紙の本
左の人が目を通しておくもの
2024/02/24 23:29
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ichikawan - この投稿者のレビュー一覧を見る
日本の左翼の歴史、あるいは失敗の歴史を大河ドラマ『獅子の時代』の登場人物からとられた嘉顕型と銑次型に分類して分析していく。特に左翼の人にとっては異論のある人もいるかもしれないが、批判的にしろ左の人が目を通しておくものだろう。
投稿元:
レビューを見る
新左翼入門,ではなくて,それ以前の,明治から戦後までの日本の左翼について。エリートが理論を掲げて主導する道と,大衆の中から立ちあがる道の対立が,日本の社会主義運動には一貫してあった。
大逆事件までの,キリスト教社会主義対アナルコ・サンジカリズム。大正期のアナ・ボル論争。昭和戦前の日本資本主義論争。戦後の共産党対社会党左派・総評。本書では,マル経教員の著者が,時代に沿って「二つの道」の相克を辿り,そしてそれをいかにして乗り越えるかを論じる。
ただ,戦後が戦後まもなくで終わっていて,そのあと今後の話になるのは唐突な感じだ。
あとがきにあった,右翼と左翼の定義には納得。右翼は世界をウチとソトに分けて,自分はウチに味方する。左翼は世界を上と下に分けて,自分は下に味方する。で,お互い相手を「ソトに味方しやがって!」「上に味方しやがって!」と罵るというのがすれ違いの元凶だという。世界の切り取り方が違っているので,出発地点から不毛。
投稿元:
レビューを見る
左翼、というより日本の社会運動における「上からの啓発」と「下からの革命」の相克をわかりやすく描き出した一冊。文体が平易なうえ、フローチャート付きで状況を整理してくれるため、流れがつかみやすいです。これに目を通しておくだけで、社会主義思想の見通しがとてもよくなりそう。
「個人的にはこっちに肩入れするけどそれはそれとしてこんな問題点があったしこういうところは対立派の方が優れている」な記述が多いのは著者の誠実さを感じさせます。こういう論調は本当に大事なのですよね。
投稿元:
レビューを見る
幸徳秋水から丸山真男まで、社会運動の歴史を「上から目線」と「民衆からの目線」という2つのアプローチの対立としてたどった一冊。タイトルからして、革マルや中核派の歴史かと思って買ってしまったが、そこにはほとんど立ち入っておらず、ちょっと物足りなさも。。終わり2章ではこれら2つのアプローチの欠点ではなく長所を総合する方法について考察しているが、やや抽象的で具体性が見えにくいように感じた。とはいえ、平易な語り口で日本の社会主義思想史がまとめられており、一読の価値はあるだろう。
投稿元:
レビューを見る
「上からの啓蒙」と「下からの運動」に注目しながら左翼運動史を振り返り(1~8章)、それを受けて筆者が自らの運動論について述べる(9,10章)。
終章の主張は、私が考えていたものとかなり合致する記述があり、共感しながら読んだ。
これら9,10章の内容はちょっといきなりの感があるというか、若干説明が足りない。それについて理論的に詳しく説明されている書籍があればそれを読みたい。
投稿元:
レビューを見る
昨今課題となっている「「下から」の社会変革路線とその問題点の克服方法」(18頁)について,なぜ日本でうまくいかないのか,1世紀にわたる近代社会運動の歴史をサーベイした良書。右翼・左翼の概念的イメージとして,「世の中を横に切って「上」と「下」に分けて認識し,「下」に味方するのが左翼で,世の中を縦に切って「ウチ」と「ソト」に分けて認識し,「ウチ」に味方するのが右翼」(254頁)と定義したのは,実にわかりやすい。また冒頭において,日本の社会主義思想は,明治期における社会主義の誕生から日本資本主義論争に至るまで,常に2つの道(「理想や理論を抱いて,それに合わない現状を変えようとする道」と「抑圧された大衆の中に身をおいて立ち上がる道」)が相容れることなく対立し,結局は共倒れして自滅することを宿命としていた――と,筆者がフレームワークを示したのも興味深い。それだけに,第1刷では,誤字・脱字の多さ(たとえば,「すわ,天皇制の廃止問題が」(81頁),「エリートの党だってわけで」(95頁)など),あるいは主述関係の曖昧な文章が目立つのが,非常に悔やまれよう。
投稿元:
レビューを見る
まあ、なんか全体的に理論には納得できないけれど、多少の知識は付いたし、こういう考え方があるんだなあってしれたことはかなり有益になった。
投稿元:
レビューを見る
明治維新以降の左翼運動を解説した本。話し言葉で読みやすい。
前半は明治~第二次世界大戦までで、『日本近代史』(http://booklog.jp/item/1/448006642X)で描かれた時代とほぼ一致する。しかし登場する人物は全く異なり、『日本近代史』では描かれなかった面を知ることが出来る。
後半は大戦以降からソ連崩壊あたりまでについて解説されている。
この本の柱は「理論に基づいて人を動かそうとする立場」と「集団の一部として人を動かそうとする立場」との対立構造にある。
本書の終盤では、その2つの欠点を補い合う形での組織発展を提唱していて、リーダー論や組織論としても読める。
投稿元:
レビューを見る
近代日本の左翼の運動史を、簡潔に解説している本です。
著者は、NHKの大河ドラマ『獅子の時代』の主人公である苅谷嘉顕と平沼銑次について、嘉顕が理想や理念を抱いてそれに合わない現状を変えようとする道を選んだのに対し、銑次は抑圧された大衆の中に身を置いて戦う道を選んだと述べています。その上で、日本の左翼運動史を、「嘉顕の道」と「銑次の道」の相克として描き出しています。もちろん中心になるのは山川・福本論争から講座派と労農派の対立を経て、戦後の共産党と社会党の二つの流れが生まれるまでの流れで、もちろんこの一冊で左翼運動史の全貌を知ることはできませんが、大きな流れを把握できるようになっています。
「左翼」の人気が凋落して久しいのですが、ナショナリストでありながらマルクスを高く評価する佐藤優の本などを通して、改めて日本の近現代史における左翼思想に関心を抱く若い読者もいることだろうと思います。しかしそうした読者の多くが、それぞれの時代における一流の知性が結集して議論を積み重ねてきた左翼思想史を前にして、たじろいでしまうのではないでしょうか。そうした意味でも、左翼の歴史をとにもかくにも新書一冊で概観することができる本書は貴重だと思います。