紙の本
文学の存在意義
2017/03/08 09:11
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:まもり - この投稿者のレビュー一覧を見る
圧倒された。安吾の言葉を補わない凄まじさについては前作の「夜長姫~」や「桜の森~」で近藤さんに教えてもらった気がするが、これを描きたいがために前作もあったのかと唸った。
人間の不可解さと複雑さと孤独-情緒溢れる構成と肉を感じさせる描写がずんずん脳内に迫ってくる。戦争という異常事態に対するとある男女の受け入れ方、ある種の共鳴…文学という存在の奥深さ、怖さを改めて感じた作品。近藤さんの絵師としての力にグッときました。何度も読み返し、その度に「戦争とは人間とは」と考えたくなる一冊。
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これはまたすごいものを描き上げたなあ。『夜長姫と耳男』『桜の森の満開の下』に続く近藤ようこによる坂口安吾の漫画化だけど、これこそ本命。前の2作はこのための習作みたいなものかもしれない。近藤ようこが得意とする女性の情念の描写が坂口安吾の世界観とこれほどぴったりくるとは。坂口安吾がどちらかといえばドライに女の有様を描くのに対して、近藤ようこはより情感を加えて女を描き出す。それにより女がより能動的に戦争を欲っし、戦争がより前景化される。女にとって戦争とは糧であり希望であり縁であり生きるために不可欠な存在であった。戦争に生きるのではない、戦争だから生きる、戦争に生かされる。坂口安吾の原典を継承しつつさらに一歩進めた傑作と言っていいのじゃないでしょうか
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二次大戦末期に同棲を始める男女のお話。当時において戦争に不埒な姿勢思考だった2人、その戦争によって生かされる皮肉。女の破滅思考と身勝手な男の関係はいつの時代もあるかと思ったり。今も形を変えて戦争が続く中で生きなきゃならない現実。
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原作と合わせて読む。
坂口安吾は、男なのにこんなに女のことを分かっていてすごいと思う。
でもこんなに分かっているのに、実際に体感できないというのは、どんななのだろう。
確信がもてないことは、面白い。
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近藤ようこさんと坂口安吾のコラボ。戦争にとりつかれた女。恥ずかしながら坂口安吾のこの作品を全く知らなかった。近藤ようこさんも坂口安吾にとりつかれてしまったんだろう思いが画からビシビシ伝わってくる。
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近藤ようこの本作、すばらしい。坂口安吾の原作は未読。この作品の良さを説明するには「戦争という状況下での恋愛」という表現ではずれてしまうと思う。戦争によって生かされる男女、と近藤本人は書いているが、それ以上の作品でもあるような。無頼派はかなり論理的でないと成立しない例のよう。女の生き方について男が以下のようにひとりごちるところ、絵の独特さもあって特に私は感動しました。「高められた何か」ってなんだろう。
遊びがすべて
それがこの人の全身的な思想なのだ
この思想にはついていけない
高められた何かが欲しい
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からだは正直なんだろうか?
女と男、おかれている状況は同じでも、その内側は違うのだろう。
男はついつい確認してしまう。女は違うのだろうか?なにを見て愛を確認するのだろう。
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もちん安吾の原作は素晴らしいが、同様、この本が示してくれる世界のなんと素晴らしいことか。私たちは、善でもなく、悪でもない、堕ちていく人間の姿をそこに見る。
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3月に、久しぶりに近藤ようこの『見晴らしガ丘にて』を読んだりしたからか、なんだったか忘れてしまったが、このマンガを手に入れて読む。このマンガを読むまえに、たまたま立ち寄った本屋で半藤一利の『安吾さんの太平洋戦争』という文庫を買って読んだりもした。
坂口安吾というと、むかしの"文学史"のベンキョウのせいか、「堕落論」くらいしか私には出てこないのだった。が、半藤一利の筆による「坂口安吾と太平洋戦争」をタンテイしたものを読んでいると、安吾は永井荷風のようでもあった(これも半藤による『荷風さんの戦後』を前に読んだことがある)。
『戦争と一人の女』は、坂口安吾の原作を、近藤ようこが漫画にしたものだという。私が買った漫画には帯がついていて、1年ほど前に映画「戦争と一人の女」(http://www.dogsugar.co.jp/sensou)がロードショーでかかるというのが載っていた。そんな映画ができていたことも知らなかった。
▼夜の空襲はすばらしい
私は夜の空襲が始まってから
戦争を憎まなくなっていた (pp.3-4)
漫画は、空襲の夜空をみあげる場面から始まる。
私は漫画をなんべんか読んだあとで、原作が入っている『坂口安吾全集4』を借りてきた。
漫画の冒頭にあたる部分は、「続 戦争と一人の女」のなかで、こう書かれている。
▼夜の空襲はすばらしい。私は戦争が私から色々の楽しいことを奪ったので戦争を憎んでいたが、夜の空襲が始まってから戦争を憎まなくなっていた。戦争の夜の暗さを憎んでいたのに、夜の空襲が始まって後は、その暗さが身にしみてなつかしく自分の身体とひとつのような深い調和を感じていた。(全集4、p.203)
漫画の「あとがき」に近藤が書いてるのによると、昭和21年に発表された「戦争と一人の女」という安吾のこの短編は、GHQの「事前検閲でずたずたにされ、そのせいもあってか安吾の作品のなかでは評価も低く、あまり知られていない」(p.142)という。「安吾といえば堕落論」の私は、もちろん知らなかった。
「あとがき」の冒頭で「「戦争」ってなんだろう」と書く近藤の漫画を読んでいて、なんとなく、こうの史代の漫画『この世界の片隅に』を思い出していた。
戦争下での暮らし、それは「モンペと防空頭巾」ばかりではないし、「集団疎開」だけでもないし、いろいろな面があるのだ。近藤は「戦争といえども人間が生活しているのだから、楽しいことも悲しいこともあるのがあたりまえなのだ」(p.142、あとがき)と書く。
そんな近藤にとって、2001年にGHQ無削除版で出た安吾の作品(『戦後短編小説再発見(2) 性の根源へ』所収)の「削除された部分」は、「戦争って何だろう」と思い、「戦争にはいろいろな面がある」と思った当時の自分の興味とぴったり重なっていたのだという。
数年後に、この安吾作品を漫画化したいと思った近藤は、知らない時代をたくさん調べ、締切のない描き下ろしで、一年ほどかかって描き終えた。
『この世界の片隅に』と同じように、この漫画もだらだらと何度も読むだろうなと思う。
(3/4了)
*漫画『戦争と一人の���』の16ページまで
戦争と一人の女|近藤ようこ|無料試し読み|
http://www.seirinkogeisha.com/book/sample_flash/sensouto/comicflash.html
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こういう視点から戦争を描く作品は日本の作品では少ないと思う。
戦争中でもその中に小さな幸せや生きがい、野望、欲望が満ちている。その方が人間らしいなと感じた。
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戦争という現実でありながら非日常な日々にいる男と女。不思議な浮遊感のある作品。人間はどんな状況でも生きていく。悲しみも苦しさも糧にして。
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近藤ようこさんの原作ありのマンガ、原作を読んでもよくわからないのがスラっとわかったりする(折口の『死者の書』とか)のだけれど、これはちょっとどうなのか。もう少し読み込んでみないとわからない。原作も読まないとダメかな?
その後、青空文庫版で原作3編を読了。なるほどそっちの方がよくわかる。この作については3作をまとめたこのマンガより安吾の文章のほうがわかりやすい。というか小説とマンガの両方を読むことによってより理解が深まるのかも。
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戦争が生きる実感をもたらす女。
毎日空襲があればいいと願う女。
不謹慎だとかいう問題ではないのだ。リストカットと同じ。破綻した世界があるから、この現実がくっきり見える。そうでないと輪郭が曖昧でここにいられないのだ。
坂口安吾の見つけた世界を近藤ようこが描く。
なんてすごい組み合わせだろう。