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紙の本
魅力的な設定に託された心の闇
2012/08/16 16:07
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ががんぼ - この投稿者のレビュー一覧を見る
文学の凋落が言われる中で、中村文則という作家は、まだ歳は若いだろうに、
愚直なまでに古風ともいえる「純文学」の砦を守ろうとしているかのように見える。
ずっとドストエフスキーを愛読してきたそうで、そう聞けば頷けるものがある。
芥川賞受賞作の『土の中の子供』も、
なるほどこれはドストエフスキーでいえば、さながら『地下室の手記』だろうかと納得される。
ただこの作品は、もちろん文学賞を取ったのだから、評価はされているのだろうが、
重要な作品だとしてもあまり一般受けするようには見えない。
むしろ面白いのは、デビュー作であるというこの『銃』だろうと思う。
往々にして、作家のデビュー作の方が、
その後の、より深く巧くなったはずの作品より、鮮烈な印象を残す、ということがある。
中村文則の場合は、近年、面白くてかつ深い作品を目指していっそうの飛躍の途上にあるようにも見えるが、
それでもこの初期作品の魅力は捨てがたい。
2002年の新潮新人賞を受賞しているのもわかる。
技術的にはまだ未熟なのかもしれないが、
何かしら研ぎ澄まされた、ひたむきなものがあるのがいい。
もっとも話は暗いわけで、もともと精神的に不安定なところがある主人公が、
銃を拾ったことを機に、だんだん常軌を逸してゆくという物語である。
面白いのは何といっても、この銃を拾うという設定だろう。
一読者の立場から勝手を言うと、面白く読ませてもらうためには、
たとえばドストエフスキーでいえば、『賭博者』のようなもの、
つまりあの場合の「賭博」のような、何がしか強烈なモチーフが欲しい。
ここではそれが「銃」である。
同じ銃を拾う話で、佐藤正午の『リボルバー』も思い出されるが、
設定の効果はこちらがはるかに引き締まっていて、この作家の資質に合うものを選んであると思った。
選ぶというよりももっと内発的な必然なのかもしれない。
紙の本
「銃」の圧倒的な存在感に魅せられた大学生、西川の気持ちと行動を描いたハラハラドキドキの小説です!
2020/05/17 10:30
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投稿者:ちこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、銃をもった青年がその銃に支配されていくという驚愕のストーリーです。中村文則氏のデビュー作ということですが、そこに描かれた小説世界はすでに成熟の域にあり、読者を十分に満足させてくれる作品となっています。内容は、主人公の大学生である西川が、雨が降りしきる河原で男の死体とその傍らにおちていた銃を見つけます。彼はその銃に魅せられ、「おれはいつか拳銃を撃つ」という確信を持つようになります。男の死体事件は、毎日TVで流れ、西川のもとへ突然刑事が訪問してきます。そのような状況において、西川は一つの決断を下します。一体、どのような決断なのでしょうか。続きは、ぜひ、同書をお読みください。
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著者の原点
2016/09/24 20:49
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投稿者:十楽水 - この投稿者のレビュー一覧を見る
人間の意思決定は、単純に可能性の有無に従っているだけかもしれない。物事から距離を取るように生きてきた主人公は、銃に支配されることを通して一見、合目的的・主体的に生き方を変えていくように見える。しかし、著者は人間の頼りなさ、歪さを通奏低音として描き続ける。
この頼りなさは、生育歴が強調したものなのか。自分の過去に興味がないという主人公は、射撃の表敵意選んだ女性に、自分を捨てた女を重ね合わせていた。結局は生まれ育った環境という、選択の余地のないものが、人間を強固に支配しているようにも見える。
生まれついての不平等に対する著者の抗議のようなものを読み取ってしまう。しかし、この絶望への向かい方は、だれにも支配されるものではない、「あなた次第」だと言ってしまうと、それは救いになるのか、さらなる絶望をもたらすのか。本作には救いはないが、角度を変えて内面を見つめる分析的な描写が秀逸だった。
紙の本
抗えない魅力
2021/02/18 23:42
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投稿者:Todoslo - この投稿者のレビュー一覧を見る
川原で黒い光を放っている、1丁の銃が何とも不気味です。ひと度手にしてしまうと、鬱屈とした大学生を豹変させてしまうような力があるのかもしれません。
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圧倒的な語りの量
2016/04/24 19:59
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投稿者:端ノ上ぬりこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
中村氏のデビュー作。主人公の私が、橋の下から銃を拾う事で内面が変化していく様が書かれている。普通の大学生で、ケイスケやヨシカワユウコ、トースト女とかかわりながらも、常に心は拾った銃の事で上の空状態。刑事の出現で局面が変わってくる。
不安定の中に、おびただしい量の心理描写で埋め尽くされているような感覚になった。息苦しさまでも伝わって来る。才能を感じる作品。
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デビュー作品
2016/02/08 22:12
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投稿者:狂人 - この投稿者のレビュー一覧を見る
中村文則さんのデビュー作品です。銃に魅せられ、のめり込んで行き、やがて銃に支配されていく男の話しです。銃が生き物のように描かれているのが印象的でした。
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モチーフの話
2015/03/29 23:07
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投稿者:オオバロニア - この投稿者のレビュー一覧を見る
本作は、普通の大学生が道で銃を拾い、もてあまし、葛藤する物語です。
中村作品を何作か読めば分かりますが、本作も影のある青年が主人公で、主人公にしつこく関わろうとする人間が少し登場するという人物構成はほぼ変わりません。
本作を読むと「銃を手にして性格が変わってしまった話」と曲解したくなりますが、たぶん違うと思います。銃を「簡単に、証拠を残しにくく、ある程度離れた所から人に暴力を加えられる装置」と考えると、それが暴力のモチーフであることが分かると思います。人は誰しも暴力性を持っているので、「銃」はそれを分かりやすく描いた作品と言えるのではないかと思います。
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不思議
2021/03/25 17:36
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投稿者:k. - この投稿者のレビュー一覧を見る
中村文則さんの文章は、銃なんて持ったことない私に「この感情、わかるかも」と思わせる凄さがあります。続きがどんどん気になって、あっという間に読み終えました。