投稿元:
レビューを見る
内容だけで言うなら5つ星です、何の躊躇もなく。音楽に携わる者にとって、特にここ数年、「音楽家」という定義について考えていた私にとっては、どのページにもはっとさせてくれる言葉が散りばめられていて、自分以外にも同じようなことを考えている人が日本にいるのかと目頭が熱くなることもあり。
星をひとつ下げた理由は、表紙。誰のアイデアだったのか分かりませんが、茶化す理由がないと思うのです。内容は確かに音楽の本質に触れるようなものもあるから、とっつきにくいと判断されたのかもしれない。でも、小説内で書かれているキャラクタたちは一様に魅力的で、決してデフォルメされたイラストが必要な弱い存在感ではないし、大事なところというのはそれぞれが感じるべきで、わざわざフォントを変えたりサイズを変えたり、二色刷りにする必要はないと思います。春畑さんの書かれた内容だけで、充分に読者を惹きつけられるだろうし、この表紙のせいで、逆に読者を選り好みしてしまっているのではないのでしょうか。できることなら、イラストとフォントチェンジを全部とっぱらって、文庫版でもう一度出して欲しい。
昨今問題になっているMusic Snobbery、西洋音楽の方が優れているだとかクラシック音楽は頭の良いひとのもの、といった固定概念を優しく諭すように壊してくれます。優劣をつけるのではなく、個々の特徴を正しく理解することが、「個性を認める」ということだと思うのです。誰かよりも早く弾けるだとか、間違い無しに弾けるだとかは、音楽の本質からどんどんと離れて行ってしまう。心ありきなんだけれども、心を音に映すためにはテクニックが必要。でも、テクニックばかりに気を捉われると、またしても心が逃げてしまう。
相反する性質を常に抱えている音楽と言う魅力的な魔物に、どういった形であれ関わるということは、とても幸福でとても厄介な同居人を迎えいるというこというに似ていると思います。
音楽をされているかた、音楽が好きだとおもうかたは、ぜひ読んでいただきたい。