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安部公房や倉橋由美子のような感じがするのは、登場してくる名前が”D”や”R”だからだろうか? 一番気に入ったのは「召喚」。
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『氷』の著者として知られるアンナ・カヴァンの短編集。
収録されている短編はどれも素晴らしいが、どれか1作を選ぶならやっぱり『母斑』。ラスト数行から溢れる主人公の無力感はちょっと言葉にし難い印象を残す。
国書刊行会が他の作品も復刊、邦訳してくれることを切に願う。
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なんとも特異な短編群が納められた作品集。
1940年に出された本、ということが驚き。まったく古さを感じさせない。
細分化された長編のような、連作短編集のような。
すべての作品で描かれるのは「精神的破綻」の強固で鮮烈なイメージ。
特に、強迫観念に捉われる人物の内面描写は圧巻です。
それでも、その内容ほどに苦痛を感じさせないのは、誇張や過剰な演出のない客観性と、不思議な透明感を持つ文章の力。
訳者のあとがきで、ギリギリの瀬戸際に踏みとどまって書いていた作家について知り、いろいろ納得したのでありました。
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生に纏わるすべてのものに壁のごとく立ちはだかる絶望。内臓が暴れまわるような不快感さえ麻痺させる、冷たく鮮烈な幻。誰もいない、ただ圧倒的な自然が放つ光だけが交錯する静謐な世界に閉じていくことを選んだひとりの女性。アンナ・カヴァン。
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日本で出版されて未所有だったカヴァン作品を全部揃えることができたので、カヴァン名義全作品を1940年の本作から、最期の「氷」に至るまで順番に読んでやろうと壮大なプランの実行。
アサイラム・ピースはカヴァン名義としてのデビュー作で、掌編集なれど一つ読むのに精神的体力が要るので、時折り猫弁さんや石黒さんに逃れながら読み終えた次第。
当時ヘロインは合法で、医師によるコントロール処方での常用者だったカヴァンの幻想的妄想的な語り口は独特で、精神の狭間に追いやられるような閉塞感を感じる。気を衒う内容ではなく、淡々と浮遊するところもあって、読み解く必要はないとも思う。
次作品は、チェンジ・ザ・ネーム。
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ふとした拍子に頭の中に浮かんだ不安とか寂しさは、形になる前に消えていってしまうものを、その一瞬を逃さずに単語を捉え文章として目の前にさらしてくれているように思いました。だけどその気持ちにしばし浸ったものの再び端から忘れて行く私は、やっぱりかなり強い。
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「毎日新聞」(2013年3月3日付朝刊)【今週の本棚】で、
若島正先生が書評していました。
(2013年3月4日)
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あちら側の世界は、
実は 1 歩踏み出すだけでたどり着けてしまうのかもしれない。
でも、その 1 歩が大きな違いなんだろうが。
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正気と狂気の狭間で書いている様が手に取る様に感じられる。特に「敵」は被害妄想の極み。しかし各章を読んでいる内に、彼女は明らかに正気で、感じていることは全ての事実てはないかという錯覚に陥る。
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すばらしい!これは完全無欠の厨二病向け小説だ。
まず作者のプロフからしてガチメンヘラ/自殺常習者/ヘロイン依存症と期待を裏切らないし、中身もちょいと不条理系のストーリーに乗っかって登場人物の病みまくったテンパリ具合をチマチマキリキリ詳細描写、さらに微妙に方向を間違えたオサレ感満載の装幀が加わって厨二要素の数え役満ですよ。
ガラスのように繊細な感性の文学少年/少女が付箋ベタベタ貼りながら読みふけったのち10年ほど経って回想すると顔真っ赤になること請けあい。
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持ってなきゃならない。なくしてはいけない。自分自身の逃避場所。もっとも信頼している人でさえ、逃げ場所には決してなれない。心地よく安らぎを感じる場所…いや違う。狂おしいほど、乱れることが許される場所こそ、逃げ場所には相応しい。心のそこに一本の線を引いたように、静かに続く文字の連なり。この作品の中に、止まれる場所はどこにもない。
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断章。至る所にある死と強制(あるいは矯正)の影。永遠に引き延ばされたかのような一瞬。そこに巣食う苦痛。絶望することも希望を持つことも儘ならない。そこに埋め込まれたメッセージを読み解く。十字架の上で何時までも呻き続ける救世主を想像せよ、凡庸な人々よ。そして、その意味するものを考えよ、と。
たとえヨーロッパの地方の名前が書かれていても、ここに描かれる世界の周囲は白く濃い霧で囲まれ、現実の世界からは恐ろしい程の隔たりを持って隔離されている。そのイメージがどこまてもつきまとう。霧の中へ足を踏み出す勇気があったとしても、その先には底なしの淵が大きく口を開き、どこへも逃れることはできない。そのことは、何故か足を踏み出す前から自明のこと。どこまでも容赦のない仕打ち。仕打ち? 一体誰がそんな仕打ちをするというのだろう? 為政者? 独裁者? 救護者? あるいは、神?
アンナ・カヴァンの人生に対する知識を持たぬまま読み進めても、彼女の抱いていた絶望の大きさは、容易に伝わってくる。だからといって、この断章群が自伝的だと言うのではもちろんない。逆に、これらの断章は、とても創造的であると言って構わない。そのアンビバレンツな事実の組み合わせが、読むものの心を締めつける。
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おっかなびっくり、おそるおそる読んでみた。なんでかっていうと、扉の紹介文なんかこうだよ。
「…孤独な生の断片をつらねたこの短篇集には、傷つき病んだ精神の痛切な叫びがうずまいている。自身の入院体験にもとづく表題作はじめ、出口なしの閉塞感と絶対の孤独、謎と不条理に満ちた、作家アンナ・カヴァンの誕生を告げる最初の傑作集」
うへぇ~という感じだが、「本の雑誌」でトヨザキ社長が絶賛してたのと、本のたたずまいがとても美しいのとで読む気になったのだった。
で、結局とても良かった。意外なことに読みやすい。確かにここにあるのは息の詰まるような閉塞感や孤独感であり、不条理な世界への悲鳴である。それなのに、なんとも静謐で独特の美しさに満ちている。あとがきにあったように、まるでガラス細工のようだ。うーん、これは是非長編「氷」を読まなくちゃ。こっちはSF寄りらしい。楽しみだ。
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静謐。静かな絶望。清潔すぎる部屋。私物のない館。見えない何かとの勝ち目のない戦い…
研ぎ澄まされた何かが密やかに内側に入り込んでいたことに気づく。
楽しい話とは決して言えないのに、読後感は悪くない。独特の世界観に惹かれる。
ダヴィンチで知った本。
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不条理。不安。不信。死。孤独。強制。絶望。静謐。そういう観点では、どの話もおおむね同じ。
その中でときどき見える、人の優しさ、(それは多くの場合求めても得られないが)
あるいは、何かの予兆と思われる赤い鳥、
などのもたらす、ほんの少しの安らぎと凶兆が胸を刺す。
なんともいえん読後感。
書店で手にしたときはなんという安っぽい装丁かと驚いたが、読むほどに馴染んだ。真っ白、真っ白。