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シェールガスとは地下の割合と深い場所にある岩盤層に含まれる天然ガスのことだ。ガス田で採取できる天然ガスと基本的に同じものなのであるが、掘削し取り出す技術が難しい、あるいは、コストがかかるということでこれまで手つかずのままだったもの。
採掘技術の進歩により、また、石油や天然ガスの価格が高止まりしている現状でかかるコストがペイするようになり、最近ではアメリカを中心に採取・活用が本格的に進み始めている。
埋蔵量は正確に分かっていないようであるが、現在の年間の世界の天然ガス使用量の数十年から百年分くらいはあると言われている。
簡単な話のようであるが、けっこうインパクトは大きい。
これだけの量の天然ガスが新たに市場に出てくると、需給バランスを大きく崩す。現在、石油やガスは比較的偏った場所、例えば中東やロシア等に偏在しているが、シェールガスの分布はかなり広い。現在、産油国や産ガス国に価格主導権を握られているものが、市場の原理に従い価格が相当に低下する可能性がある。
天然ガスは発電用に多く使用されているようであるが、発電コストも相当に下がるかもしれない。石炭や重油に比べると二酸化炭素排出量が少ないという利点もあり、ガス方式の発電が更に進むことになるかもしれない。そうなると、原子力発電等はますます敬遠されるようになるのではないか。
僕は現在、石油化学業界で働いている。
石油化学業界への影響も相当に大きい。石油化学製品の原料は主としてナフサと呼ばれる石油由来の原料を分解・精製したオレフィン(エチレンやプロピレン)を使うものが多い。このオレフィン類は石油からばかりではなく、ガスからも抽出することが可能であり、また、分離・精製したガス(エタンとかプロパンとか)をそのまま反応させて製造できる石油化学製品もある。
日本国内で石油化学製品を製造しようとした場合、ナフサを輸入してオレフィンを得て製造することになるが(あるいはオレフィンをそのまま輸入することももちろん可能)、輸入価格は高く、また、日本は各種コスト(電力コストが代表的なものだけれども)が高く、産油国の製造コストには全くかなわず、日本の石油化学製品は国際市場での競争力を失っているばかりではなく、国内市場でも輸入品に押されている。
シェールガスが利用可能になったことの影響は色々と考えられるのだけれども、最も単純なものは、シェールガス産出国の石油化学産業が大きく競争力をつけるということだろう。現にアメリカではそういう動きが起きている。
日本の石油化学企業は、最近では安いコスト(原料コストや電力コスト)を求めて、海外に製造拠点をつくる動きが多い(それで僕もタイにいる)が、原料コストが安い国は偏っている。中東・ロシア・東南アジアの一部(ブルネイとかインドネシアとかタイとか)・中米・アフリカといったところ。住友化学がサウジアラビアでサウジ企業と合弁で超大規模な石油化学コンプレックスを築いた動きが典型である。現在の産油国・産ガス国は政治的にリスクを抱えた国が多く、それはそのままビジネス上のリスクともなり得る。また、僕も経験があるけれども、例えば中東で���造拠点をつくろうとすると色んな意味で大変である(明文化された規則や法律の整備が遅れていたり)。シェールガス産出国は広がりがもう少し広い。というか、アメリカやカナダ等の先進国を含む。これは、日本の石油化学企業にとって、選択肢が広がることを意味する。ただし、汎用的な製品ではあまり意味がないように思う。誰でも製造できる製品をつくっていたのでは、競争上の優位性は少ないから。石油化学業界の個々の企業が、それぞれに独自の得意な技術・製品をもって、安いシェールガスを求めて海外に進出する、という動きが今後本格的になるのではないか、と思う。それも先の話ではなく、数年でそういうことになると思う。現実問題として、各石油化学企業はその調査を確実に始めているはずである。
こういう話はビジネスマンによっては、ある意味でわくわくする話だ。自分のビジネスを広げられる可能性のあるストーリーが見えてきて、それに関われる可能性もあるという意味で。
さて、この本は、シェールガスの影響を広く薄く解説した本だ。
シェールガスとは何か、ということを知らない人が初めて読む本としては良いかもしれない。
僕としては、もう少し、分析的・定量的に分析したような本を読みたい。
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シェールガスが世の中をどう変えるか。意外な点でのつながりがとても面白く、如何にシェールガスが大きな変化をもたらしうるかが理解できる。シェールガスが単なるエネルギーのひとつであるとの認識が変わった。ひとつの出来事から周辺への影響を読み先駆けて行動することの重要性を学べた書でもあった。
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2013/04/03:読了
「石油→シェールガス」というエネルギー革命起こるという本。
非常に興味深い内容だった。
「石炭→石油」と同じことが、「石油→シェールガス」で起こる。
原子力・再生エネルギーは、化学産業に寄与せず、エネルギー革命になり得ないが、シェールガスは新しい化学産業も呼び起こす。あと数十年もすれば、石油は、今の石炭のようなものになる。
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シェール層に高圧水を当ててガスを取り出す。
価格は石油より安く、CO2排出量は40%ダウン。
アメリカの埋蔵量だけでも160年分。
2010年においてアメリカ天然ガス使用量の23%。
10年以内にエネルギー需要の30%を超える。
中国の埋蔵量は世界一だが、内陸にあり、水の供給が困難。
日本にとってシェール革命は追い風。
高圧水やパイプラインのパイプは住友金属製。発電所のタービンはIHI製。コマツ製の大型ダンプとブリジストン製の巨大なタイヤ。
再生可能エネルギーの効率は低い。
日本のメガソーラー計画を最大に実現しても電力需要の1%しかまかなえない。
化石燃料によるビジネスは延命される。
自動車、航空機、ガスタービン火力発電・・・
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長谷川氏の書かれている章は判りやすく、今後の展望に関する記述も歯切れが良い。
どうにも良くないのが泉谷氏の担当する章で、どうにも文章に品が無い。また、「しかして」の多様や「とても有利であるとは言えないだろう(←とてもの修飾対象が曖昧)」など、ジャーナリストの文章とは思えない。
長谷川氏の章だけ読むのが良いかと思う。
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シェールガスのもたらす恩恵から衰退まで、過去に石炭から石油へのエネルギー転換で起こったことが今回は石油からガスで再び起こると論じている。
内容は、シェールガス革命の背景から紹介されており、将来の事業拡大を見据えた米国メジャーが早い段階から技術投資してようやく実を結んだのがシェールガスである。シェールガスが石油と異なる点は世界中のいたる所に存在していることであり、それ故に資源輸入国であるアメリカが一転して資源大国へ転身できたのである。これは資源輸入国である中国や南米でも輸出国になれること、そして、エネルギー価格の下落に繋がる。
世界中にシェールガス開発が進むとその技術に関わる企業が儲かるという流れで日本の高い技術力が必要となり日本の機械産業(コマツ、重電系)が重宝される。日本にもシェールガス革命は追い風であることは間違いない。ただ、同時に日本の得意とする電池産業や化学産業は逆風となる部分もある。理由は燃料電池車シフトと石油化学製品需要鈍化である。
今後日本が目指すべきは次なるエネルギー資源メタンハイドレードの回収技術確立であろう。イノベーションは起こした国が利益を上げる可能性が高い(必要だから開発するのだが)。アメリカのように長期スパンで次なるエネルギーイノベーションを日本から起こせるよう資源開発に注力していき、資源と技術を兼ねそろえた経済大国へ向かっていかなければならない。