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『手放す生き方』の続編となる一冊。
現代の阿羅漢と呼ばれるタイ出身の長老、アーチャン・チャー師の言葉が、彼の弟子ポール・ブレイター氏によって編纂されています。
英語タイトルが「everything arises, everything falls away」
まさに「無常」を説いた一冊です。
仏陀が説いた道をたどり、彼の教えを自分の言葉で語るチャー師。
仏陀の教えは、時に遠く困難な印象も受けますが、それを師は、時にユーモラスに、時に皮肉を込めて自分の言葉で語っており、聞く者の心に響くものとなっています。
仏教に身近な日本人にとっては、その教えはかなり耳馴染みが良く、理解しやすいものですが、仏教に触れたばかりの欧米人にとっては、その教えのどれもが斬新で驚きに満ちた
発想なのかもしれません。
師と弟子のやりとりは、仏陀とその弟子のように形式的に仏典化されたものではなく、リアルなやりとりが伝わってきます。
もはや超人的な立場にいる師ながら、やはり修業を重ね、煩悩と闘いぬいてきたことが彼の言動からわかるため、彼を慕う弟子がひきもきらずに集まる理由もわかります。
修行と瞑想による悟りへの道を説く師。
そこへ至るまでの厳しい道のりの説明も忘れません。
また、修業を重ねることで、一般人との感覚の差が広がっていくことにも言及しているのが、真新しいと感じました。
悟りを開いた人は、世間の人々を無知な存在だと感じ、世間の人は悟りを開いた人を、無反応な人物だと感じる点です。
宗教人は、世間の常識とずれがあることは否めず、そこをどうならし、相互理解を目指していくのか、かねがね気になっている点です。
やはり、その道の先達者に、迷いも困難も理解してもらった上で導いてもらえることが、その道を目指す者にとって何よりの力となるのでしょう。
氏は森林内の寺院で瞑想修行を続けていますが、かつてはタイの国土の70%が森林で覆われていたところ、今では森林伐採が続いて10%程度に減っているとの記載もありました。
そのことで、長年続けられてきた森林僧院の伝統が脅かされる可能性も、指摘しています。
すべてが移ろいゆくものだというのは仏教の教えですが、森林寺院の伝統が変わるのは、なにか大きなゆらぎが発生するような気がしてなりません。
全ては無情であり、変わりゆくもの。
その考えを基軸として様々に発展する師の言葉は、例えを用いてわかりやすく、時に厳しく、時に突き放すものではありながらも、仏教徒ではない人にも強く語りかける力を持っ
ています。
やはり優れた宗教家は、その生き方そのものと含有を含んだ言葉が、迷える人々を導いていくもの。
全編を通じて、星氏の翻訳による、きれいで詩的な文章にまとまっています。