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エネルギー問題の間違った解釈・勘違いは、これからの社会、人類文明の存続を危機にさらすことになる。「誤解」は、ある意味「無知」より悪いかもしれない。本書で化学的なエネルギーの見方をぜひ「新しいもの」として入れなおしてもらいたい。……ということで書かれた本である。
ではいったい何が誤解なのか。第1章の「大きな間違い」に始まり、エネルギー問題の構造、技術開発、今後などが、6章構成で語られている。「はじめに」の文中に、<多くの人が「初めて聞いた」「目からうろこが落ちた」と言ってくださる。>という言葉が出てくるが、はたして皆さんはどうだろうか……。
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世界中において、現在エネルギーは無くてはならないものになってきている。
そして近年日本ではエネルギー供給のため原子力発電に関しての話題があふれている。
しかし、それらの情報は正しいのか?正しい観点に基づいているのか?
例えば石油の枯渇によるエネルギー不足。
だが、実際それはありえないとしている。なぜなら、取出す技術が進歩しているため、今まで使われてきた量ぐらいは取り出せるから。
それよりも、エネルギーは必要な時に必要な量、供給されなければならないこと、供給速度に問題があるとしている。
等々、エネルギーやそれに関わることなど広い視点に基いて書かれている。
火力や原子力、太陽光等、方法は様々であるが、メリット・デメリットを精査し、どんなモデルが適しているかを考えるのが大切であり、そのためには正しい情報を得る必要があると説いている。
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題名にあるように誤解が沢山あることに気がついた.示唆に富む指摘が満載だが、まず枯渇年数についての解説が良い.枯渇年数とは、その資源がなくなるまでの時間ではなくて、その年に見つかった資源が使い始められるまでの長さの指標である.従って、この概念自体を問題にする必要はない由、また、エネルギーサプライチェーンの発想も良い.要はどのように運んでくるかが重要だ.原子力についても的確なコメントをしている.太陽光発電の「逆潮流」の指摘も的確だ.
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エネルギー問題の誤解いまそれをとく~エネルギーリテラシーを高めるために~ 小西哲之 化学同人
エネルギー問題を考えるときに大切な観点は、「①必要なタイミングで、必要な場所への供給すること=ロジスティクス。②エネルギーは発生から後処理までトータルで評価するべし=サプライチェーン。」と捉えて展開された一冊。説得力のある指摘が多かった。
ロジスティクスから考えたとき、大切なのは、
・総量ではなく、供給速度
⇒石油が中東に何億バレルあっても、エネルギーは必要なときに必要な場所へ供給できない。
⇒石油が、タンカーやパイプラインを使って、安価に安定して供給できることが大事
・供給速度の成長が大事
⇒需要の拡大に合わせて供給量が拡大すると、主要なエネルギー源となる。
経済成長している国はいつまでも薪を使っていられない。
伐採した森林が再度薪として使えるようになるには時間がかかる。
サプライチェーンの制約から考えるエネルギー
石油
82の図
発見にかかるコストが徐々に増加している。現在の方法で採掘できる石油が減少してくると、価格があがり、もっと発見コストを掛けられるようになる。石油は、地球全体で見るとまだ半分は残っているので、まだ採掘は可能。技術の進歩と価格高騰に合わせて、採掘可能な分が増えていく。
石油が主要なエネルギー源として広まった理由は、液体だから運びやすくて、エネルギー密度が高いから。これらの理由を考慮すると、固体を液体にしたような燃料は広がると予測される。(GTLやバイオマス燃料を液化したものが広まりつつある)
日本エネルギー25%が運輸。うち、96%が石油。電気自動車、水素とかに移行が進むなと、エネルギー消費の下流で石油利用縮小圧力がある。
また、後処理としてのCCSは有望だけど、二酸化炭素処理方法と場所の問題が残る。
石炭
産出国消費がメインのエネルギー源。全産出量の16%だけが輸出にまわっている。事前に不純物を除去できず、エネルギー利用後の資源とコストが高いため、産業以外で先進国では使われてない。
いまだに石炭を採っているのは、大規模機械化に成功しているオーストラリアと、低人件費国であるインドネシア、インド、中国のみ。また固体なので輸送が手間で、ロジスティクスを考えたときに、ネックになる。
ガス
基本的にパイプラインで輸送されるため、輸送が簡単。
また、二酸化炭素の排出が少ないこともあり、しばらく主力になると思われる。
太陽光
無限にある太陽光エネルギーをエネルギー変換効率で評価しても意味がない。制約条件となるのは、太陽光パネルを設置する土地や、パネルの原材料であるシリコンの供給。
また、太陽光エネルギーの製造には、パネルが生み出す10~20年分のエネルギーを必要とする。それ以上の期間使えないと、パネルを作る意味がない。
日本特有の事情で考えると国土が狭い、設置できるところが少ないのが、サプライチェーン上の最大の問題。
風力発電
変��大きくて、発電量が風任せ。必要なときに必要な量を提供しにくいことが課題。
バイオマス
コンセプトはよい。無駄になるはずのエネルギーや、持続可能なものを燃料として活用して、エネルギーとして回収できるから。但、燃料となるゴミの輸送や、バイオマス燃料の育成に大変なエネルギーとコストがかかる(または食料栽培とどちらを優先するか判断が必要になる)ため、今のままではメインのエネルギー源にはなれない。
水力
世界を見ると、まだ開発余地もある。揚水発電であれば、エネルギー貯蔵手段としても活用できるため、再エネが拡大して負荷調整の必要性が高まっている現在の電力環境にも適合する。
但、水力発電に必要なダムを建設するときには、山を崩し、村を埋没させてコミュニティを壊し、工事の過程で命の犠牲が出ることが多いという事情がある。また、土砂をせき止めるため、国土が海に侵食されていくという要素も、水力発電のデメリットといえる。
ばんきょうダむ事故
電力貯蔵
電力貯蔵の装置は、自らエネルギーを発生する能力はないが、ロジスティクスの観点から非常に重要なもの。すぐに頭に浮かぶのは蓄電池だが、現在存在する大規模で普及している電力貯蔵の方法は、揚水発電。確かに。
先進的な電力貯蔵の方法としては、大型超電導コイルに電磁エネルギーを蓄えるものがある。今は高価過ぎて使われていないが。ちなみに、この技術を、SMESというらしい。https://www.toshiba.co.jp/tech/review/2004/02/59_02pdf/rd03.pdf
エネルギーシステムについて
どのように発電方法を決めていくのか。発電するための運営・建設・後始末コストを発電量で割ったもので決定するわけではない。
それぞれの特徴は、以下の通り。
原子力は、炉もタービンも、なるべく一定の出力で動かすことが望ましく、設備費比重が高く燃料費が少ないため、ベースロードとして活用される。石炭も、出力調整がしにくく、燃料費が安いので、ベースロードとして活用されることがいい。石油や天然ガスは、燃料費が高く、火力調節での発電量変更ができるため、昼間の負荷に追随した運転を行う。但、2%/分くらいの変動しかできないし、発電しなくても、常に一定量の燃料をも燃やし、ボイラーなどの温度は高く保つ必要がある。一方水力は、ただバルブの開け閉めをするだけで需要への対応が高速にできる。
エネルギーシステム全体を維持するためには、さまざまなタイプのコストがかかってくる上、安定供給と環境への配慮もしなければならない。
このようなさまざまなことを考えて、発電方法は決まっている。
水力は、緊急的に負荷を上げることができるので、燃料費はタダだが使い続ける訳にはいかない。放水する水がなくなってしまうから。太陽光や風力はまだコストが高いから、コストだけ考えると使いたくないが、環境を考えると最も使いたいもの。だから、どの発電方式が安いからそれが普及する。というわけではなく、エネルギーが消費者に届くまで、トータルとして最安値になるように。
165pの図
世界の20%の人が電気を知らず、40%の人が薪や家畜のフンで調理をしている。これから世界の国々が成長していくと、エネルギーの需要がまだまだ増えて��く。固定電話ではなくスマホがいきなり浸透したように、世界でエネルギー需要が広まっていくときには、そのとき最先端の機器が導入されていく。
これまで、「大規模発電所⇒大規模グリッドの集中管理⇒消費者」だったが、これから工場が建ち、年が育つとき、必ずしも大規模グリッドが整備されているわけではない。また、最初から小規模の電力制御技術が使えるので、中小規模でのグリッドが多数存在し、それぞれが基本は独立しながら電力を融通するような姿になるかもしれない。
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エネルギー問題というのはみんなが違う土俵かついろんな焦点で話をしていて、たいてい平行線、というか話が噛み合わない。
客観的に問題を考えてみよう、という本。
よく、原発は事故コストまで入れると高い、なんていう話をするが、発電コストというのはどこからどこまでを含み、どの部分が高いのか、なんてあまり考えたことがなかった。一次エネルギーを掘り出すところなのか、運ぶところなのか、燃やすところなのか、廃棄なのか。
そういう視点で見てみると、自然エネルギーというのがいかに既存システムに組み込むのが難しいものかもわかる(僕は組み込まないで使え派ではあるが、投機的にはそれは歓迎されない)。
「エコ」という名の思考停止、という項目がある。僕はエコという言葉は使わないが、振り返ってみると、ベストミックス、という言葉で思考停止していた感がある。どのぐらいがベストか、なんて精査したこともないし、そういう資料にあたったこともない。感情でエネルギーを語る人が多いようでいて、実際の政策・投資はまったくそんなことになっていない。どうしてそうなるか、ということを考えるのにもよい本ではなかろうか。