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藤沢さんの長編小説「海鳴り」の後編。
時代は変われど、どこの家にもある表からは分からない家庭の事情。心の溝を埋めあう男と女。
不倫物語といえばそれまでだが、不倫=死罪という時代に抗いながら最後に駆け落ちをする。
そこへ至るまでの流れを商売と男女関係をうまく描き導く藤沢さんに脱帽。人生後半に差し掛かった男が持つ老いと夢。深い作品。
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これは、傑作だ。今回も、藤沢周平の世界にどっぷり浸かってしまった。文品というのに、相応しい。新兵衛の心の中の、海鳴りが、今も聞こえる。
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【老いを感じる男の人生の陰影を描いた傑作長篇】心が通わない妻と放蕩息子の間で人生の空しさと焦りを感じる紙屋新兵衛が、薄幸の人妻おこうに想いを寄せ、深い闇に落ちていく。
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人生の後半に、家族、商い、それぞれに不和、陰り、と、深い悩みを抱える中、ふと訪れた「もしや生涯の真の同伴者かも」と思わせる人との出会い。迷いと困難の中で、逢瀬のときは重ねられてゆき、ひとときの幸福感の中にひたひたと近づく危機。後半は主人公の迷いや、悦びに共感しつつ、ドキドキハラハラと一気に読まされた。
ラストに広がるシーンは、いつまでも胸にのこるが、
少々もやもやする気持ちもあり。
人生の答えなどないのだから、このもやもやがいつまでも読んだ人の心に、物語のつづきを描かせていくのだろうと思う。
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「新兵衛は今夜、身体の結びつきが、そのまま心の結びつきであるような稀有な女にめぐり合ったようだった。おこうは、まるで新兵衛の心が読みとれるかのように振る舞った。時には従順にうしろから従い、行き過ぎれば後に戻って新兵衛を導き、最後の喜びを共にするまで、一瞬の間も新兵衛を離れなかったのである」
男女の結びつきにも相性があり、相性のいい相手と結ばれたカップルは充足感がある。またその逆の場合は、人生の喜びの一部を得ていないと言ってもいいのかもしれない。
物語は、心通わむ妻と放蕩息子の跡取りを持つ紙商人・小野屋新兵衛が主人公。
半生を生き、あとは老い果てるだけなのかとの思いを持つ新兵衛は、薄幸の人妻、丸子屋の女将おこうに果せぬ想いを持ち、やがて結ばれる。
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冷えた関係の夫妻子ある身ながら心通う人に出会うという設定は夢ですね♡でも泥沼から抜け出すのは自分達だけでいいってこと?なんだかスッキリしませんでした。いや、悪役は丸小屋とナントカ屋だけで、妻や子は決して悪いわけでなく、ただ自分とは合わなかったということが時代物ながら逆にリアルなのかもしれない。
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内容(「BOOK」データベースより)
この人こそ、生涯の真の同伴者かも知れない。家にはびこる不和の空気、翳りを見せ始めた商売、店を狙い撃ちにするかのような悪意―心労が重なる新兵衛は、おこうとの危険な逢瀬に、この世の仄かな光を見いだす。しかし闇は更に広く、そして深かった。新兵衛の心の翳りを軸に、人生の陰影を描いた傑作長篇。
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はじめての藤沢周平作品は、あまり得意ではなかった。期待値をあげすぎてしまったのかもしれないし、愛とかいうものに懐疑的な大人になってしまったのかもしれない。
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シリアスだけれども、最後はハッピーエンド。
といっていいのかどうかわからないけれども、現実的には、これが最善の姿なのだろうな。
当人たちにとってみれば、という但し書きがつくけれども。
そういう複雑な姿が、現実の社会の中で取りうるギリギリの解決の姿とあれば、藤沢周平ほどの作家であれば、架空の小説世界の中といえどもそう書くしかなかったはず。
それでも、ずいぶん主人公と「おこう」に心情を寄せて描いていると思う。初期のころだったらもっと突き放して冷酷に描いていたはず。
作品を最初から読んできたが、ここまできて、ずいぶん人と世間に優しくなったように思う。
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紙問屋小野屋新兵衛46歳と老舗の紙問屋丸子屋の美人おかみおこうとの静かに、秘めやかに、続けられる不倫の恋。秘密が秘密でなくなったとき、もうこの恋は終わりか、二人はどうなるのかとハラハラしました。ラストは著者の読者へのサービス精神でしょうかw。ハッピーエンドで良かったです。なにより、新兵衛と生きるんだと、腹を決めたおこうの明るさがいいです!
不義密通は死罪の江戸期、紙問屋小野屋新兵衛46歳と老舗紙問屋丸子屋の内儀おこうの(純なw)ダブル不倫の物語。さらに、新兵衛は二人を見てゆすりたかりの脅しをかける塙屋彦助の首を絞めて落し、死なないけど意識不明に。断崖絶壁に立たされた新兵衛はおこうに江戸を逃げると。「それじゃ、あたしも一緒に行きます。」川越経由小川村行きを、おこうの機転で千住から常陸の水戸へ。腹が坐ったおこうの明るさが読者の心に余韻を残すラストです。藤沢周平さんの粋な計らい。「海鳴り(下)」、2013.7発行、再読。
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証言がここまで効力があるのか…
なんの証拠にもなってないと思うけど…
人間って八方塞がりになったこういう時に殺意って沸くんだろうなぁと思いました。
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新兵衛を商いで追い詰めようとしていた黒幕が判明する。なかなか怖かった。手先の彦助が絶妙に嫌な奴で2時間ドラマっぽい。
新兵衛には自分の正しさに対する逡巡が常にあったような気がして、色々あっても家が幸福の源泉じゃないかと感じてもいたよう。いずれにしても悔いのない選択はしたんじゃなかろうか。周りは大変かもしれないけど。
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どんなに善良と思える人でも、後ろめたさを隠したいときや欲に駆られているときは間違いを犯してしまうものなのか。
他人からしたら、「普通に考えたらそれはおかしいでしょう」と
思うようなことが、現代も昔からも変わらないのかな。
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いよいよのっぴきならぬ関係となった新兵衛とおこう。
彼らの秘事を嗅ぎつけ、弱みにつけ込み何らかの企てを図る塙屋彦助。
彼らの思惑が相互に織りなし、サスペンスタッチな展開に。
そして、絶体絶命な立場に追い込まれた新兵衛の運命は。
書いているうちに、主人公の二人に情が移ったという著者が下した結末は・・・
優しい言葉使いと、品のある文体。藤沢周平の小説を久しぶりに堪能した。
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久しぶりの藤沢周平作品。
江戸を舞台にした初老に差し掛かった世帯持ちの
男と女の純愛物語。
初老と言っても、現代で言うところの感覚は、
40代をよりもさらに10歳ほど
年を重ねている人達を連想する。
老いと仕事と家族と愛の間で、
今まさに最後の人生の選択に迫られるかのような
重厚感のある大きな重石を抱えた主人公が、
どんな選択をするのか、読む手を止められなかった。
上巻は、物語が始まり主人公新兵衛の身辺が描かれ、
身のうちに舞い込むゴタゴタに、
少しずつ不穏さが追加されていく。
下巻では、重苦しい空気をずっと纏っているかと思えば、
意外にも力強く展開が動き出した。
個人的に感じたことは、こんなにも純愛と老いを
優しく清々しく描くことができるものなのかと言う
驚きだった。
主人公が異性で、私よりも年上だと言うこともさならが、
この純愛は不倫の上に成り立っている。
書き手や視点が違えば、いくらにもドロドロな愛憎劇にも
なるだろうし、初老の身から死に向かうことの恐怖や、
寂寥に駆られた寂しい物語になることもあるだろうに、
この小説は最後まで生き生きとしていた。
また10年後、今度はどんな感情を持つのか試したい。