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紙の本
対決 チェスVS囲碁
2019/08/16 22:01
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投稿者:SlowBird - この投稿者のレビュー一覧を見る
ドイツとロシアのハーフで上海生まれ、日本で囲碁の修行により「シブミ」を身につけた暗殺者、トレヴェニアンの名作の枝編がドン・ウィンズロウによって書かれた。第二次大戦後に進駐軍に拘束され拷問により廃人寸前までにされたのちに、CIAの工作員として中国に派遣される。舞台は日本から中国、そしてベトナムへと飛び、新中国をめぐるアメリカ、ロシア、フランスの謀略戦の駒として、暗殺者デビューすることになる。
暗殺術は日本において習熟しており、局面を読む能力は囲碁の思考法により通常人を凌駕しているが、まだデビューしたてのアマチュアであり、時に自分の思いが走り過ぎて無用の危機に陥る。ことに特徴的なのは、任務に挑む時の不安感、恐怖の心理で、これはウィンズロウの持ち味だろう。はじめは客観的な判断に自信を持って行動するのだが、徐々に経験を積んでいくにつれて、恐怖心、猜疑心、結果に対する疑問が生まれてくる。自己保身への不安に加えて、自分の行為の影響への畏れも生じる。
そもそも彼が工作員として任務に就く理由は、西側の政治的事情に個人的復讐心が加わっているのだが、そもそもはそうしなければ彼が生きていけなかったからだ。その組織を裏切って自由を手に入れるのに、ためらう理由もなく、作戦は完璧に見えても、それが成功するのはやはり奇跡であり、賭けなのだ。その成功と失敗、勝利と敗北の両方を経験して、彼という人間が変わっていくのが、この物語だ。それは成長というべきだろうか。未来ある青年として、夢を見ること、人を信じることに疑いを持つようになることは、成長ではなく変貌というべきだろう。
知的興味をそそるのは、敵役の男がチェスの名手でもあるというところだ。直線的な読みが勝負のチェスと、婉曲な回り道が要求される囲碁で、どちらが勝つのかだ。確かに彼らはそれぞれの方法論を意識して計画を立てるのだが、どんな時でも予想外の要因は生じるし、勝った負けたも読みの正しさによるのかも判然とせず、うーん、この勝敗は今後に持ち越し。
しかし、自然も社会も含めた世界に一体化することで、道か切り拓けるという東洋的思考は、ここでは際立っている。中露関係が混迷化し、インドシナ紛争は泥沼化していくという、愚かしい歴史の流れを超然として見極めるには、その「サトリ」「シブミ」が強力なツールということなのかもしれない。だが当の日本人の僕らにそれができているかと問われると、顔色を失うほかはない。
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