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日本の中世(平安時代末~室町時代)までの時代に、人々がなにを求めたのかということをテーマにした本。『買い物の日本史』というから、貨幣史や流通史、市場経済の本なのかなぁと思っていたら、もう少し分野を絞ったものになっている。題名とは違って、語られているレベルもかなり高いし。
中世で最も人気が高かった商品はなにかといえば、それは「官位」と「極楽往生のためのお墨付き」の二つで、買官と寄進の二つが富を動かす力になっていた……というのは面白いのだけれど、正直に言えば、ちょっと取っ付きにくい部分もあった。それよりも、第一章と第二章、第九章などで語られる貨幣と市の現場と、第十一章の枕草子のような豊富なエピソードが面白かった。
ただ、面白さは別にして本書を読んで思ったことは、物々交換が基本の世界で貨幣が浸透していくことの難しさと、それでも行われる商取引の飽くなき欲望の二つだと思う。あと、中世になると朝廷や幕府が「権威販売業」のような感じになっていて、社会がそれによって成り立っているという不思議さを感じた。別の意味では、大金さえ払う能力があれば官位を買えるわけなので、その後の下剋上の幕開けを予感させるものであったとも言える。
しかし、この本を読んでみて思うのは、諸勢力が乱立している世界ではまともな経済発展というのはないのだなぁということ。それでも平和な時代であれば、少しずつ経済も発展していくのだろうけれども、「強力な政治体制」と「平和」の二つが機能しだした安土桃山時代から江戸時代に、現代の感覚で言う「買い物」の素地が固まったのは言うまでもないことだなぁと思った。
あと、官職と位階の相関が一目で分かる、官位相当表があるのは良かった。