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すごく心に残る、良い短編集だった。
ゆみに町ガイドブックと違って、ファンタジー色のない、純文的な感じがした。西崎さんのファンタジーも好きだけれど、こちらもとても良いなと思った。
東京を舞台に描かれた死と孤独と再生をめぐる短編集で、
死や孤独が描かれているせいか、全体的に悲しい雰囲気が漂っているけれど、気持ちが暗くなるわけではなく、蒸し暑い日に雨が降ったあとの涼しさのような、ひんやりとした不思議な気持ちになる。
「理想的な月の写真」を読んでいて、これはすごく好きだ、とワクワクした。「飛行士と東京の雨の森」も良かった。「紐」も心に残った。「ソフトロック熱」も好きだ。「奴隷」は少し意外な気持ちになった。
最後に結末があるわけではなく、なんとなく終わる話が多いのだけれど、その余韻が良いし、現実的な感じもして、この本を寄り身近なものに感じた。
西崎さんの次の作品を早く読みたい。
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なんと言って良いのやら、この作品の読後感は軽い衝撃だ。
西崎さんのこれまでの作品も、その独創性から気に入っていたのだが、今回の短編集はそれらを凌駕する内容。
7編の読み切り短編に描かれる世界は日常を軽く飛び越えて、違う異世界を覗かせてくれる。穏やかな筆致で淡々と描かれているのだけに、その世界観が衝撃的なのだ。
冒頭に置かれた『理想的な月の写真』では、本来ビジネスと割り切った依頼仕事に、意に反して没入して行く音楽家の不思議が描かれる。
また、タイトル作の『飛行士と東京の雨の森』は、いわば不思議譚の一種。ある古書を入手したことで、はるか遠い異国の出来事が身近に結びつく不思議を語る。
『都市と郊外』はシャープな一作。このドライな感じも捨てがたい。
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この作者の作品は初めて読んだが、はっきりとした結末のないものもあり、どの話も一種独特の佇まいのある静謐な雰囲気のものだった。
全編を通して感じたのは、やはり寂しさ、人と人との分かり合えない孤独、静けさ、音楽、などだろうか。
作者の別の作品も読んでみようかと思える読後感だった。
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しゃもじが氷水に浸けてあった。
初めて入った「やよい軒」でのことだ。セルフサービスになっているおかわり用のご飯ジャーの脇に、小さな氷水の入ったしゃもじ立てがあって、初めてそれを目にした私は、当然「おや」と思った。
次いで、ジャーの蓋をあけると、白米が輝いている。それにしても眩しい位に輝いている。よくよくみると、ご飯に煌々と真上から照明があったっている。こいつはトップライトといって、展示台の上の宝石やステージの上のスターとかを煌びやかに浮き上がらせるための照明の当て方だ。
東京中に幾つも店舗のあるこの定食屋チェーンの飯を初めて食った印象は、「旨い」、とくにご飯がおいしい、であった。だがよくよく考えてみると、目で見たあの輝く白いご飯のシーンが、その第一印象を実際よりも何段階もよいものにする効果を発揮している気がする。もうひとつ深く考察すると、蓋をあけた瞬間に、トップライトに照らしだされた輝くご飯に大きく驚く前の瞬間に、何のためなのか、たぶんお米がしゃもじにくっつくのを防止するためなのか目的は解らないが、しゃもじを浸けた氷水を見た時の、「おや」という小さな驚きがあった。氷水の実用上の効果のほどは解らないが、通常ならぼんやり何も考えず何も記憶には残らないはずの、定食屋のセルサービスコーナーでのご飯のおかわりとういうシーンが、ショーのメインイベントのように生々しく記憶に焼きつけられたのには巧みな幾つもの演出が仕組まれている気がする。トップライトによる演出のみならず、氷水が「前座」による「掴み」の役割をはたして、はじめてそれを見た者を、ぼんやり無意識の状態からかっちり覚醒した意識の働いた状態へと引き上げてくれたからだと思う。
定食屋のおしゃもじごときをきっかけに、こんな小理屈を思いついてしまったのには訳がある。今読んでいる『飛行士と東京の雨の森』が、「巧い」と感じさせる書き方で、とくに最初の一遍の書き出しの1ページの一文が、あまりに見事だったからだ。その「巧い」と感じさせる1ページの意味というか、作品全体の中での効果を「なぜなんだろう」と考えながらすき焼鍋定食を食べ、ご飯を一杯おかわりした。このおかわりがなかったら、この思いつきもなかったかもじれない。
ネタバレになってしまうので、詳しくは書けませんが、書き出しが巧いなあと感じさせる作品の多くは、何気ない描写の書き出しのようでいて、「おや」と小さな驚きを与えて読者をいち早く物語の世界に引き込む「掴み」の効果を密かに忍ばせているものだ。
この短編集の最初の一遍、『理想的な月の写真』の本来のモチーフは、簡単には説明できない人間存在を問う哲学のようだし、美術や音楽の最低限の素養がないと読み続けられないような部分もある。だが、いってしまえば「とっつき難そうな」物語世界に、どうやったら読む者を引き込むことができるだろうか、と書き手が考えに考え抜いた書き出しが、あれ(すいません、ネタバレ防止のため具体的には書けません)なのではないだろうか。それは、僅かに他店より上等なご飯を、格段に旨いと印象付けるために、定食屋チェーンが考えに考え抜いた工夫と一脈通じるものに思える。
そもそもこの一冊、丸善の本店で他の本を買うついでに、目について買った。申し訳ないが全く知らない書き手だった。略歴を拝見すると60歳で翻訳家、音楽レーベル主催とある。
巻末に見開きで『筑摩書房の本』という既刊本の広告コーナーがあった。左側ページに和書が五冊。右側ページに翻訳本が五冊紹介されている。和書の5冊のうち4冊は知っている書き手の本で、正岡子規、茨木のり子、岸本佐和子、種村弘というそれぞれ「へえ」か「なるほど」の書き手であり、出版社としてはこの人たちと肩を並べる作家なんですよとこの本の書き手を推しているのだろう。右側のページを見ると、これまた5冊中4冊までが私も知っている著名すぎる翻訳本で、ヴァージニア・ウルフ、エドガー・アラン・ポー、ヘミングウェイ、フォースターと並んでいる。そしてその全ての訳者が「西崎憲」となっている。
知らなかった、読んだことなかったというお前は馬鹿だ、と言わんばかりのこのラインナップをみて思わず買い、読み始めた。
まだ、最初の一遍しか読んでいないのにもうレビューを書いてしまっている。あとはゆっくり噛みしめるように読み進みたい。
これはいつもの、名作に出会ったときの私の読み方である。
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「理想的な月の写真」は、よかった
自殺した娘の思い出の品などを曲にするという作業を
主人公が悩み苦しんでやっていくところがなかなか
でも、ラストが・・・
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感情移入がしづらい淡々とした文章がいい。たまにイメージ出来ない表現があった。アルバムを作る話、曲を聞きたい。
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西崎憲氏の短編が収録された作品集。氏の音楽への造詣の深さを感じる作品が2作掲載されている。
2,000万円で亡くなった娘を偲ぶCDを制作する話『理想的な月の写真』という作品を、ぼくは一番気に入った。どの作品の底流にも、淡々とした語りのなかに『いいようのない淋しさ』のようなものが流れているような気がする。
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東京の雑踏に迷い込んだ時に感じる、あの言いようのない淋しさのような感覚が随所に漂う短編集。不思議な世界観と語られる哲学…読んだ後にいろいろと考えてしまう。
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今まで読んだことがないような不思議な感覚の本でした。東京が舞台の筈なんだけど、どこか異国情緒が漂っているようなきがしました。別次元の世界というか。
淡々とした物語が多くて謎は謎のまま終わる感じなので、はっきりした結末を望む人には向かないと思う。
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最後の「奴隷」は衝撃的!!
奴隷制が何故か”当たり前”の日本でちょっと裕福な主婦が若い男の奴隷を買う話。この当たり前の感覚が何ともアレであり、奴隷が当たり前のように奴隷として扱われる状態がまたアレである。恐怖と悲しさで何とも堪らん。
最初の「理想的な月の写真」も独創的でなんとも印象深い!
その他作品も含め好きな作品ばかりだった。
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Twitterでちょくちょく話題になっていて気になっていた1冊。
『理想的な月の写真』と『奴隷』が良かった。特に『奴隷』はありがちな内容ながら、淡々と話が進むところがゾクゾクする。
その他、『都市と郊外』『紐』が印象に残っている。文体としてはやや渇いた感がある『都市と郊外』が一番好きかな。
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雨の日のような静かな本。
雨の匂いが、若い娘の遺品から、初めて来た東京で迷い込んだ森から、居なくなった奴隷の肌から、暗くしっとりと立ち上る。
それがとても心地良いのだった。
「淋しい場所」は、初めて乗ったモノレールから観た風景を思い出させて、文字通り寂しいけれど響く物語。
他の話の中で「ソフトロック熱」の前向きな感じが際立っていて、これもとても好きだった。
金原瑞人の書評で知った本。
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ごくありふれた人々も、日々のなかで見えない光を放ちつづけるひそやかな謎を、心の奥底に秘めている。東京を舞台に描かれた死と孤独と再生をめぐる七つの短篇小説
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こうなんとも面白く無い文章に久しぶりに遭遇してしまった。
この作品がどうか、という以前に私と合わなかった。
短く、この中ではストーリーの波がある『都市と郊外』と『奴隷』はまだ読めた。
他はなんかだらだら読んでいるうちに終わってしまった感。
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淡々とした、静かな中短編集。東京堂書店の佐々木敦さんフェアにて並んでいたのをなんとなく手に取って知る。
タイトル作も含め、すっと話の中に入っていける、景色が見えてくる話が多い。
読者は自分を読んでいる、という感覚がなんとなく体感させられる、意識させられる本だった。