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田中浩編『リベラル・デモクラシーとソーシャル・デモクラシー』未來社、読了。シリーズ「現代世界 その思想と歴史」の完結巻。21世紀の政治思想を先導する概念はリベラルからソーシャルへ。継承・相関関係を問う本論集は今後の自由・平等・平和を内包するデモクラシーを考える視座を提供する。
従来リベラル・デモクラシーとソーシャル・デモクラシーは敵対・対立概念として強調され、正しく認識することができなかった。両者は全人類の幸福達成の「手段」であり、全人類に普遍的なデモクラシーと結びつくことで真の目的が達成される--。
リベラルの源流としての「イギリス自由主義の変容」、そしてその展開(T・H・グリーン)。系譜としての新自由主義と社会連帯主義の対比や国際連帯、そして井上いさしの「東京裁判三部作」の検討まで、本書の射程は幅広い。
中でも、島崎茂樹を扱う加藤哲郎「社会民主主義の国際連帯 一九四四年ストックホルムの記録」が興味深い。戦時下、在独日本大使館から島崎はスウェーデンに亡命。著者は「受け入れ」に注目、亡命はユダヤ人や主義者ばかりではない。
ストックホルムの「小インターナショナル」は島崎の如き無名の日本人をスパイと疑うことなく受け入れた(※しかも窓口が第二インター系であったため、後に島崎は大逆罪の適用を免れた)。地球規模のソーシャル・デモクラシーの生命力とは制度設計だけでなく、「人間へのまなざしとネットワークの開放性」、「差異のデモクラシー」にあるのかも知れない。