紙の本
新しいミステリーの形
2018/02/20 22:36
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投稿者:melon - この投稿者のレビュー一覧を見る
通常のミステリーではなく、前半のミステリーのようでないところが後半のミステリー部分の伏線になっている。そして犯人を追い詰め真相に迫るのではなく、ミステリー要素がありながら、主人公波木の人間性(キャラクター)に迫るものである。これは新しいミステリーの形であり、非常に良くできた作品である。
前半の波木はとにかく真面目である。血液内科医として患者を積極的に治療し、そしてどんな相手であっても病気を治す意欲を失わない。少しベクトルは違えど『白い巨塔』の里見のように患者に向き合うタイプの医師であった。一方で曽根は研究一筋で、『白い巨塔』の財前とは違うタイプではあるが、野心家であることは間違いない。決定的なのは曽根は出世だけを考え周囲は道具のようにしか考えていない、そして出世のためには研究して論文を執筆する努力を怠らず、そして出世に関係ないと思っている臨床には無気力であるのに対し、波木は出世に関心がなく、目の前の患者を治療することだけに情熱を持った医師である。そんな波木が迷惑患者の堂本に積極的治療を施さずにすますところから人が変わってしまった。波木は暗黒な部分を溜め込みすぎてしまったのであろう。前半と後半のギャップが魅力的な本作。最初のエピソードである権謀術数家(マキャべリスト)の地元企業の社長の次男を助けたり、次のエピソードである免疫不全患者との約束であったりのときの波木の人となりと小説の流れが堂本のエピソードでがらりと変わる。このような人物は本来こんな大胆なことはできないはずなので、その点は現実の社会ではおかしさもあるが、小説としては非常に面白い作品であろう。
紙の本
ステルベンの意味
2013/07/23 23:23
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投稿者:破魔ちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
研修医の上あたりの奮闘記かとおもいきや、実は最後に・・・。こういう展開は予想できなかったのでミステリアスでびっくりでした。そういう意味で読んだんではないのがひっくり返ります。
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友人から借りた本。夏フェスのお供に。病院が舞台の本は普段あまり読まない。でも、割と楽しめたかな。学生時代【医療従事者は合法的に相手を痛めつけられる唯一の職業だ】と先生が言ってたのを思い出した。
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医療ミステリ。人の命を救う立場の医者だけど、その気になれば一番簡単に患者を殺せる存在であるのも確か。もちろんそんな医者がそうそういるはずはない、のだけれど……。
過剰な労働、無知な患者からの理不尽な要求、医者不信に患者不信、モンスター・ペイシェンスの暴虐。そういった数々の障害によって、有能で熱意のある医者がどんどん壊されていくさまが恐ろしくも悲しい作品でした。
医者は患者を殺せる。けれど、医者を殺すのもまた患者なのかもしれない。そんなことを思わされてしまいました。
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だんだんとエスカレートしていく患者の言動。いわゆるモンスターペイシェントに対しての担当医の反撃。けっして許される行為でないにしろ、医師に対して同情する気持ちもわいてくる。…しかし、医療行為で復讐するのは、やはり卑怯ではないかと思う。現役のお医者様が書かれているので、医療シーンがリアルで面白かった。
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よくある医療モノかと思いきや、そうでもない。
医者は人を傷つけたり命を奪っても罪には問われない、とかなんとか。言われてみればなるほど、と思える話。
モンスターペイシェントと呼ばれる面倒な患者にも真摯に向き合う医師が、崩れていく。
前半はとても面白かったのだけど、後半がいまいち。崩れてく瞬間があっけなく、そのまま罪を重ねていく。心がぽっきり折れる瞬間は確かにあるのだけど、なんか前半と後半で別人のようになってしまって、何だか残念な気持ちになってしまった。
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波木勇助は血液内科の医師として真剣に病と患者に向き合う日々を過ごしていた。しかし真摯な態度で診察をし、どうするのが患者のためになるのかと常に考えているにも関わらず、本人や家族にそれが全く伝わらずに逆に責められるようなこともあり、やりきれなさを感じていた。そして悪性リンパ腫が再発して入院してきた堂本市会議員が傍若無人にふるまい続けるのに対し、辛抱強く診療をし続けた波木も、暴力をふるわれついに限界を超え、自身の中に沸き起こった黒々とした気持ちを押さえきれなくなってしまう。
診療上での個人情報保護法や、モンスター・ペイシェントを題材とした作品である。いくら真摯に仕事をしていても、何かというと「誤診」やら「医療ミス」やら騒ぎたてる患者たち。患者本人の希望に添った治療や振る舞いをしていても、それを決して理解しようとしない家族たち。適度にガス抜きをできていればいいのだが、波木のように真面目な人間ほどためこんでためこんで、ある時を境に極端な方向にベクトルが変わり、狂ってしまう。もちろん許される行為では決してないのだけれど、波木には同情してしまう部分もある。同じく医療機関に勤める者として、似たようなことは多数経験済。私は波木ほど真面目でないので(笑)、ガス抜きはできているつもりだけれど、こういうモラルのない患者はどんどん増加傾向にあるので、こういう波木のような医療従事者も増えるんだろうなぁと思うとやるせなくなった。
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各章はそれぞれ面白かった。主人公の医師が犯罪を犯す動機がやや弱く、前半と後半で二つの物語を読んだ感じ。
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血液内科の医師・波木 勇助。
日々、の多忙な業務に忙殺されながらも、患者一人一人に向き合う真摯な医者であった。
しかし、彼が担当する患者は、問題を抱える者ばかり。
特に、市議会議員の堂本は、その際たる者。波木や看護師に執拗に絡み、波木らは疲弊して行く。
とうとう、波木の心に恐るべきアイディアが浮かぶ。そのアイディアとは?
第一章 皆殺しの病棟
第二章 患者不審
第三章 ドクターズ・ライフ
第四章 殺意の死角
第五章 毒か薬か
第六章 瞬間の回生
それぞれ独立した話ですが、連なる連作になっています。
教授選に絡むやり取りは、『白い巨塔』のようですね。
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主人公の内科医に感情移入してしまい、ラストがどうなってしまうのか本当にはらはらしながら読んだ。勝手な患者、勝手な医局員に振り回されるストレスは相当なものだと思うので、人としてあの選択肢は仕方なかったのかもしれないと思う。ラストが絶望にまみれたものじゃなかったことが本当に救い。