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投稿者:TM - この投稿者のレビュー一覧を見る
日本のデフレを理解するには最適。日本がデフレに陥った状況の記録とともに、デフレの原因を考察している。
紙の本
日本のデフレ理解に最適
2016/10/21 13:47
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投稿者:くまごろう - この投稿者のレビュー一覧を見る
「なぜ日本だけがデフレなのか」という問題をあらゆる角度から検証し、その答えも示している。今起きている日本のデフレは貨幣的現象ではないこと等をデータで反証し、19世紀後半のイギリスのデフレ等、歴史的な事柄や、「国際標準」の経済学の歴史、現況にも言及している。精緻でありながら分かり易く、非常にコンパクトにまとまっている。経済学の予備知識がなくても、十分に内容は理解できると思う。(最低限の経済学用語は調べる必要があるが。)
深い知識もなく(ないからこそ?)未だにリフレを信奉している人にこそ読んでほしい一冊。
紙の本
デフレの原因を経済学から徹底追及
2017/08/09 21:48
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投稿者:セーヌ右岸 - この投稿者のレビュー一覧を見る
(1)「デフレは長期停滞の原因ではなく結果だ」、(2)低成長はマネーサプライ不足や技術進歩の低下とか一つの原因で説明するのは誤り、ましてや人口減少は論外。(3)先進国の経済成長は働き手の頭数で決まるのではなく、「一人当たりの所得」の上昇を通じて成長してきた、(4)日本の雇用と賃金決定に大きな変化が生じ、「雇用か、賃金か」という選択に直面した労働者が名目賃金の低下を受け入れたことがデフレを定着させたなどなど、筆者の主張には大いに納得。以前からデフレの原因を(生産年齢)人口の減少に求める主張には大いに疑問を持っていた。
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優れてオーソドックスなマクロ経済学からの分析
2015/09/16 09:06
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投稿者:タヌ様 - この投稿者のレビュー一覧を見る
著者はアベノミクスの異次元禁輸緩和が採用される以前では政府の審議会でも要職を務められ、経済政策をリードされていた方であり、デフレについてきっちりとした説明をされている。
立場はいわゆるニューケインジアンであり、本書を読めばわかるように、分析の確実さ、政策の有効性についてセオリー通りというスタンスで、標準中級マクロ経済学を学ぶには誠に勉強になる一冊となっている。
著者は十分に意識して異次元金融緩和に疑問をにじませておられるが、既に採用され従来の広く受け入れられている学説から離れてしまった現状は「デフレ脱却期」と認識されているだろうか。莫大なマネーは金融市場だけうるおし、円安は輸出産業を活性化しているが、成長軌道にはほどとおいのが実情であり、著者は経済学が言えるのはここまでを貫いておられるのだろうか。
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ものすごく勉強になりました。内閣官房参与の浜田宏一氏とかをバッサリ。貨幣数量説、はじめてちゃんと理解しました。デフレの原因は名目賃金が下がっているからだって。120年前のイギリスの紹介は面白かった。
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デフレにまつわる現況の整理と著者の提言が明確に記されています。
1章から3章でデフレについての経済史と経済学史を俯瞰し、4,5章でマネタリストの論を批判し、6章で持論を提示しています。
4,5章で述べられている2つのことを簡潔に言うと、「流動性のわな」に陥っているので金融緩和は無効、IS曲線の弾力性が充分に大きくないので利子率の低下がyieldの増加をもたらさない、ということ。6章では日本固有のデフレ構造は日本固有の雇用形態が関係しているとしています(これについてはネタバレになるのでこれ以上は書きません)。
総じて質が高く、3章まではレファレンスとしても便利だし、6章の提言は避けては通れないこれからの大事な課題であることは間違いないので、是非読むことをお勧めします。
以下は不満点を書きます。
この手の「論争本」で気になるのは、「論叢」でもなく単著ならその本の中では「ずっと俺のターン」なわけで、どこかで相手陣営が最後に投げたボールに投げ返しておかないと相手のターンにならないということです。
今回の場合はマネタリスト(ひいては現在の政府)の「これまでの金融緩和は規模も手法も中途半端だった」という指摘がそれに当たり、ここにもう少し紙面を割いてほしかったというのが不満です。加えて、あくまでケインジアンの枠組み内で批判しているので、これでマネタリストがマネタリストの枠組み内で反論すると、テニスでお互いが稲妻サーブを打って永遠にデュースしている状態になってしまいます(これは他の学問分野にも言えること)。
それと、5章までの話と6章に繋がりが無く、ぶっちゃけいきなり6章だけ読んでも(立ち読み出来る分量です)成立します。この本の中で一番価値がありそうなトピックなのに、4,5章に比べて明らかに論の展開に深みがありません。特に、雇用問題がデフレに付いて無視出来ない因子であることは分かったのですが、実際に政策的にでもアクションしたとして、それがどこまでデフレに対してインパクトを与えられるのか、他のデフレ政策に比して有効なのかが知りたかったです。恐らくまだ充分に研究がされていない話で、これから追求されていくのでしょう。
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5/16読了。久々の経済学の本。デフレに関する経済学的な知識を整理しようと思い読み始めました。本書ではいわゆるリフレ派の唱える貨幣数量説やインフレ期待に対しては否定的でゼロ金利下では効果がない。為替レートの影響ある一次産品はともかく、最終製品の価格は製造原価(生産費用)のマークアップで決まる。よって、日本でだけデフレが続いたのは、賃金の伸縮性にともなう実質賃金の低下だというのが大筋の説明です。個人的な感想としては理論として説得力あるように思えますが、その当否についてはアベノミクスでの金融政策の効果が一時的か持続的かによって評価が決せられることでしょう。ただ、プロセス・イノベーションに腐心して、プロセス・イノベーションによる価値創出が疎かになったのも物価低迷の一因というくだりがありますが、デフレの日本が他国より顕著かはちょっと疑問ですが。モデルで使用される厄介な数式の説明も最小限にとどめられており、私のようなズブの素人が読むには最適の一冊かと思います。
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いわゆる「どマクロ」で過去20年の日本経済を分析。
今までリフレ派の本ばかり読んできたが、吉川さんの論のほうがすんなり頭に入る。
貨幣数量式は成立しないというのは今までいろいろ目にする機会があったが、ヘリコプターマネーは貨幣数量式が前提だといわれると目から鱗。
DFCGやニューケインジアンが実際の政策分析に役立たないといわれて久しいけれど、その実例を目にすることができた。
でも、、、ブランシャールのマクロ経済学を絶賛していたドラえもんが、ニューケインジアン的な考えでリフレに賛成していたのだろうかという疑問がわいてきた。
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20年前に遡っての日本のデフレ史の振り返りから大不況(1873年~1896年)の検証を通してデフレとは何かをおさらいし、日本の特殊性を名目賃金の低下と説く。注目はグルーグマン批判、数式などは良く分からないながらも、とてもロジカルな説明だ。
とても冷静に日本のデフレについて解説しているものの、評論家に終始している印象、もろん各企業はシューペンターを持ち出すまでも無くイノベーションが重要であるのは言うまでもない。また、本書で検証しているグルーグマンの「流動性の罠」は98年の発表で、その後グルーグマンがその主張を変化させているところには言及が無いのも惜しまれます。
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リフレ派批判の急先鋒として話題の本。全うな議論が多くて、参考になる部分多数。特に、実質的なワークシェアリングによる「名目賃金の低下」がデフレーションの主因であるとの指摘には、目から鱗。記述が荒かったり、引用が多すぎたりするのには、ちょっと納得感が少ないけど、良書です。
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デフレ論争。
デフレ20年の記録。
リカードの貨幣数量説。
マーシャルはマネーサプライより、実物的な要因によって生み出される、とした。
M=kPy kはマーシャルのk。yが増大すれば、Mが変わらなければ、物価Pは減少する。しかし、yの増大にともなってMが増えれば、Pは減少しないはず。しかし、yが増大してMが変わらなければ、金利は上昇するはず。しかし実態はかわらなかった。これをギブソン・パラドックスという。
ケインズの時代は、Mが増大したが、Pは減少した。
ブラウン=オズガによると、交易条件によって物価水準がきまる。
貨幣数量説は正しいか。ミルトン・フリードマンなど。絶対価格の変化か相対価格の変化か。
テーラールール=金利水準を決定するルール。カーター大統領とボルガー議長の時代
マネーサプライだけでは、インフレデフレは制御できない。
ポール・クルーグマンモデル=金利がゼロ水準で流動性のわなに陥っている状態でも、現在のマネーサプライを増やせば、将来の物価上昇の期待を通じて、デフレを解消できる。
しかし、個人の集合を代表的な個人で代表することはできず、実社会では、異時点間の消費の代替の弾力性はないに等しい。
価格の決定の論理=社会的に正義にかなうか否か。フェアなことは通用する(仕方ないと社会が思う)が、アンフェアな価格付けは社会が拒否するので通用しない。
2部門アプローチ=一次産品は需要によって価格がきまるが、二次産品はコストによって価格が決まる。一次産品は、需要と供給によって価格が決定するが、二次産品は、価格は一定で、需要がない場合は供給が減ることで調整が完了する。
日本だけがデフレだったのは、賃金の下落があったから。雇用が賃金か、と選択を迫られたときに雇用をとった。
賃金は非伸縮性が高いが、非正規雇用の増加によって、全体として伸縮性が実現した。
貨幣数量説の弱点は、均衡点と均衡点を比較すれば成立するが
その過程を説明できないこと
目の前でデフレが進行している時、インフレ期待は生じないだろう。しかし、合理的個人、で代表させて説明しようとする合理的期待モデルでは、経済主体が合理的であれば、変数をいじることで、インフレ期待が生じることになる。
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デフレの原因とその脱却方法の提案については、これまでもいろいろな本を読んできましたが、結局、今のところコンセンサスはない、というのが結論のようです。この本では、世界史的に見た過去の大きなデフレの実例と、現在の日本のデフレの原因についての様々な学説を紹介し、これについて批判を載せてくれており、頭の整理には非常に役立ちました。
特に、CPIの決まる要因が、貨幣数量というよりやはり有効需要でしょ、というのは、現実に照らしてみてとても説得力があるように思います。でも「だから期待を政策で変えることは所詮不可能」というのもどうかな、と思います。群集心理というのは、なにか きっかけがあれば雪崩を打って変わることがあるというのは事実ですし、その「きっかけ」としての「理論」は、必ずしも「論理的に必然」である必要はなく、単に「たしかにそれはありそうだ」と世の中の大勢の人に「信じられ」ばいいだけだから、と思うからです。で、その「ありそう」というのは、その理論そのものが正しいからというよりも、「あの人がそういうならそうなんだろう」という「人」の面の方が実際のところ大きいわけで、それが今の「黒田総裁効果」なのではないかと思います。
ともあれ、少なくとも理論では世の中が動かないことが、この本を読んで改めてよくわかったように思います。
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「デフレ」という経済用語がこれだけ一般社会で語られていることは過去に無かったのでないだろうか。
「アベノミクス」と「黒田日銀の異次元の金融緩和」がマスコミを賑わす中、20年来の「デフレ脱却」ができるのかどうかが、飲み屋や茶の間でも語られている現在、本書は実にわかりやすく「デフレーション」を考察している。
「ゼロ金利の下でもマネーサプライを増やせばデフレは止まるのか」が本書のテーマであるが、現在の「黒田日銀」とは違い、本書は「できない」とはっきり断言している。
しかも、その内容は「デフレ20年の記録」「大不況1873~96」「貨幣数量説は正しいか」とわかりやすい。
数式の部分は難解だが、この理論と考察、データをみれば、「マネーサプライ」を増やしても「マネーは効かない」という本書の立場は説得力がある。
また、本書では繰り返し「デフレに陥ったのは日本だけ」と問い返している。
本書の「結論」では、デフレの原因として「名目賃金の低下」を指摘している。
もし、そうだとすると「デフレ克服」には「名目賃金の上昇」が必要なのだろうか。
しかし、「年功賃金の崩壊」や「非正規雇用の増大」などの現状を見ると、それを変えることは極めて困難だろうと、いろいろ考えさせられてしまった。
本書は、日本経済の現状を一段深く考察できる良書であると高く評価したい。
一気に読み終わり、その後また読み返してしまった。
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日本を代表するケインジアンの対マネタリスト/リフレ/量的緩和派への反論。彼らの理論はあくまで将来のインフレ期待がおこるときに成り立つものであり、必ずしもマネーサプライが期待を動かすという経路が理論的に確立されている訳でもなく、実証的証拠が確定している訳でもない。マネーサプライが価格にインパクトを当てるのは、主に子もディティであり、賃金は長期的な特性から、価格決定時に公正が求められ瞬時に最適化されるものでは全くない。特に日本においては、雇用数が守られる分賃金の下方硬直性が顕著であり、マネーサプライが賃金にインパクトを与える経路は、賃金決定の理論的側面から言っても細いとする。
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「マネーサプライ(M)の増加が実体経済に影響を与えたことはこれまでなく、これからもない」…典型的な反リフレ本かと思いきや、合理的なミクロ経済主体を単純に積算することによりマクロを考えようとすることの「合成の誤謬」を指摘しているところが目新しい。従って本書によれば、人々の間に合理的期待を形成させてデフレを脱するのは不可能である、ということになる(そもそも目下のデフレすら将来のインフレ期待を醸成する、とするクルーグマン・モデルの存立根拠を疑う)。確かに日銀がB/Sを膨らませたくらいで日本人の心理的ベクトルがインフレ方向にビシッと揃う、というのはなさそうな気がする。
日本にデフレが定着した理由として本書が挙げているのが、90年代後半~00年代初頭の金融危機によるデットデフレーションが企業をイノベーションではなくコストカットに走らせ、さらに大企業における労使が「昇給より雇用」を選択したため、財の価格に大きな影響を与える名目賃金が低下したというもの。労働生産性が高まらず賃金が上昇していない業界は多々あるわけでうなずける部分が多い。00年代半ば以降の円安局面で、日本の製造業の競争力が高まった時にできたはずのことが沢山あったはずなのに、と残念に思う。
Mが日本では財の価格に影響を与えないとすることの理論的根拠としてカレツキーの「二部門間アプローチ」に触れているが、納得できる部分が多くて面白いと思った。