紙の本
親切で面白いけれど、正直すぎて歯切れが悪い。
2012/09/03 17:00
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:銀の皿 - この投稿者のレビュー一覧を見る
DNAやたんぱく質などを調べる分子生物学が、化石の研究にも使われる時代になった。本書はそれを紹介した一般向けの本である。
絶滅した動物の剥製からDNAを取り出して類縁関係を調べれば、今は存在しない生き物がウマとシマウマのどちらに近いのかがわかる。保存されていた臓器を調べると、埋葬されていたのが本当にその王族の子供なのかがわかる。導入の事例は親しみやすく、基礎の分子生物学のわかりやすい説明も入っているので、まったく分子生物学を知らない人にも楽しく読めるだろう。しかしその分、DNAなどの基礎知識をすでに知っている人には冗長に感じるかもしれない。
古くなればなるほど、DNAやタンパク等の大きな分子は壊れていくし、周りからの混入も多くなる。本書では「科学者としての正直な実状を描きたかった」ということで抽出の苦労や失敗なども詳しく書かれている。確かにそれが実情であろう。こういった記述は実際にこの種のことを仕事にしようと思う人には注意事項として役立つだろう。しかし、これが内容全体をわかりにくくしてしまった気もする。特に本書後半の恐竜からDNAがとれるか、というあたりは難しさの印象ばかりが強く残る。
恐竜のDNAはどの程度現存する生物とつながっているのか。わかればとても素晴らしいと思うが、まだまだ道のりは長そうだ。それでも、化石の微細な構造がわかってきたり、酵素などが見つかることがあるなど、ずいぶんいろいろなことがわかってきたものだということはよくわかる。今は難しくてもきっと近い将来にはもっといろいろとわかってくることだろう。
まえがきに「なぜ鳥は前足を捨てて翼にしたのか。翼を別に持つことはできなかったのか。」という著者の子供時代の疑問が提示されている。それには長い進化の積み重ねの上で出来上がっている制約がある、と触れられていたのだが本文の中でもう少しこの部分を展開してくれるかと思った期待ははずれてしまった。化石の分子生物学からこのあたりの問題が説明できるなら、ぜひ入れてほしかった。
電子書籍
DNA
2021/08/22 23:03
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投稿者:エムチャン - この投稿者のレビュー一覧を見る
解析したら、多くのことが判明するとは言われていますが……。化石から、生命がいかに進化してきたかを調べていくといった生物学の分野を、丁寧に分かりやすく説明してあります。とはいっても、やはり難解なところも……
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科学の明るい面とそうでもない面がちゃんと伝わる。
化石,ミイラなどからDNAを取り出して分析する。これで色んなことが分かった。この分析方法自体がDNA分析手法の発展とともに進歩している。化石などでは,いかに汚染されていない,外部から取り込まれたものを排除したものを分析するかが重要とのこと。
2012/08/04図書館から借用; 返却期限が迫ってきたので,08/17の通勤電車から読み始め;08/21の朝の通勤電車で読了
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化石のDNAや化石タンパク質などから古生物をしらべる分子古生物学という分野があるってことさえ知りませんでした。どうやって化石からDNAを取り出して調べるのかなかなか興味深い話題ですが、全般にはネアンデルタール人、カンブリア爆発、分子進化時計など分子進化学の話題が門外漢向けにさっくりまとめてある本で、科学本好きの中には少しもの足りないという人もいるかもしれませんが、通勤電車で中で軽い科学エセーでも読みたい人には、お手頃の本だと思います。
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<ジュラシックパークの夢と現実。
その現実は夢よりもスリリングかもしれない。>
生物がどのように進化してきたのか。
その背景を探る1つのツールとして、近年、発達してきているのが、化石からDNAを取り出して分析する、分子古生物学である。
固い説明よりも、映画にもなった小説『ジュラシック・パーク』みたいな話といった方がイメージが湧きやすいだろうか。琥珀に閉じ込められた蚊から恐竜の血液DNAを採取し、恐竜の復元に成功する話である。
ある意味、これに近い研究といってもよいだろう。
ただし、現実の研究は『ジュラシック・パーク』のように華々しくわかりやすいものではない。地道で、ときに行き詰まり、ときに行きつ戻りつして進んでいく。
派手ではないが、可能性を秘めた、エキサイティングな世界が、本書には紹介されている。
化石からDNA配列を得られるようになったのは、PCRと呼ばれる技術の発展に負うところが大きい。PCRは、ごくごく少量のDNAを増やすことができる技術であり、増やしたDNAから、タンパク質の設計図であるDNA配列を知ることが可能になる。この設計図を種間で比較して、進化の推移を探っていく。
ただ、長い年月を経た化石には、DNAはほとんど存在しないか、存在しても損傷を受けてごく短くなってしまっている。やっと解析に成功したと思っても、別の生物のものの混入であることも稀ではない。
目的のものかどうかをどうやって判断していくのか、実際の研究者がどのように考えていくのかを、順を追って辿っていく過程は非常に興味深い。
本書に紹介される話題は、古いところでは5億年以上前のカンブリア紀から、新しいところではルイ17世生存説までと幅広い。中にはネアンデルタール人と現生人類の間に交配があったかといった話題もあり、終始、興味深く読ませる。
いささか突っ込んだ話もある。
進化の上で、近縁であるかどうかを判断する際に考慮する、原始形質と派生形質。
化石の保存状態の指標となるラセミ化。
カンブリア紀の爆発を生物間の「食う・食われる」関係の始まりと結びつける考察。捕食関係が生じたことで、硬組織の形成などダイナミックな変化が起こったという。
特に、カンブリア紀前には見られなかった貝殻の形成に関与するタンパク質を解析して、貝殻の起源を探る話がおもしろかった。
文章は平易で読みやすく、技術説明もわかりやすい。
さほど陽の当たっている分野ではないと思われるが、今後の発展を期待させて楽しい。
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本書は「分子古生物学」の専門家である著者が、最先端の研究を素人にもわかり易く、かつ面白くひもといたものである。
3万年以上前に存在し、現在では滅びさっている「ネアンデルタール人」が現世人類と交配していたのかという、永遠の謎のような問題がゲノムの解析によって判明していたとは、驚きである。
他にも歴史上の謎「ルイ17世の生死」などをDNA解析によって明らかにしているのだが、その専門的な分子生物学の手法とDNAの構造・特徴などもわかり易く紹介している。
専門的な話だけではない。「ジュラシックパーク」を取り上げた内容や、「カンブリア紀-現在のDNAから過去を探る」なども、楽しみながら知識を得ることができる興味深いものと思えた。
ただ、できれば、いま焦点の最先端課題などの紹介などもあれば、もっと興味を次に引き継ぐことができるのにともおもえたが、本書は「生命進化の謎を解く」分子生物学を、わかり易くかつ興味深く紹介した良書であると思う。
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化石からDNAを取り出して、その起源を探ろうという試み。様々な失敗談を含め、研究の過程を解説してくれるのだが、少し難解の部分もあり、結論だけ聞いて、満足している。古代や歴史上の謎を解明するために、DNAを分析するという夢のある話であるが、現実的に科学的に証明するのは難しい点が多いようだ。
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テーマは面白いのだが、科学的に正しく記述しようとするあまり、専門用語が頻出し、一般の読者としては読みづらい。たとえ話も唐突にでてきたりして(またそれがわかったようなわからない話だったりする)面食らうこともしばしば。現代新書よりもブルーバックスの方がよかったのではないか。
ポピュラー・サイエンスの書物は難しいことを平明に書かなければならないので、著者の文章力が問われる。その点、スティーヴン・ジェイ・グールドはつくづく偉大だ。
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分子古生物学とは何かを判りやすく説明している。
現生人類とネアンデルタール人との交配はあったか?
ジュラシックパークは実現するか?
ルイ17世は幽閉されて死んだのか?
好奇心をくすぐるテーマに沿って、分子古生物学の方法が説明されている。
最近の生物学の面白さが十分に伝わる。
中高生に是非読んでもらいたい。
理科離れが危惧されているが、こんな先生がいればきっとみんな理科を勉強したくなる。
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ふんぬーーっ!読みながら鼻息が荒くなるほど面白い。
ジュラシックパークは実現できるのか?ネアンデルタール人と現生人類は交配したか?などなど、目次を読むだけでも興味津々。専門的な内容もすごくかみ砕いた説明をされていて分かりやすい。もちろん専門的過ぎて理解できていないところもたくさんあるのだけれど、理解不能なところがあることをもってしてもあまりある面白さだ。そしてこの著者のすごいところは、読んでいるうちに「じゃああれはどうなんだ?」と降って湧いてくる疑問にも、ちゃんと答えを出してくれるところだ。
それにしても、化石やミイラからDNAを採るということが、これほど大変であいまいな作業だとは知りませんでした。分子生物学の手法というか作業って、案外アナログなんですね。
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暇つぶしとしてはとても楽しめた。「星を継ぐもの」シリーズのダンチェッカー博士のお仕事が実際にはどんなものであるかと言えば一部の人にはわかりやすい説明だと思う。
個々の分析メソッドの説明ももちろん興味深いが、それとどまらず、演繹的推論とはなにかという点にまで考えさせられる良い本だと思います
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「化石の分子生物学」って何?と一言で言えば「ジュラシック・パークの世界」となる。
マイケル・クライトンが琥珀に閉じ込められ化石となった蚊が生きていた時に吸った恐竜の血液から遺伝子を取り出し、恐竜を蘇らせるという作品を(米国で)発表したのが1990年。そのタイミングで琥珀のシロアリから古代DNAが発見され、更には映画が封切られた翌年の1994年には米国で8千万年前の恐竜の化石からDNAが発見されたという報告があり、この分野ではまさに現実と小説が錯綜するような興奮があったという。クライトンの先見性にはまさに驚く話であるが、その興奮がまさに化石の分子生物学の発展に多いに寄与したのであろうし、我々も今こうして興味を持って本書を手に取っているわけだ。
とは言え、化石から遺伝子を取り出すのは実に至難の技のようだ。なんと抽出される99%は本来の遺伝子ではなく地層に埋まっている間に混入してきたバクテリア等の微生物の遺伝子、そして化石を掘り出し分析する間に混入してしまうであろう人間からあらゆる生物の遺伝子だというのだ。ではどうやって本来のものでない遺伝子を除去するかと言えば、遺伝子的に近いと想定される現代の生物の遺伝子配列をお手本にして類似性を探し、それに当てはまるものを対象に調べるというのだ。まさに気の遠くなるような作業だ。
さてそんな中で恐竜のものとされた遺伝子とはどういうものだったのか、果たしてジュラシックパークは実現可能なものなのか、その答えは本書を読んで興奮を味わって貰いたい。
この手の新書では変に専門用語をちりばめ総花的に何が言いたいのか判らないものが多いのだが、本書は素人が知りたいと思う事を中心に話題を進めていきながら、かなり専門的なことも専門用語をなるべく使わずに簡略に説明されていて非常に読み易い。オススメの一冊だ。
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本書は古代DNA(化石DNA)の研究の歴史と現状をわかりやすく解説した本である.映画ジュラシックパークでは,植物の樹液の化石である琥珀に取り込まれた蚊の血液から恐竜のDNAを抽出し,恐竜を復活させていた.あれが現実にできるのか.誰しもが夢を感じる部分だろう.このような古代DNAを扱う研究分野を分子古生物学という.著者はその分野の専門家である.その著者が,恐竜のDNAも含めて,分子生物学の進展を,ネアンデルタール人とホモ・サピエンスは交配していたのか?,ルイ17世存命説,カンブリア紀の爆発(カンブリア紀初期における動物の急激な多様化),などとの話題を絡めて丁寧に解説している.また,本書の構成が面白く,前半部で肯定的に書いていたいくつかの古代DNAの研究結果が後半部で誤りであったことや疑いが持たれていることが明かされる.前半部で「へ~,こんなことまでわかるんだ!」という思いが,途中で見事に裏切られる例があるのだ.言ってみれば,本書を読み進める過程で,古代DNAの研究者たちの興奮と落胆が疑似体験できると言っても過言ではない.
古代DNAの研究は夢があり,華やかであるが,古代DNAの研究は難しいのだ.DNAが何万年,何千万年,何億年と保存される可能性はきわめて低い.それゆえ,研究には慎重に期す必要があるし,他者による検証が必要なのだ.本書の最後に述べられている言葉が非常に印象的である.「科学者も人間なので,つい自分に有利な証拠を集めようとしてしまう.しかし,研究をする上で大切な事は,自分に不利な証拠を探すことである.自分で自分の仮説を反証するつもりで,観察なり実験なりを行うことだ.・・(略)・・.そして本来,自分を納得させることは,他人を説得するよりも難しいのだ.」まさにその通りだ.自分には嘘をつけない.研究者はまずは自分自身が,自分の研究の最大の批判者にならなくてはならないのだ.実は著者の更科さんは私の大学院時代の大先輩にあたる.DNA分析の指導などもしていただいていたが,空いた時間に研究のことなどを(ほとんどはゴシップ話でもあったが・・・)語り合った仲だ.上記の事は当時から常々更科さんが口にしていた言葉で,とても印象に残っている.そういう更科さんが,公正に,わかりやすくまとめた本書は,分子古生物学の現状を手軽に知る最良の書である.
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二十世紀後半の分子生物学の発展により、生物学はDNAという共通言語を手に入れた。そしてそれは、過去を探求する科学にも、大きな影響を与えた。化石を扱う人々にも、そして化石を扱わない人々にも。この本は、そんな人々の物語である。化石の中にあるDNAや化石タンパク質、そして今生きている生物のDNAなどから過去を知ろうとする人々だ。(本書 まえがきより)
化石にDNAが残ってるの?というのが本書の題名をはじめて聞いた時の驚きでした。
いまのところ確かに化石のDNAが特定されたのは、一万数千年前のナマケモノが最古とのこと。それより前の化石のDNAの特定は多くの科学者がチャレンジしているが、かなり疑いのある結果から、どちらともいえない結果まで、はっきりと恐竜時代のDNAだといえるのはこれまで見つかっていないようです。DNAは酸化に弱く、かなり条件の良い化石でないと見つからないだろうとのこと。ジュラシックパークが実現するのはまだだいぶ先の話のようで。。。
化石生物のDNAを探索する方法の解説、木村の分子進化の中立説のわかりやすい解説など大変勉強になりました。
ところで、この本にはうまくいきそうでいかなかった事例や、研究者の思い込みで結果が拡大解釈されて発表された結果など、失敗例が多く(成功例より多いかも)示されます。
私はこの本を、うまくいった結果だけをならべた成功物語にはしたくなかった。そういう本で科学を好きになった人は、科学のつらさやあやうさを知った時に、科学から離れていくだろうから。(あとがき)
確かに、そのとおりかもしれない。面白かった。
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古代の化石から何とかDNAを抽出し解析しようとする科学者たちの悪戦苦闘を通して、「過去に直に触る」ことのロマンが描かれます。彼らの思考や作業はまるで論理パズルを解くかのようで、ベン図でも描いて整理しながら読もうかと思ったほどでした。また、DNA抽出をより確実に行おうと3,000回以上も同じ作業を繰り返した結果、かえって致命的なノイズを拾ってしまったユタ州の学者のくだりは、気の遠くなるような過去の暗闇に向かって必死に手を伸ばす科学者の労苦が、心底伝わる思いがしました。
「ベストを追求したいのではなく、現象を認識したいのだ。これが科学の考え方である(p207)」・・・日頃、「結果」や「利潤」ばかりを追いかけ、現象の本質に思いを馳せる暇さえないサラリーマンとしては、たとえ困難でも彼らの生き様が眩く感じられました。