよ。
それぞれ、面白い部分もありますが、気になる点も多々あります。
しかたのないことですが、歴史を調べるほどに、小説を単純には楽しめなくなります。
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初期短編集。歴史上の謎に果敢に挑戦、とありますが、この作家が好きなら読んでみては如何かと思います。真偽の程は?ですがよく調べて書いていると思います。
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なんとなく手に取った作品。思った以上におもしろかった(一話足りないと思ったのは私の計算間違い)。
戦国から幕末までのさまざまな軍師(勝海舟に軍師というイメージはなかったけれど)のなぞ解きを絡めたお話。
最後の榎本武明の話と、桶狭間の話、桜田門外の変の話が特に面白かったかなあ。あとのもなるほどーっと思わされた。もっとほかの謎(とまではいかなくても他の解釈ができそうな事件)も書いてみてほしいな(もう書いているのかも)。
ただ、徳川慶喜がけっこうこてんぱんにひどく書かれていたのは、もっくんの大河のイメージが崩されて悲しかった。
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あとがきで作者本人が稚拙と言っているけど、そんなことはない。たしかに荒削りな感じがするけど、それがかえって物語に勢いを感じさせます。上田秀人はやはりすごい。
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黒田官兵衛が今川義元の桶狭間で昼食をとった謎を追う話、稲葉正休が親戚の堀田正俊を殿中で切り付けた謎、不昧公が千利休切腹の謎を追う話、勝海舟が坂本龍馬の暗殺の謎を追う話、榎本武揚の転身に憤りを感じつつ探る福沢諭吉。歴史上の人物が推理者と推理の対象者であるストーリーの作りが面白い。短編なので、推理に必要な情報がどんどん出てきてその経緯は丁寧に描かれていない点が残念だが、話の流れが速くどんどん読める点は面白い。
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斬新な感じで面白かった。
もしかしたら、史実の裏にこれが本当にあった?と、読み進むにつれ思いが強くなる、そんな感じでスラスラ読めた。
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最近のお気に入り「上田秀人先生」の短編集
初期作品というよりもデビュー前に書き溜めた
作品の蔵出しなので香りが強くてとんがってます
基本歴史の謎(疑問)を歴史上の人物が真相究明
するという物語・・・後々の下地を思わせる作品も!
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軍師を題材にした短篇集。
官兵衛と家康の話は、今年のたくさん読んだ本の流れの中で、来年読みたくなる題材を見つけるきっかけに。
また歴史は作られるというが、裏でどんなことが起こってるのか真実を見つけるのも面白いですね。
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ひとつ前に読んだ歴史小説が不消化な感じだったので、
こちらの作品に手を出してみました。
知らない作家さんだったので、期待薄で読み始めましたが、
歴史の裏ストーリーに引き込まれました。
読んだ後に、史実はどうだったんだろう?と思わず調べたくなります。
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薦められて読んだ初めての著者。
歴史上の人物が、コナン君あるいは大河ドラマの上野樹里お江よろしく探偵ぶりを発揮するのは好き嫌いが分かれるかもしれません。
しかし、これが文壇デビュー前の短編集とは驚きました。
江戸中期が舞台のいくつかは読みづらく感じましたが、幕末が舞台のものは秀逸です。
「たみの手燭」「忠臣の慟哭」「裏切りの真」、尻上がりに筆が冴える3編だけでも一読の価値ありですね。
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歴史ミステリー短編、8話を収録。
どの話も、歴史上の事件の謎を、これまた歴史上の人物が探偵よろしく解釈していくという興味深い内容になっています。
特に、幕末モノ3編は(3話すべてに勝海舟さんが登場)、それぞれの話の関わりが3部作のようで面白かったです。