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小犬を連れた男 みんなのレビュー
- ジョルジュ・シムノン (著), 長島 良三 (訳)
- 税込価格:2,200円(20pt)
- 出版社:河出書房新社
- 取扱開始日:2012/08/17
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紙の本
遊び好きの小さな犬の様子を、これほど生き生きと描写した小説は珍しいでしょう。
2015/08/22 06:39
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投稿者:hacker - この投稿者のレビュー一覧を見る
私の好きなフランス人作家となると、セリーヌ、クノー、シムノンの名前が、まず思い浮かびます。 1964年に出版された、この作品は、シムノンの作品の中でも、珍しいスタイルで書かれています。
まず、小説全体が、48歳の主人公フェリックス・アラールの二冊のノートにつけられた日記、それも11月13日から25日までの間の8日間の日記という形をとっていて、それゆえ、厳密な意味では違うのでしょうが、一人称の作品になっています。シムノンの作品で、一人称で書かれているものは、私の狭い知識の範囲では、他に知りません。
次に、犬が非常に重要なキャラクターとして登場することです。この犬はプードルの雑種で、野犬収容所から、主人公の前で死んだ真似ととんぼ返りをしてみせたことがきっかけで、もらわれてきます。名前はビブ、フランス語でこの音は「聖書」「図書館」(主人公は若い頃読書家でした)「ぼく」の意味があり、ビビと言うと「坊や」の意味があります。
ビブは、基本的には、これらの意味の集合体だとは思いますが、やはり主人公の分身としての意味合いが強いのでしょう。例えば、主人公はビブのことを、次のように語ります。
「ぼくは彼を犬と呼ぶのが好きじゃない。彼と五年前から暮らしている。野良犬の収容施設から連れて来たとき、彼は三、四歳になっていた。従って、彼はいま九歳ほどになっている。ということは、プードル犬の寿命の半分を越えたことになる。
要するに、ぼくと彼とはおなじような年齢なのだ。彼の背中が硬くなり、体がずんぐりしだした。だが、それでもやはり小さなボールで遊びつづけるし、死んだふりをする。ごくまれにだが、とんぼ返りもする。」
この箇所は、犬に限らず、ペットを飼ったことのある人なら、うなずくはずです。そして、ある日突然、ペットが老いてしまったことに気付いたりするのです。
実は、主人公は殺人を犯して、5年の刑務所務めを終えた後、8年前から古本屋の店員をして生計をたてているのですが、昔日の面影がないほど太ってしまい、かつ医師からは余命2年と言われています。
本書は、そういう主人公が、死という破局を眼前にしつつ、殺人という破局に至った人生を、現在の破局と過去の破局を並行して、日記として語る構成となっているのです。
ビブは、いつも変わらぬその外観で、主人公の無垢な過去の象徴でもあり、主人公が内面はそうありたいと思っている、現在の希望でもあるのです。
そして、ビブと遊んでいる時の、主人公の楽しそうな雰囲気は、三人称で書くよりも一人称の方が、読者にははるかによく伝わるのです。
こういう風に考えてくると、本書の構成は、内容に合わせて、実によく考えられたものであることが分かります。
そして待ち受ける、何とも無常かつ非情なラストが、主人公の結果的に無為に終わったかのような人生に対する、深い感慨を残してくれます。
シムノンを読むと、いつも思うのですが、実に小説らしい小説を書いていた作家で、それがフィクション好きの私の感性によく合うのでしょう。本書も、シムノンの傑作の一つです。
なお、本書の「訳者あとがき」には、本文中では徐々に明らかになっていく、主人公の過去が全て書かれていますから、本文を終えてから読まれることをお勧めします。
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